怨敵の一族
エリシアが屋敷を抜け出して、丸三日がたった。
臨時で雇った傭兵や使用人を使って、探させているが、一向に見つからない。
「まだ見つからないのか⁈」
エリシアの実兄ーーアレスは相当焦った様子で、使用人に怒鳴りつけていた。
「すいません。まだ、手がかりが見つからず......」
「どうして? このままじゃ僕が殺されるんだぞ⁈」
アレスの怒声が部屋に響き渡った。
彼がこれ程まで、焦っているのには理由がある。
簡単に言えば、国家機密の情報漏洩だ。
高級酒場で言い寄ってきた、男に"ある重要情報"を言い漏らしてしまったのだ。
その言い寄ってきた男は、エストリア帝国の密偵だったらしく、その情報は帝国側に筒抜けになってしまったのだ。
更に、その情報を知っているものは限られており、漏洩したのはエルミール家の誰かだと直ぐにバレてしまった。
ならば、無能な方の妹に責任転換すれば良いだけの話なのだが、その妹は行方不明ーー。
だからこそ、彼はエリシアを必死になり探していた。
もしこのまま行けば、アレスに極刑が下されるだろう。
カルミア王国の法において、国家機密の漏洩は貴族とて処刑対象だ。
「ちょっと煩いんだけどクソ兄っ!」
扉を勢い良く開けて、ミリスが部屋に入ってくる。
「静かにできないの? 隣の部屋まで聞こえてくるだけど」
「そんなの気にしてる余裕はないんだよ⁈ 僕は殺されるかもしれないのに!」
アレスはミリスに怒鳴り返す。
しかし、ミリスにとってそんなのはどうでも良い事だ。
お世辞にも、アレスの魔法の技量は高いとは言えない。魔法が使えないわけでも無いし、一般的には一流クラスの魔術師だ。それでもエルミール家の中では最低値クラスだ。
「そんなに、不満ならご自分で探してくれば良いじゃない」
「だったら、ミリスも助けてくれないか? 僕だけじゃ......」
「知らないわ、無理」
ミリスはアレスに懇願されたが、それをきっぱり断る。
こんな馬鹿のために動く労力はない。
「父様も追っ手を増やすと言ってるし、そっちに頼りなさいよ。なんで私がクズ兄の為に動かなきゃ行けないの?」
「あー、もう良い。僕は単独でも行く!」
アレスは、そう言い部屋を飛び出していく。
「頭悪っ......本当に17歳なの? あいつ」
ミリスは、アレスが出て行った後、呆れた声で呟いた。
今までも、アレスはくだらないやつだと思っていたが、流石に我儘過ぎる。
確かに、自分も人の事は言えない。それは充分承知している。
しかし、自分にはその傲慢が許されるだけの才能がある。
だからこそ、誰も文句は言わないのだ。
「まったく、愚図のエリシアお姉様とあいつの立場が逆だったら良いのにね......」
ミリスは、側に佇んでいた使用人問いかけた。
「しかし、ミリス様はエリシア様を疎んでおられては?」
「まぁね。けど、クズ兄よりはマシって話よ」
「はぁ......」
使用人は、反応に困った様にそう言った。
「これは私にしか、理解できないでしょうね」
ミリスは、別にエリシアの事は嫌いではない。
幼いときは、一緒に遊んでいた時期もあった。
しかし、いつからか両親に関わるのを止めろとしつこく言われ、いつしかエリシアを疎むようになっていたのだ。
エリシアが魔法さえ使えれば、きっと今も仲がいい姉妹でいられたはずだ。
「くだらない......」
ミリスはそうぽつりと言った。