第16話 王都南端集落
南の市街地の南、つまり王都の南端の集落に着いた。
赤と金で装飾された仰々しい門が立っている。
ここまで見てきたカンタや王都の東の市街地は、木造で、装飾は白と黒という質素な様相だった。
だから、それがシーデリアの基調なのかと思っていただけに、この門の存在は異様に見えた。
仰々しい割に、衛兵らしき人は見当たらない。
単に、“ここから先は違う場所なんだ!”っていう、雰囲気作りのための門なのかもしれないけど・・・。
「グアン村?」
看板まで仰々しい。
それ故に、どんなところなのか楽しみになってきた。
門の向こうに見える景色も、一風変わっている。
建物は、いずれも赤と金の装飾がちりばめられていて、統一感がある。
後ろを振り返ると、グラーシュも物珍しそうに、先に広がる集落を見ている。
アルディは・・・怒ってる?
え?
なんで?
近づいて見直しても、怒りで顔が赤くなっているように見えた。
「どうしたの?」
「お願いがございます・・・。」
お願いって、そんなに怒ってするもんじゃないでしょ。
「お願いって、何?」
「ここに居る間は、・・・召喚を解いてもらえないでしょうか。」
怒りでプルプル震えてるじゃん。
とても訳を聞けるような雰囲気じゃなさそうだし・・・。
周囲に、人は居ない!
今しかないね。
「了解。またあとでね。」
「御意。」
アルディとネロアの姿が光の球になり、俺の体に入った。
「あれ?どうしたんですか?」
気が付いたグラーシュが駆け寄ってきた。
「なんか、嫌みたいよ、ここ。」
「そうなんですか。」
「まぁ、無理強いしないのが俺の主義だから、ここを出たらまた呼ぶよ。」
「・・・」
「ちょっと心細いから、すぐ呼びたいし、食料品の買い物を早く済ませよう。」
「はい!」
・・・
・・・・・
集落の中心地に着いた。
メインストリートが2本垂直に交わっていて、メインストリートの両脇は、全て食料品か飲食店だ。
とにかく活気にあふれている。
活気に紛れて、口喧嘩も有りそうだ。
乾物専門店、生もの専門店、焼き物、お土産、八百屋、魚屋、肉屋、調味料屋、酒屋・・・・ありとあらゆる種類の店が並んでいる。
グラーシュは見るものすべてに興味を持ってしまって、全く買っていないのに、ずいぶんと時間を使ってしまった。
このまま任せていると、今日はこのエリアで宿泊になってしまいそうな気配だ。
「グラーシュ、ごめん、ここであんまり時間を費やすわけにもいかないんだよね~。」
「あ!すいません。」
「お互いに、気になった物で、調理ができそうな物を1つだけ買おう。どう?」
「はい。」
「それじゃ、先にグラーシュね。」
グラーシュについていくと、漬物屋に入った。
俺は馬の番で店の前で待っていた。
何を買ってくるのかと思ったら、漬物の詰め合わせだった。
「それは、“1つだけ”なの?」
「ダメですか?・・・」
グラーシュなりに頭を使った結果なんだな。
それなら無下にもできない。
「いいよ!」
・・・
俺は、酒屋に寄った。
グラーシュに馬の番をさせて、入店。
色々と気になるものがあったが、麹系のお酒を買ってみた。
現世の日本酒とこの世界のでは、どう違うか気になったからだ。
もちろん、グラーシュの真似をして、3本詰め合わせを買ってみた。
「あー!」
「へへへ、“1つだけ”だよ~。」
買い物を済ませて、2人で笑いながらメインストリートを進むと、どでかい建物にぶつかった。
「何の施設でしょう。」
「ん-、何だろうね。」