魔王と悪魔
魔国連邦――その構成国が一つ、テイリア公国。
連邦南部に位置し、魔族の一部族であるカルスティラ族により建国されたこの国は、約3年前に人間側の連合軍の侵攻により幾つもの都市が陥落し大打撃を受けた。
結果的に連合軍は、連邦軍の増援及び魔王直轄の特殊部隊の参戦が決定打になり、撃退する事に成功した。
とは言え、その被害は甚大で未だ経済・人的に立ち直れて居ない状況だ。
「どうしたものだか……」
その国のある屋敷で、そう口を開いたのは、魔族の男だった。
その男は白銀の髪色の青年だ。彼の名はアル・カルスティラだ。魔国連邦の大貴族の長にして、テイリア公国の盟主だ。
そして彼の目の前には、ある二人がいた。
片方は憤怒の大罪悪魔――アラストル。もう片方は現魔王にして、歴代最年少の女魔王、フレイア・エルシオンだ。
「五百年来の知り合い同士が久しぶりに会ったってのに、浮かない顔をして」
そう言ってきたのは、魔王フレイアだった。彼女は外見的には10代前半の少女にしか見えないが、実年齢はもっと上だ。とは言え、長命種の為なのだが。
そして、彼女は齢37歳にして魔王の座についている存在だ。
「半分はお前のせいだよ、魔王様。急に魔王を止めるなんて言い出して」
「仕方ないだろ。辞めたくなったんだから」
「そもそも五百年前に死んだお前がなぜ生き返っている? 大賢者リーベスは悪魔になっているわで……」
「私だって、困惑してるんだ。勇者に殺されたって思ったら、今からちょうど十年前、なんか復活してたんだから」
アルは状況が理解できなかった。
五百年前、旧魔王軍の将軍だったアル。"覆滅の魔王"の娘にしてアルと同じく将軍の一人だったフレイア。
そしてーー。
魔族を討ち滅ぼすべく立ち上がった勇者に連れ従った大賢者リーベスの成れの果て、アラストル。
全くもって理解ができない。
そもそもアルとフレイアの二人は理解できるが、アラストルの存在が謎だ。そもそも殺し合いをする敵同士だったのだ。
「その不快な呼び名で呼ぶのはやめてくれ無いかなぁ? 全く、吐き気がするよ」
そい言ったアラストル、もといリーベスだ。
「お前、性格変わったな。そんな変な口調でも無かったし、敵すら助けようとする聖人だった筈だが」
アルのその発言を聞いたアラストルは深い溜息を吐いた。
「そりゃあ、あのクズ共に裏切られて、辱められて、挙句火炙りで殺されて、その果てに悪魔に転生したら人格も少しは歪むよねー。そもそも悪魔になるときに、他者の魂と交わりすぎて元の人格とか崩壊してるし、人間だった頃の記憶とかロクに残ってないしでさー。つまり何が言いたいかって、リーベスとは全くの別人同然って事だよねぇ」
聞いた話では、リーベスが勇者を裏切ったと聞かされていた。
兎も角、相変わらずだがこの辺りの関係は闇が深そうだ。
「リーベ――いや、アラストル、お前も大変なのだな……それで、結局なんなんだこの集まりは?」
「ボクは勇者の末路を知っている者を探してるだけだよ。その先でここにたどり着いただけ、わざわざご主人様の元から離れてね」
「私は、魔王辞めますって挨拶周りをしていて、たまたまアルのところに寄ったら、リーベスちゃんもいたって感じかな」
「あのさー。その呼び名はやめろって言ってるよねぇ?」
「ごめんって。勇者大嫌い仲間に免じて許してね」
偶然にも程がある。
たまたま、大罪の悪魔が目の前にやってきたと思ったら、今度は魔王がやってきて引退宣言をしたのだ。整理が追いつかない。
「フレイアが魔王を辞めたら、次の魔王を決める王選が始まる……困ったな」
次代の魔王を決めるには、それぞれの部族から長を除いた代表者を選び、最後の一人になるまで殺し合わせ、生き残った者を魔王とすると言う血生臭い方法で決められる。
しかし現状、カルスティラの者で魔王になる資格がある者がいない。
と言うのもカルスティラ家に、出場資格のないアル以外で王選を生き残れるような人材がいないのだ。
だからといって、誰も出場させないと言うわけにも行かない。
強いて言うなら、約3年前の侵攻で行方不明となっているアルの娘の"リア・カルスティラ"なら生き残れる可能性は高い――いや優勝候補と言ってもいい。
彼女のユニークスキルである《魔法の極み》を上手く使いこなせればだが。そしてリアならそれを為せると彼は信じている。
「責めてリアが居てくれたならなぁ……」
アルは頭を抱える。
「リア……? 行方不明の娘、カルスティラ……? もしかしてねぇ」
それを聞いていたアラストルが何か、心当たりがあるようだった。
「ねぇ、アル―」
「どうした。アラストル?」
「君の娘なんだけど、ボク居場所知ってるかもー」
「は……? な、なんだと⁈」
アラストルは、リアについての情報を話す。今回ばかりは特段悪気もなく。




