地下へ
「まさか、教国への用事がこんな事だとはね……」
ミリスはシュラミアに話しかける。
「ええ、貴方様と私の目的は一緒です。失われた太古の魔法です」
「その太古の魔法で、どんなろくでもない事しようとしてるのかは知らないけどね」
「私、そんな悪い事をしようと思っていませんのに……心外ですね」
シュラミアはそう言い捨てると、片腕をミリスへと差し向ける。
「此処で一つ提案があります。一緒に地下に向かいませんか? 私の傀儡を地下書庫まで向かわせたのですが、誰一人帰って来てません。恐らく何かしらあるのでしょう。同じ強者同士、協力するべきです」
確かに、彼女の言う通りかもしれない。
彼女の話曰く、恐らく地下書庫には、それらを護衛する為の何かがあるのだろう。確かに友愛教徒など微塵も信用に値しないが、それでも下手うってシュラミアと戦闘になるよりはマシだ。
「いいわ。貴方と争う理由も無いんだし、一緒に行く方が賢明と言えば、賢明ね。それにこんな事しでかしてる時点で、貴方と立場は一緒だろうし……」
「そう言ってくれると思ってましたよ。さぁ、行きましょう」
ミリスはシュラミアに連れられて、奥へと向かっていく。
道中には、数多くの惨殺された兵士達が転がっていた。
恐らく、シュラミアに殺されたのだろう。
そこで気になるのは、シュラミアの能力だ。人を容易く真っ二つに切り裂く攻撃は、魔法では無さそうだ。どちらかと言えば、魔法に抽出せず、魔力そのものを利用している感じだ。何かのユニークスキルなのかも知れない。
「此処で遺体を放って置かれるのは、余りにも可哀想ですね」
死体に一瞥した彼女は、そう言い放った。彼女が手を振るう。
その瞬間、死体達を魔力が覆った。そして斬られた断面が繋がり起き上がったのだ。
「アンデッド?」
「違います。魔力を介して、肉体を操っているのです。これ程の数を操るとなると、ある程度行動も単純なってしまいますが」
魔力で死体を操る――これも彼女の能力の一端なのだろう。しかし、彼女の能力の全貌は検討がつかない。
「自分で殺しといて可哀想とか言ってたけど、これから何をさせるつもりなの? 可哀想と思うなら、此処で安からにさせてあげた方がいいんじゃない?」
「兵士は何処までも戦ってこそ兵士です。死体が跡形も無くなるまで戦わせてあげようと思ったのです。それこそが彼等の幸せだと私は思います」
「その言葉、何処まで本気か知らないけど、貴方結構歪んでる――ってか狂人の発言ね」
「私は至って本気ですよ?」
彼女は微笑んだ。
ミリスにはこの女の考えが全く持って分からない。一つわかるとすれば、友愛教の司祭にロクな人物はいないと言った事くらいだ。
ミリスは、シュラミアとその"傀儡"と化した動く死体と共に、先へと向かう。
暫く、シュラミアに案内されるままに進んでいくと、大きな門がある大広間に辿り着く。恐らくこの先が地下車庫へと続いているのだろう。
そして、門の前には黒尽くめの男の姿があった。
「司教様。此方の兵士は全て殺害し終わりました」
黒尽くめの男が話しかけてきた。口ぶりからして友愛教徒なのだろう。
「それはそれは……ご苦労様です。それで、他の者達はどうしたのですか?」
「多くは兵士と相打ちに、私以外の者は司教様の傀儡と共に地下に向かったきり帰ってきません」
「そうですか。それで何故貴方は生きているのでしょうか?」
黒尽くめの男は、シュラミアの予想すらしていなかった発言に、言葉を失う。
「他の信徒達が死んでいったのに、貴方だけ生き残っては示しが付きませんよね。共に同じ志しを持って此処まで来たのでしょう? 共に死を覚悟して私に連れ従ったのでしょう? そこまでしたのなら死をも共有するべきなのです。きっとそれが貴方にとっても死んだ者達にとっても幸福なのでしょう」
「しかし……それでは司教様も」
「私は全てを見届ける義務があります。気持ちは山々ですがご遠慮させて貰います。……そんなに心配しないでください。私が送ってあげます」
男がその場から逃げ出そうと考えたった瞬間には、男の身体と頭が斬ら離されていた。
男は血飛沫を上げてその場に倒れる。恐らく即死だろう――。
「どうしたんですか? そんなぼっーと突っ立てて。地下へ進みましょう。恐らくですが、何かしらあるはずなので気をつけてくださいね」
「……なんでもない。貴方の行動にどん引きしてただけだから」
ただ一つ分かった事がある。
この友愛教の女司教――シュラミアは正真正銘の狂人である。ただそれだけだ。




