旅立ち
エリシアの処刑から暫くして。
ミリスはエルミール王国から抜け出して、旅に出た。
何度も転移魔法を使い、その日のうちにはカルミア王国の国境付近まで到達した。
今頃慌しくミリスを探し出している頃だろうが、見つかるわけがない。
そして彼女がいるのは、神聖リベスタ教国との国境沿いにある街、ウェルヴィアだ。
人口二万人程度で、神聖リベスタ教国との貿易の要所でもある。
「もう少しで王国領から抜けられそうね」
彼女が目指す先は、神聖リベスタ教国だ。
と言うのも同国は、世界有数の魔法大国だ。失われた死者を蘇生させる魔法の情報を探すためだ。
エリシアを失ってから、彼女がどれだけ大切な存在であるかを思い出した。
母親からどれだけ嫌悪感を植え付けられようとも、結局は大切なたった一人の姉妹なのだ。
今では、後悔している。
自分が一体どれだけ酷い仕打ちして来たのか。せめて自分だけでも家族の中で味方になってあげれたら、どれだけ良かった事か。
悔やんでも悔やみきれない――だからこそ、死者蘇生という失われた太古の大魔法を探しているのだ。
その後悔の念が、砂漠で特定の砂粒を見つけ出す様な途方もない事をさせているのだ。
ウェルヴィアの大通りは、行商人が街の行き合い非常に賑わっている。それに伴って宿泊施設も多くあり泊まって行くにはちょうど良さそうだ。
「そこの貴方様……」
暫く歩いていると、10代後半程度の少女に声をかけられる。
その少女は純白のローブを見に纏い、腰あたりまで伸びた金色の髪は輝きを放っていた。
「それで貴方は誰、面識あったけ?」
「いえ、ありません。凄まじい魔力量の持ち主だと思いまして。私は友愛教の司教、シュラミア・ハクタールというものです」
「それで、似非邪教の司教が何様なの?」
「簡単に言えば勧誘ですよ。貴方ほどの実力者なら幹部に……「興味ない」」
ミリスはその誘いを速攻で断る。
「死者を蘇らせる魔法を使える様になるとかなら考えるけど?」
「失われた太古の魔法ですか。流石に知りませんね……でもでも司教になれば、贅沢三昧できますし、信者達は神の様に丁重に扱ってくれますし……」
「だから興味ないって。――私はもう前にも後ろにも進むつもりは無いんだから……」
ミリスはそう言うと、シュラミアを振り切って先へと進む。
「また何処かでゆっくりと」シュラミアは去り際にそう言って来た。
「こう変な奴に絡まれると萎えるわね」
友愛教の司教――恐らくこの言葉に嘘は無いだろうとミリスは思った。
彼女から発せられる魔力の濃度は自身のそれに匹敵していた。これは彼女が最近会得したらスキル【魔力感知】により、相手がどれだけの魔力の持ち主かを測定することができるのだ。
とは言え、【鑑定眼】の劣化版としか言いようが無いのだが。
辺りを見渡すとだんだんと日が沈んで来ている。何処かしらで泊まって休むべきだろう。
そんな中、ミリスは目についた宿の中に入っていく。
「一泊したいだけどいい?」
ミリスは宿の受付の女に喋りかける。
「いいけど……こんな幼い子が一体どうしたんだい?」
「人の事詮索するのはやめてくれない? 私にも事情があるの」
「見りゃわかるけど、訳ありかい……私も余計な事を聞いてごめんなさいね」
ミリスは料金分の銅貨を差し出すと、女は部屋の鍵を差し出して来た。
部屋は簡素なもので値段相応と言ったところだった。
貴族のものからしてみれば、余りにも雑多なものに見えるだろう。しかし、軍人貴族であるエルミール家の者にとっては、そう悪くは感じない。
貴族とはいえ、戦場で上質な寝台で寝付けるわけではないのだ。
ミリスは連続の転移魔法による消耗が激しかった為か、寝台に横になると、直ぐに深い夢に落ちた。




