第29話 南の英傑初訪問
“南の英傑”の館に着いた。
手筈通り、グラーシュを先頭に入ることにした。
門のすぐ内側にある守衛所からゴツイ衛兵が、出てきた。
なんだか物々しいな。
「見ない顔だな。何の用だ!」
「お仕事を貰いに来ました。何やら大きな仕事が入ったと噂を聞きましたので。」
「ふん、そういうことか。」
「カードを見せろ!」
「まだ登録は済ませていませんので、持っていません。」
「なんだぁ?ど素人かぁ?」
「失礼な人ですね・・・。」
グラーシュがイラっとし始めた。
やば、あわてて、グラーシュの服の端を、ちょこっと引っ張ってみる。
こちらを見て落ち着いたみたいだ。
良かったぁ。
グラーシュは美人さんだけど、結構血の気が多いのね。
それとも今日は虫の居所が悪いのかな。
普段俺と接してくれているときはそんな雰囲気が無いから、焦ったわ。
「高名な“南の英傑”さんにて、是非お役に立ちたいと思ってまして、勉強不足のところはひたむきに精進いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
グラーシュの丁寧な言葉に気を良くしたのか、下から舐めるようにグラーシュを見て一言。
「まぁ、いい。ついて来い。」
結局、物腰の柔らかい美人に弱いんかい!
俺もそっち側だから、気持ちは分からんでもないけど・・・。
しかし、このギルドがずっとこの調子だと、骨が折れるぞ。
・・・
だだっ広い正面広場を通って、館に入った。
館の中は、人で溢れかえっていた。
受付も増員して対応しているようだ。
カウンターの中だけではなく、カウンターの外に出て対応している。
「いらっしゃいませーっ!」
女性が声をかけてきた。
「活気がありますね。大きな仕事でも入ったんですか?」
つい口を出してしまった。
やば。
グラーシュを見ると、どうぞどうぞと言わんばかりだ。
それならそれで。
「そうですね。人数が必要な仕事が入りまして。」
「こいつらは、まだ登録も済ませていないド素人だ!」
なんだ、衛兵まだ帰ってなかったのか。
取り次いでくれるのは嬉しいけど、もうちょっと丁寧に対応できんのか。
「そうですか・・・でも、状況が状況で・・・。この依頼に参加して頂けるなら、鑑定や実技試験など無しで、名前だけ頂ければ登録を受け付けます。」
なんか・・・相当困っているようだな?
「どうせ、死んじまったら、鑑定とかしなくて済むもんな。」
「そんな言い方は、止めて下さい!」
「はい、はい。じゃ、俺は職場に戻るわ。」
口を挟む衛兵を女性職員が制止し、衛兵は、ばつが悪くなったのか去っていった。
鑑定手続き無しってのは有難いけど、昨日の公立ギルドの登録の手続きを知っているから、後から鑑定されることが予想できる。
「すいません、何の依頼が来てるんですか?」
「え?ニュームス見てないんですか?」
「ははは、すいません。」
「はぁ。オーガとゴブリンの討伐ですよ。ちょっと立て込んでますので、申し訳ないですけど、この募集要項を御一読して、参加するかどうかを決めて下さい。」
「分かりました。募集期限は?」
「今日までです!」
「今日!?」
滑り込みセーフだな。
とにかく、募集要項を読まねば。
えーっと、なになに~。