邪教と邪教
互いに目当ての物を入手した二人は管理局を転移魔法で抜け出した。
二人は静かな通りを歩いていた。
どうやら、未だに襲撃はばれていない様で、恐ろしい程街は静かだった。
シュラミアが欲しかったのは、どうやら封印聖石と呼ばれるあらゆる存在を封じれる魔道具だったそうだ。
ちなみに彼女が作り出した動く死体達は、地下へと置き去りにしてきた。今頃シュラミアの影響外になっている筈なので、ただの死体に戻っているだろう。
「それで、そのあんたの同類はどこにいるのよ?」
「同類とは失礼ですね。 道理も思想も全く異なっているというのに」
「そんなの私からしたらどうでも良いし」
「ラウエルスは、七勇教の教会に偽装した施設にいるようですね」
「そいつを殺せば良いんでしょ?」
「えぇ。言える情報と言えば、彼女は完全なる先祖返りにして唯一の魔獣使いです」
どう言う事だろうか。
魔獣使いなど聞いたこともない。そもそも魔獣自体がこの世に殆ど存在していない。
「ラウエルス――彼女の正体は、三千年前に君臨しキリシア帝国の支配者の末裔です。それ故に魔獣を生み出し操作する。こう言った失われた魔法を行使できると言うわけです」
魔獣使いは、相伝の魔法の様な物なのだろうか。
エルミール家にも、魔法と魔法を掛け合わせるという秘術が代々受け継がれてきているが、それに近しい物なのだろうか。
「そいつは何処の教会にいるのよ?」
「ここから程近い場所にあります」
「そう。じゃあ今すぐ案内してくれる?」
「勿論。構いませんよ」
シュラミアはミリスを連れて、暗がりの聖都を歩いていく。
「転移魔法を使った方が早いんじゃない?」
「そこまでの距離でもありませんよ」
「……そうなのね」
それから、数分程度歩いたところで二人の眼前に大きな教会が姿を現した。
「此処がその教会? 本当に街中にあるのね」
「しかし、中身は邪教徒の溜まり場です。彼らの偽装能力に関して、右に出る者は居ませんから」
「わかった。貴方の言うことを信じる――それで、そっちはどうするの?」
「私は帰らせて貰いますよ。先程も言いました通り、ラウエルスには私では無力ですから」
シュラミアはそう言うが、彼女と相性が悪い相手の想像がつかない。
彼女の能力は不確定な部分も多いが、恐らくは無造作かつ自由自在な魔力操作だろう。これと相性の悪い能力と言うのは、どうも検討がつかない。
「それと、先ほどの様に眠らせるのではなく、しっかり殺してくださいね。じゃないと死ぬのは貴方です」
「……わかった。そうする」
「それでは、私はこれで」
シュラミアはそう言うと、その場を立ち去ろうとする。
「もう一度聞きますが、友愛教に入りませんか?」
彼女は去り際に、そう尋ねた。
「何度も言うけど、入るつもりはない。入るなら死んだ方がマシ」
予想した通りの返事だった。
「……そうですか。でも、気が向いたらまた今でも」
シュラミアはそう言い、その場を立ち去った。
やがて、街角を通り過ぎミリスの姿は見えなくなった。
「さて……傷の一つくらい負わせられれば良いですが。せめても、あのお方が悔いなく終われる様に」
シュラミアはそう祈りを込めた。
 




