第7話 ダガーの見直し
おじいさんは、すぐにフクロウを呼び寄せてモフり始めた。
もうモフモフ中毒患者なんじゃないか。
モフモフが素敵な時間なことは、よくわかるのだが・・・。
おじいさんの過去に何かあったんじゃないかと、勘ぐってしまうほどだ。
一方で、先生も・・・
ん?
先生はさっきのお楽しみで十分だったのか、蛇とじゃれる様子が無い。
「どうしました?」
「あなた、ダガーの確認はしなくていいの?」
そう言われてみれば、まだ俺はこれを振るった事が無い。
よく切れて便利と、グラーシュとアルディから聞いてはいるけど・・・。
「そうですね。いい機会だから試しておきます。」
俺のナイフは光の粒子製のダガーで、刃渡りは20cmの両刃タイプ、片手で振るタイプだ。
とりあえず試し切りからかな。
目の前にストックしていた木材を用意して、切りかかってみた。
木材の節目なんて関係なく、抵抗も感じることなく、一刀両断に出来た。
これを、あの二人は“よく切れる”の一言で済ませていたのか・・・。
「よく切れるわね。」
先生が一言ぽつりとつぶやいた。
ここにも、居たわ。
「これでいいの?」
「え?いいんじゃないですか?」
「切れ味の話じゃないわよ。」
「何の話ですか?」
「刃渡りよ。」
「どういうことですか?」
「刃渡りが20cmなら、相手の考えるあなたの間合いは、いいところ、手を伸ばして半径1mくらいかしら。」
「・・・」
「踏み込みもあわせて2mくらいね。」
「そのくらいですね。」
「あなたがそれを抜いて切り付けるときは、必殺の時よね。」
「そうですね。」
「つまり、必殺で踏み込む場所は、相手の射程である可能性が非常に高いわ。例えば、あなたの相手がサーベルを持っていたら、どうかしら。」
「!?」
「あなたが必殺のつもりで切りかかるとき、同時に自分も必殺される場所に身を置くことになるわ。」
「・・・」
「武人としては良い覚悟かもしれないけれど、あなたって・・・とても武人には見えないのよね。」
「ははは。ご心配ありがとうございます。確かにおっしゃる通りです。」
改めて、ダガーを手に取り・・・
そっか、これ、俺が光の粒子で成形した武器だ。
しかも、念ずるだけで成形ができる。
それなら・・・。
「これでどうでしょう。」
3メートル離れた場所に木材を出現させて、ダガーで横切りをする。
このままでは届かないが、切る際に刃渡り3メートルをイメージする。
ブンッ!
俺を中心に半径3メートルの斬撃が生れ、木材を一刀両断にした。
「凄いじゃない!」
「いえ、まだです。」
もう一回、同様の距離に木材を出現させる。
ブンッ!
今度は木材に当たる瞬間だけ刃渡りを3mにして、一刀両断にした直後に刃渡りを元の20cmに戻した。
「おぁ!それはイイわ、サイコーじゃない。」
確かに、これは使える。
「長さはどのくらいまで伸ばせるんだろう・・・。」
「私が知るわけないでしょ。」
そうだった、これは光の粒子で作ったダガーだ。
聞くなら、おじいさんだった。
それにしても、よく切れる。
どうしてこんなに切れるんだろう・・・。
「いろいろ気になることがあるようだから、そこのモフモフジジイに来てみたら?」
「おじいさん!」
「聞いとったわ。いくらでも行けるぞ、お前さんの持っている光の粒子の分だけ。」
「足りない分を周囲から回収しながら伸ばすのは出来ますか?」
「できるじゃろうが、周囲が暗くなるという点と、伸ばすのにタイムラグが生まれるかもしれんぞ。」
「一瞬を争う状況で、タイムラグは痛いですね。」
「そうじゃな。まぁ、多分・・・」
「では、明日の朝、たっぷり光の粒子を回収しておきます。」
「たっぷり?」
「ちょっとぐらいこのホテルの周辺の夜明けが遅くても、違和感はないでしょ?」
「がはは、武器を得て、なんだか逞しくなったような気がするな。」
「おじいさん、ありがとうございます。」
「ちょっとぉ、ダガーの試験もって言ったの、私なんですけど。」
「そうでした。先生も、ありがとうございます。」
「どういたしまして。・・・そうだ。私の蛇も遊んであげてよ。」
この流れでは、蛇は触り慣れていないからって断れない・・・
仕方ない。
「そうですね。では、ちょっとよろしいですか。」
すると、先生の右脇から蛇が顔を出して、先生の体を這い始めた。
蛇なんて触ったこと無い。
巻き着かれて、噛まれるんじゃないか?
恐る恐る手を伸ばして、蛇の体に触れてみる。
ん?
蛇って意外と柔らかいんだな。
ムニムニじゃないか!
ムニムニ・・・
ムニムニ・・・
案外と好きになれそうだ。
それに、変温動物って聞いていたけど、割と温かいんだね。