第30話 袋の中身と俺の体
「その袋は何?」
「普段財布に入れてない分のおカネです。」
流石、グラーシュ!分けて使っていたのね。
「見せて、見せて!」
謎の袋の中身をのぞかせてもらった。
ビックリした。
金貨だらけだ。
数えきれないほど入っている。
漫画やアニメで出てくる海賊の財宝袋の中身みたいだ。
「ちょっと持たせてもらっていい?」
「どうぞ。」
持った瞬間、不意の重さに肩が抜けるかと思った。
そうだった・・・。
金は見た目の量以上にはるかに重いんだった。
グラーシュは、細身の10頭身の女性だから、ついつい忘れがちだけど、筋力は凄いんだった。
仲居が近くにいるってから、流石に広げて数えるわけにはいかない。
しかし、とんでもない大金を持ち歩いていたのだと知って、ゾっとした。
「グラーシュ、ごめん。今まで重責を押し付けていたんだね。」
「大丈夫ですよ。」
「ん-、はんぶんこしよ。俺が半分持つよ。何も無いようにするけど、何かあった時に半分は残るからさ。」
全部預かったのでは、グラーシュも信頼を失ったのではないかと不安に思ってしまう。
現に、グラーシュがお財布係で非常に助かっている。
俺は、ただ、グラーシュにばかり“重いもの”を持ち歩かせたくなかっただけ。
物理的にも、責任的にも。
俺が収納すれば重さは感じないわけだし、窃盗もされないからね。
「どうかな?」
「はい。」
グラーシュは快諾してくれた。
使っていない袋に、袋に入っていた金貨を分けて、俺が預かり、左手から即収納した。
小さくなった袋と財布はグラーシュが自分の荷物に片づけていた。
・・・
風呂の焚き上がりが待ち遠しい。
ちょっと様子を見てみるか。
焚口に回ってみると仲居さんが懸命に焚いている最中だった。
「もう少しで入れると思いますので、お待ちください。」
「はーい。」
風呂場をのぞいてみると、姿見があった。
そういえば、自分の体を確認していなかった。
ラゴイルの体から変えることを最優先にしていたから、すっかり忘れていた。
新しい体は、全く違和感が無かったから、確認する気も起きなかった。
いい機会だから確認しよう。
姿見の前に立ってみた。
顔は生前の自分の顔だった。
ただ、35歳のおっさんの顔ではなく、一番シュッとして生気に溢れていた高校時代の自分の顔だった。
これは期待ができる!
作務衣の上と下を勢いよく脱いでみた。
体も高校時代のスリムマッチョ体形だった。
多分、175cm、68kgのころだな。
一番運動ができた体重だったから、覚えといて、体重を調整したもんだ。
あとは・・・。
アソコだ!
下着を恐る恐る脱いでみた。
こ、これは!
俺のだ―!
ラゴイルのそれを見た時は、別人になった事を素直に受け入れた。
ここが違うんじゃしょうがない!って。
不思議と、そうするしかないと思ったからだ。
だが、今は違う。
極めて自然に、まさに俺の体だと確信できた。
それと同時に、ラゴイルのを見慣れているグラーシュに、これを見られている事を思い出し、急に恥ずかしくなってきた。
・・・
あれは事故だ・・・。
見せたくて見せた訳でもないし・・・。
見えてたとわかっていたら、すぐに隠したし・・・。
・・・
忘れよう。
過ぎた事だ。
考えていてもしょうがない。
もうすぐ久しぶりの風呂だ。
汚れと一緒に洗い流そう。