第21話 転生世界での自覚
「まずは、私立の一般ギルドに行ってみて、魔物退治を受注した人に、お手伝いで同行してみたいって思ってます。」
「なるほど・・・。でも、そんなに都合よくお手伝いさせてもらえますかねぇ」
「多分、大丈夫。・・・なんとかする!・・・ってか、なんとかなる!」
最悪の場合は、お金を払って見学させてもらう・・・ってのは、ちょっとカッコ悪くて言い出せなかった。
でも、机上の空論ではどうにもならないことってのが、往々にして有るんだわ。
体験できることなら体験して、参考にしたい。
大丈夫、お金は後から稼げばいい!
今は先行投資の時期なんだ!
「という訳で、明日は朝早くから出発します。私立の一般ギルドは、ここからだと遠いから、チェックアウトして、馬で行くよ。」
「はい。」
「それでは、解散。今夜は良く休むように。もしかすると、そのまま魔物退治って事もあるかもしれないからね。おやすみ~。」
・・・
・・・・・
気が付くと、いつもの白と黒の空間に居た。
「分かっているのかしら?」
「多分分かってないと思うぞ。」
後ろから、先生とおじいさんの声が聞こえた。
振り返ると、二人とも怪訝そうな顔をしている。
「いきなり、どうしたんですか。」
「お前さんに足りないものがあるんじゃ。」
「何です?」
「実践よ。」
「お前さんはスキルの習得に前向きじゃが、実践しとらんじゃろ。」
「怖いの?」
言いたい放題ですね。
「輩に絡まれたときも、ノームに取り付かれたおっさんに襲われたときも、自分では何もしとらんじゃないか!」
「怖いんでしょ?」
・・・
「なんか、自分の中で正当化できていないんですよ。だから、力の行使に躊躇してしまって。」
前世は安全な日本に生まれ、お金が無くて海外旅行もできずに、危険な場所も好きじゃないから、近寄らなかった。
そんな俺には、ノームに取り付かれたおっさんに襲われているときでさえ、躊躇していた。
「この世界はお前さんの生まれ育った世界とは違う。弱肉強食なんじゃ。淘汰される側を可哀想と思うのは勝手じゃが、お前さんが淘汰されるのも是認できるのか?」
「・・・」
「この世界で、“弱肉強食”がまかり通っているのは、そうすることで生命力のある逞しい存在が生き残って、生き物として向上することを良しとしているからじゃ。」
「それは別に、五体満足である事が最低条件って言ってるのではないわ。この世界では異種交配がある事は分かってるわよね。」
「グラーシュがそうだから、分かっているつもりです。」
「いえ、あなたの理解は不十分かもしれないわ。」
「え?」
「異種交配の結果が全て完全な子供に繋がると思う?」
「あ!」
「そうじゃ、そもそも生を受けられない場合もある。生を受けても五体不満足な場合もある。」
「そこに、悪い精霊が漬け込んで来たらどうなるかしら?」
「・・・」
「お前さんも、今はこの世界の一員じゃ。つまり、弱肉強食の渦中に居て、生きる力を試され、試す側の一員でもある。」
「さっきも言ったけど、五体満足でなくても、この世界で生き残る“生命力”があれば、生き残った方が良いわ。新しい可能性なのだから。」
「なにも、生命力は体力や魔力とは限らないでしょ。言い換えるなら、生活力かしら。」
「例えば、腕が無くても、足で戦うことも有れば、どうじゃ?」
「戦わずに、周りと共存するために自分にできることをして、役立つことで自分の居場所を作ることだってできるでしょ?」
「それに、協力的な精霊に取り付かれれば、一般人よりも生活しやすいこともあるじゃろうな。」