第6話 森の狸
「切らなければならない木には、すでに目印が付いています。」
「どのような目印ですか?」
「分かり易くするために、幹に縄を縛り付けてあります。」
「なるほど。」
「毎年末、見回りして、縄を縛り付けるんですよ。」
「なるほど。」
「お恥ずかしい話ですが、手つかずの期間が長いものほど、縛り付けてある縄の数が多いです。」
「縛り付けてある縄の巻き数が多いものほど、切らなければならないって事ですね。」
「はい。」
「およそ、どのくらいありますかね。」
「100本以上じゃないですかね。」
「100本以上!?」
全部やるとなると、普通であれば、10日以上は必要になりそうだな・・・。
俺がやれば1日で終わりそうだけど、そんなことしたら、目立ってしまう。
俺・・・、いつまでカムフラージュしなきゃいけないんかな。
「とりあえず、3日分の追加宿泊の許可を頂けますか?」
「3日で全てやってくれるんですか!?」
「全部なんて・・・。この後の私のスケジュールも有るので、3日だけお手伝いしようかなとも思いましてね。」
「分かりました。」
「すみませんね。」
「いえいえ、全くやっていない私がいけないんで、3日間もお手伝いを頂けるだけでも本当に助かります。」
「では、早速作業に当たりますので、失礼します。」
・・・
一旦ログハウスに戻り、伐採作業に必要な装備をして、いざ散策!
この森林公園は、1km四方のほぼ平地だ。
そして、針葉樹だらけ。
なんか居るだけで鼻がむずむず、目がシパシパしてきそうだ。
秋に来てよかった。
まずは、光の粒子を展開して、対象の木の場所を確認してみますか。
・・・
は!?
どこが100本だ!
桁が一つ違うぞ!!
あんの、狸おやじ・・・。
作業を3日間に限定しておいて良かったわ。
・・・
ってか、そんなもんか。
上司に手伝いますよって申し出ると、だいたい言われた数より多かったりしたっけ。
ホント、どこに行っても同じようなことがあるんだな~。
これだけ切らなければならない木が存在しているにもかかわらず、管理人がそれを正確に把握していない・・・。
切った分だけ、管理人としては都合が良い・・・。
考え方を変えると、こりゃあ、大量仕入れのチャンスだ!!
やっぱり、物は考えようだな~。
俄然やる気出てきた。
・・・
・・・・・
1本目の前に到着。
「ルラン様、これ・・・」
グラーシュの言いたいことは分かった。
だって、縄が10本も縛り付けられているんだもん。
これだけ広い森林公園で、見た目のよく似ている針葉樹ばかり生えていたら、毎年間違いなくチェックできていると考えるのは難しいから・・・。
「残念が柄、最低でも10年は放置したって事になるね。」
あの管理人、何をやっとるんだか。
早速作業に移った。
といっても、俺が根元を触るだけ。
触った場所の幹が俺に吸収され、支えを失った木は垂直に落下するが、落下先は俺のゲートの中。
あっという間に伐採は終了。
これは伐採とは違うか・・・。
「これで、1本終わりですか?」
グラーシュが呆気にとられていた。
そうか、俺の伐採作業を見せるのは、初めてだったっけ。
「そうだよ。」
「私は何を手伝えば宜しいですか?」
「アルディと手分けして周囲の警戒をしてくれるかな。」
「分かりました。」
「そんなに気を張らなくてもいいからね。」
「え?」
「グラーシュにはアルディとは別に、試して貰いたいことがあるんだよ。」
「私に?何ですか?」
目を輝かせて俺を見てくれるけど、参ったな。そんなに凄い事じゃないんだよね・・・。