最高位司祭
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
神聖リベスタ教国のとある教会。
表向きは、七勇教の教会となってはいるが、実際のところは邪教認定されている漂神聖教の施設である。
教会の上層部は普通のごく一般的な教会を装い、昼間は七勇教の参拝者も多く訪れている。
しかし、裏側――つまるところ地下に作られた空間には、真の姿がある。漂神聖教の教団としての側面だ。
地下の応接室に、ある人物の姿があった。
漆黒のローブとヴェールを纏っており、白髪、赤眼の女だ。顔立ちは整ってはいるが、何処か幼さを感じさせる。
「ラウエルス様。遠方からわざわざ、此度は何用でしょうか?」
テーブル越しに彼女に対面している若い男はその女に問いかけた。
「別に大層な用事じゃない。教国にいる姉様に久方ぶりに会おうと思って来ただけだからな。なんだ……迷惑か?」
ラウエルスと呼ばれた女は男にそう微笑を浮かべた。
「迷惑と言えば、迷惑ですが、この地で我々が活動できるのも貴方様のおかげです。拒むことは出来ません」
「そうだろうな。お前達は私を拒めない――それで、最近変わったことは?」
「特には……おかげさまで、ここの秘密ばれることなく、円滑な活動が出来てます。強いて言うなら、友愛教徒が聖都にも進出し始めた事くらいです」
「友愛教か。一応監視はしておくべきだ。何をしでかすか分かったもんじゃ無い」
「分かりました。そう致します」
男――ローレイ・ファルーンは、この教会の管理者だ。表向きには七勇教の神父だが、実際のところは敬虔な漂神聖教の信徒だ。
目の前にいる漂神聖教の最高位司祭――ラウエルスともそれなりに関係は深い。彼女とその実姉に幼い頃助けられた時から、彼女達を尊敬している。
それと同時にラウエルスを疎む者も教団の内外にもかなり多いのも知っている。
「ローレイ様、ラウエルス様、魔導士と思わしき者が襲撃を仕掛けて来ました。敵は単独ですが、恐ろしい強さで対抗できません!」
そう焦った様子で報告をしてきたのは、一人の信者だった。
「場所がばれた……? 隠蔽は完璧だったはずでは⁈」
ローレイは考える。何処で一体情報が漏れたと言うのだろうか。
「恐らく、私の命を狙う者だろう。教国ならば、大軍で押し寄せてくるはずだ。そうで無いのならば、私を個人的に狙う者の可能性が高い筈だ」
頭を抱えるラウエルスはそう言い、ゆっくりと席から立ち上がる。
「すまない……今更だが、本当に迷惑をかけてしまったな。やはりお前に頼るべきじゃなかった」
「構いません。迷惑くらい幾らでも掛けてくれたって。それ以上の恩がありますから」
「それとこれは別だ……兎に角、そいつの目的はほぼほぼ確定で私だ。ならば望み通りにしてやるさ」
ラウエルスはそう言い、上の階へと向かっていった。




