第7話 人の都合と森の都合
「グラーシュに頼みたい事は・・・」
「事は?」
ぐいぐいグラーシュが近づいてくる。
香ってくるいい匂いで、クラクラしそうだ。
「グラーシュ・・・近い、近い。」
「あ、ごめんなさい。」
距離を取って冷静さを取り戻してくれたようだ。
「あのね、グラーシュは“鑑定眼”を身に付けたでしょ?」
「はい。」
「グラーシュは土属性を持っているって分かったよね?」
「はい。」
「土属性の精霊はノームって言って、悪いノームは人に取り付いて悪さすることがあるんだ。」
「この前の、朝の散歩の一件ですね。」
「そう。だから、グラーシュのする周囲の警戒は、その“悪いノーム”を対象にしてもらいたいんだけど、出来そう?」
グラーシュが辺りをキョロキョロ見始めた。
「たくさんいますね。」
「たくさん!?」
「そこら中に。」
「そんなに悪いノームに囲まれてるなんて思いもよらなんだわ。」
「あ、すいません。“悪いノーム”かはよく分からないです。ただ、ノームは沢山います。」
「そういうことか。」
悪いか悪くないかは置いといて、あのちぃっちゃいおっさんに囲まれて監視されていると思うと・・・あまりいい気分じゃないな。
「なんかこっちに干渉してきそう?」
「いえ、静観しているように見えます。」
あれ、もしかすると、俺が伐採して吸収した木にもノームが付いていた?
でも、そうだとすると、先生に怒られているか・・・。
「よし、次に移動しよう。」
・・・
・・・・・
2本目の前に到着した。
道中もノームは静観しているだけだったらしい。
「さて、2本目はこれだ。グラーシュ、この木にノーム居る?」
グラーシュが対象の木を確認した。
「居ますね。こっちの様子を見ています。」
切るよって・・・伝えれないよね。
「そのまま観察しててね。」
俺が吸収するために、幹に接触した。
「あ!」
グラーシュが声を上げた。
「どうした?」
「ノームが逃げ出しました。地面に降りる者や他の木に避難している者がいます。」
そうか、そうだよね。
そうと分かれば、気兼ねなく伐採できる。
ただ、ノームには嫌われそうだな・・・。
どうせ、管理人は俺の伐採作業を正確に把握はしない。
それなら、伐採対象は、ノームの少ない木にするか。
・・・
・・・・・
3本目の前に着いた。
随分と大きな木だ。
「グラーシュ、この木は?」
「ノームが沢山います。」
ん?
「周りの木は?」
「・・・ノームがほとんどいませんね。」
なるほど。
「そしたら、管理人さんには悪いけど、周りの木を頂いちゃおうか。」
「え?良いんですか?」
「いいんじゃないかな。多分。」
「ノームのいない木を教えて!」
グラーシュが、周囲の4本の木を指さした。
指を差された順に吸収した。
切り株が残るとバレるので、残った切株を根こそぎ吸収した。
吸収後には、4つの穴が出来てしまった。
このままにするってのは、流石にマズいよな。
「さてと・・・、力仕事ですよ。」
「え?」
「御意。」
スコップを光の粒子で3本成形して、手渡し、穴埋め作業に取り掛かる。
無事に完了したら、スコップを回収し、光の粒子に変えて自分の中にストックした。
「それで・・・周囲のノームの様子は?」
「なんだか、喜んでいる様子です。」
このデカい木は、精霊にとっては大切な存在だったんだな~。
縛られている縄だけを吸収した。
最後に管理人に申し送りしておくか。