日常
エリシア達がエストリア帝国に帰還して、数ヵ月が経ち、今日は15歳の誕生日を迎えようとしていた。
前回の人生であれば、15歳の時に処刑されていた。少なくとも今回はその危険性はなさそうだ。
ベッドから起き上がって、エリシアは上機嫌な様子で広間へと向かう。
「リア、おはようございます! 良い朝ですねっ」
広間でくつろいでいたリアに挨拶する。
「おはようございます。エリシアさん、どうしたんですか? 随分と機嫌が良いみたいですけど……」
「今日は私の誕生日ですからね。だからですかね」
「なんで、前もって教えてくれなんですか⁈ 言ってくれればしっかりお祝いしたのに……」
そう言えば、自分の誕生日など誰にも教えていなかった。
今まで誕生日を他人に祝われた経験など殆ど無かったからだ。でも今は違うはずだ。
「そうですね。ちゃんと教えておくべきでしたね。ごめんなさい」
「そうですよ。まったくもう、これだからエリシアさんは……それじゃ明日は楽しみにしててくださいよ。用事は入れないでいてくださいね」
「わかりました。楽しみにしてますよ」
リアの誕生日は来月だっただろうか。その日にはしっかりとお祝いしよう。
辺りを見渡してみると、アラストルとレーマの姿がない。また何処かへ行っているのだろうか。
顕現した悪魔の性質上、数日に一回はエリシアの元に帰って来ないと行けない為、数日後に一度戻ってきてはまた何処へ行くと言う生活を送っている。
彼女達がどこで何をしているのか、不明ではあるがそこまで聞く必要性はないだろう。
今のところはだが。
「エリシアさん。そういえば今日暇ですか?」
「ええ。別に用事はありませんが……」
「だったら二人でお出かけしましょう。最近行ってなかったですよね」
「そうですね。ずっと家に居ても暇ですし、そうしましょうか」
思い返してみれば、ここ一ヵ月は殆ど外出していない。
貯金も十分にあり、冒険者として依頼を受けることも殆どなかった為、最近はだらだらと毎日を過ごしていた。
とは言え、この生活をそろそろ飽きてきた。久しぶりに何処か遠出するのも悪くない。
暫くして、エリシアとリアは帝都の街へと出る。
帝都の中心街は相変わらず活気付いている。様々な種族が行き交う街並みは他ではそう見れるものではない筈だ。
「エリシアさん。次はあのお店行ってみたいですっ」
リアはそう指を指す。
「いいですよ。今日はとことんリアに付き合いますよ……それとなんですが、だいぶ距離近くありませんか?」
家から出た時から、リアはエリシアの腕に自分の腕を絡まして、身体を押し付けてきている。
正直、周りからの視線が集まっているのが嫌でもよく分かる。
「別にそう言う関係なんですし、いいじゃないですか?」
「確かに家族同然の存在とは言いましたが、妹とかそう言った関係だと……」
「えーー、私はもっと別な……いえ、だとしても仲のいい姉妹でもこんくらいしますよ?」
「するものなんですか? 別に嫌ではありませんし、良いですけど」
エリシアに仲のいい姉妹など居なかったので、その辺りの事情は分からない。そもそも魔族との文化の違いもあるかもしれないし、リアの個人的な価値観かも知れない。
しかし、別にエリシア的にもまんざらでも無い。だったらこの際気にしなくてもいいのかも知れない。
リアの指差した方にあるのは雑貨などが売っている露店だった。
「リアはこう言うの好きでしたっけ?」
「気になったんです。一緒に見ましょう」
リアはエリシアを引っ張り、露店の方まで連れて行く。
「いらっしゃい」
露店の店主がそう話しかけてくる。
そこに並べてあるのは、異国風の指輪などの様々なアクセサリーの類だった。
露店に売るにしては、少しばかり高級志向なものだ。
偽物と言ってしまえばそれまでだが。
「随分と良いものを売っているのですね」
「ああ、カルミア王国で格安でまとめ売りされていたのを買ったんだよ。恐らくは魔国侵攻の際に魔族達から奪ったものだろうな」
確かに異国風のデザインだと思ったら、魔族のものだったらしい。
確かに、カルミア王国では魔族風のデザインのこれらは受け入れがたく、高値では取引されてない。エストリア帝国では、一部の層に人気があるらしいが。
「あっ……これは」
リアは、一つの指輪を手に取った。
「これ私のです……」
「リアのですか? これ」
リアから話を聞いてみれば、人間側の捕虜になり、奴隷として売られる際に奪われたものの一つらしい。
「これ買います」
「そうかい。銀貨7枚――と言いたいところだけど、4枚でいいよ」
エリシアはそう言い、店主に枚数分の銀貨を渡す。
「良いんですか? こんくらい自分で……」
「誕生日を教えなかった、謝罪の気持ちだと思ってくれれば良いですよ?」
「ありがとうございます。エリシアさん!」
リアは腕により強く体重を押しかけてくる。
しかし、リアには帰りの待っている人が国を跨いだ先にいるのだ。
いつか帰るべき場所へ帰る日が来るのだろうか。
エリシアはふとその様な事を思ってしまった。




