聖なる都
数日後。
幾つかの村や街を経由して、ミリスは聖都へと辿り着いた。
「これが、リベスタ教国の首都……凄いわね」
ウォーリスアは人口三十万人程度の都市だ。ミリスはその都市のインフラ設備に驚かされていた。
歩行者と馬車が通る道が分けられており、衝突の危険を極力減らす工夫がされている。魔石を使った街灯が一定間隔に設置されており、夜でも十分に明るい。上下水道が張り巡らされており、街全体を清潔に保っている。
凄まじい先進性だ。自分の国では考えられない程である。
兎も角、感心している場合ではない。ミリスには、やるべき事がある
「その辺探し回っても見つかる訳ないし、狙うならあそこしかないか」
失われた大魔法に関する情報が、その辺を歩き回っていて見つかるわけが無い。しかしあてはある。
この都市の中央に存在する国立魔導遺物保全管理局。その地下にある非公開の書庫には何かしらあるはずだ。
とは言え、そんな場所は当然公開はされていない。ならば、忍び込むか強襲でも仕掛けて無理やり入り込むしか無い。
「兎に角、そこに行ってみないことにはどうしようもないわね」
もしかしたら、非公開の書庫じゃ無くても死者蘇生の魔法に関する情報があるかも知れない。
最低限現地には赴くべきだろう。
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国立魔導遺物保全管理局。
それは、城のような建物だ。王城に匹敵する大きさを誇るが、煌びやかな装飾は一切されていない。大きさの割に質素に感じてしまう事だろう。
「魔法技術を収集する以外興味ありませんって感じの外見ね。これ」
魔法の産物を保全する為だけの建物だ。それ故に装飾は要らないのだろう。
此処には魔導書だけでも二十万冊以上が保管されている。それ以外の魔法関係の文献、魔道具、勇者の聖遺物、魔法技術由来の古代のオーパーツ等様々なものが保管されているのだ。
しかもその殆どは一般に公開されているのだ。それなりの入場料を支払う必要があるが、それでもこれだけの物は普通見れない。
魔法に関係する者ならば、人生で一度は足を運びたいだろう。
ミリスは、何処までも続く本棚に目を通しながら歩く。ふと目についたのは、五百年前に魔族を駆逐して、このリベスタ教国を建国した初代勇者――その仲間であった大賢者リーベスについての書物だ。
「まさか、私の先祖の本もあるなんてね。そりゃそうか、この国じゃ崇拝対象だし」
その時だったミリスに一つの考えが浮かぶ。
「てことは、私ってそんな崇拝対象の血を引く者……国の上層部に頼めば非公開の地下書庫くらいみしてもらえるかも……? いや駄目ね」
リベスタ国教の解釈では、エルミール家は大賢者の末裔では無いとされている。それどころか、一部の過激な信者ではリーベスへの冒涜だと騒ぎ立てる者も居るくらいだ。
絶対面倒な事になるし、身分明かしたらそれもそれでかなりリスクもある。この案は当てにならない。
ミリスは施設内をざっと見て歩いたが、恐らくだが太古の魔法に関する情報は無さそうだ。幾つか興味深い文献や魔導書は見つけたのだが、それ以上の目当ての物は見つかりそうにも無い。
やはり、世間に公開できない様な魔法の類は、地下の書庫にあるのだろう。
やはりどうにかして地下書庫に行かなければならないみたいだ。




