第35話 心配の理由
「話さなきゃダメかのう?」
「話してください!」
「バカにしない?」
なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ。
大丈夫か・・・。
「・・・しないです。」
「・・・死因は、・・・わからんのじゃ。」
「えー!」
「でも、多分、お前さんは大丈夫じゃ。」
「え?」
「実はな。・・・ここだけの話なんじゃが・・・」
「はい。」
「他の者は多分ダメじゃろうなって思ってた!」
「ぷっ・・・失礼しました」
「いいんじゃ。」
ってか、なんで俺が謝ってるんだ!
「説得力無いですけど・・・。何故、俺は大丈夫なんですか?」
「お前さんは、いい意味で、儂好みの“マヌケ”だからじゃ。」
「答えになってないわ!」
「落ち着くのじゃ。今までの者は、みんな真面目で、ちゃんとしてたんじゃ。」
「フォローになってないわ!」
「すまん・・・。」
おじいさんはふさぎ込んでしまった。
「まだよくわかってないのは、本当のことよ。」
頼りないおじいさんを見るに見かねて、先生が入ってきた。
「分かりました・・・。おじいさん、カッとなって、ごめんなさい。」
“メメント・モリ”って事ですね。毎日大切に生きますよ。
・・・
ん-、まだ何か引っかかるんだよな~。
新しい体の手に入れ方と、闇の粒子の集め方は、何度もはぐらかされた。
もしかして、俺は、まだ“はぐらかし”に遭っている?
考えても分からないし、無理に白状させるのも、好きじゃない・・・。
だったら、切り替えて、この機会を有意義に活用しよう。
「話題を変えていいですか?」
「いいわよ。」
「ラゴイルの体なんですけど・・・」
「あぁ、これね。」
目の前に、横たわったラゴイルの体が現れた。
「木箱で梱包して輸送しようと思ってます。」
「そうね。」
ん?
なんか、先生が腑に落ちない様子だ。
「このまま箱に入れるの?」
「はい・・・ダメですか」
「ダメじゃないけど・・・やっぱりあなた、マヌケね。」
「え・・・?」
「到着まで何日かかるの?」
「あー!」
このまま送ったら、到着のころには、腐り始めたラゴイルの体をレーゼン侯爵に届けることになる。
仮に、レーゼン侯爵がラゴイルを探していたとすると・・・
いや、間違いなく探しているだろ。
実の息子で跡取り予定だったんだから。
その探していた自分の息子が、腐った躯の状態で届いたら・・・。
やばい。
マジで俺、マヌケだ。
全く考えてなかった・・・
「銀貨の事は覚えてるかしら?」
「はい。」
「それなら、今回は特別よ。」
次の瞬間、ラゴイルの体が凍り付いた。
「これでどう?」
「おぉぉ。ありがとうございます。」
これなら腐敗せずに到着できるかもしれない。
そのまま、ラゴイルの体の梱包作業に移った。
まずは、ストックしている木材を利用して箱をイメージした。
続いて、目の前に箱が現れたら、その中に収める“ラゴイルの体の木型”をイメージした。
ん・・・?
もしかして、先生はラゴイルの体から限界まで熱エネルギーを吸収したんじゃないか?
物は試しに、ラゴイルの木型から限界まで熱エネルギーを吸収するイメージをしてみた。
ラゴイルの体同様に、木型が完全に凍り付いた。
これで保冷剤と断熱材の両方を兼ね備えてくれる・・・かな。
「あなた、たまに察しが良いわね。」
「ははは・・・。」
凍り付いた木型にラゴイルの体を嵌めて、箱に納めて木材で蓋をした。
「いいじゃない。これで送れば、到着まで腐敗は始まらないじゃないかしら。」
「よし!ありがとうございまーす。」
あとは輸送業者に引き渡すだけだ。
「それにしても、ホント、グラーシュはイイ子よね~」