決戦
ミリスは教会の中を進んで行く。
七勇教の教会に巧妙に偽装された建物の上部を突破し、下部へ降りると、漂神聖教の地下教会が姿を現した。
七勇教の建築様式とは全く異なった、特有な雰囲気の空間だ。
「殺せ! 逃すな!」
二人の黒衣を纏った男達――恐らくは漂神聖教の信徒だろう。彼等がミリスに短剣を突き刺そうと迫ってくる。
その動きは俊敏で、的確なものだった。
少なからず、そこらの兵士よりよっぽど強い。
だが――。
相手の動きより先に炎の槍で貫いて、瞬時に二人の兵士を倒す。
殺す事を厭わない容赦ない一撃だ。強者の前で、この程度の中途半端な強さでは、雑兵と何ら変わらない。
とりあえず、この辺りの敵の殲滅は完了した。
だが、下にまだ階層があるようだ。
それに目的の女も見つからない。
その時だった――。
ミリスの眼前に、ある女が姿を現した。
漆黒のローブとヴェールを纏った白髪赤眼の女だ。
【魔力感知】でその女の魔力量は自分以上であることがわかる。底無しの魔力量の持ち主であるミリスを遥かに上回る魔力総量――正真正銘の化け物と言っていい存在だ。
「その魔力量……貴方がラウエルスね」
女は「そうだ」とだけ答える。
「私からも質問がひとつある。お前の狙いは私か? それともこの教団そのものか?」
「貴方自身よ」
そのミリスの言葉を聞いたラウエルスは、微笑を浮かべた。
「何処の手の者か――或いは自分の意思かは分からないが、場所を変えよう」
「場所を変える?」
ラウエルスがそう言うと、ミリスの視界が真っ白に染まる。
次に視界が戻った時、ミリスは草原に移動していた。
おそらく今のは、転移系の高位魔法だ。
自身を転移させるだけでも、かなりの高等な魔法であると言える。それを他者に強制させるのは、ミリスでも最近習得した程には難しい。
そしてミリスの正面には、ラウエルスが立っていた。
「ここは、聖都から離れた平原だ。大きな街も無ければ、村もそう近くにはない」
「別にさっきの地下でも良かったのに」
「あんな所で騒ぎを起こされたら私が困るからな」
確かに、あの地下で魔法を撃ち合いをして騒ぎにでもなったら、あの地下の存在が周囲にばれてしまうだろう。
「望み通り、お前のくだらない殺し合いに付き合ってあげるよ」
彼女はそう言い放ち、短剣を構えた。




