第22話 力と覚悟
「ここは、そういう世界なのよ。」
「あなたは輩を逃がしてあげたけど、輩をいきなり切り殺す人だって居るわ。」
「え?」
「ただ、そんな危ない奴は、人の中で生きていく事が難しいだろうから、いずれ、淘汰されるかもしれないけど。」
「・・・」
「仮に、あなたが、輩を切っても、その輩が切られて当然な奴だと周りが思っているなら、あなたが人の輪から出されることは無いのよ。」
「過激ですね・・・。」
「逆に、自分から見て悪く見えるから攻撃したのに、周りはそう思ってなくて、あなたが取り残されることも有るかも。」
「そうなりますか・・・。」
「なるでしょうね。その場合は、その場が、そういう小さな社会を作っているって事よ。」
近い所で言うと“業界のルール”ってやつに近いのかな・・・。
「居辛いなら、出ればいい。出た先でまた1つずつ自分の居場所を作ればいいのよ。」
「話が脱線しとるぞ。」
「あら、ごめんなさい。」
「少しは、自分で力を振るう気になったか。」
「はい・・・。」
「まだ、納得しとらんのか!」
「話して分かる相手なら、話せば良い。話して分からないなら、話以外の相手の分かる方法で伝えれば良い。」
「・・・」
「そして、この世界は、共通言語が“力”って事じゃ。交渉の為にお前さんが見せた“力”が理解されないなら、交渉決裂じゃ。」
「決裂しちゃったら?」
「あとはお前さんの守りたいものを守るために“力”を使えば良い。」
「そんな・・・。」
「安心せい。相手に守りたいものがあるなら、お前さんの“力”と自分の力を冷静に比べて、態度を変えるじゃろう。」
「態度を変えなかったら?」
「そんなこともできないなら、この弱肉強食の世界で生き残る資格はないという事じゃ。」
「そうね、ただ、注意なさい。弱肉強食は力の弱いものが力の強い物の糧になるという事だけど、力は腕力や体力や魔力だけじゃない。わ。」
「え?」
「知力かもしれないし、胆力かもしれない。要するに、生きる力、活かす力・・・総じて“生活力”が試されているのよ。」
「そうじゃな。」
「それを誤解して、力の弱いものは全て強いものに屈するべきで、強い物の糧になればいいって考えているおバカさんもいるみたいだけど。それは、いずれこの世界の“輪”から外れるわ。」
「この世界の弱肉強食は、すんごい絶妙なんじゃ。それに自分で考えて、考え抜いてから力を使うという姿勢では緊急事態に対応できんぞ。」
「・・・」
「余計なことを考え抜かないで、この弱肉強食の世界で、自分らしく生き残るために、必要なもの、守りたいものことを考えるんじゃ。」
「・・・」
「そして、力を使った後にどのようなことになっても向き合うんだという覚悟を持って、躊躇なく力を使え。」
「異種交配が存在すること、生命力(生活力)が物を言う弱肉強食であることは、この世界の新しい可能性を絶やさないことを願って、この世界を創造した者が組み込んだものなのかもしれないわね。」
「だとすると、俺はその可能性に寄与するために、力の行使をした方が良い?」
「そうね。この世界の創造者は行使できない力に裏付けられた生命よりも、実践される力に裏付けられた確かな生命が、この世界の新たな可能性を形にするって考えているでしょうから。」
「・・・」
「それに、あなたは、最強の力を持っているじゃない?」
「その自覚は無いですけど。」
「話は最後まで聞きなさい!」
「はい。」
「最強のあなたなんかより、生活力の点で、もっと優れた存在がこの世界のどこかに居るかもしれないわよ。」
「そうか・・・。」
「少しは、分かったか?」
「なんとなく・・・お二方の仰っている事は、なんとなく分かりました。」
・・・
「おじいさん!」
「なんじゃ、急にっ!ビックリするじゃろ!」
「光の粒子の使い方で教えてもらいたいことがあります!」
「おぉぉ!」