決戦-3
リーンデバイトは大剣を振り下ろす。
ビーストトロールは人の胴体程の太さのある腕でそれを受け止めた。
腕含めた身体中に生え揃えられた剛毛は、まるで針の様に硬く、大剣の斬撃を倒す事は無かった。
「面倒なっ! 炎球」
リーンデバイトは魔法を詠唱すると、球状の火炎が放たれる。
トロールの巨軀に直撃したそれは炸裂し、周囲の視界を一瞬の間塞ぎ込んだ。
「グオォ……」
呻き声を上げた。多少のダメージはある様だが、そこまでの致命打を与えるのは厳しいかもしれない。
ウェタル市国最強の精霊騎士は、魔法を放ち、その間隙に大剣による剣撃を繰り出した。
対するトロールの長は、その剛腕を何度もリーンデバイトにがむしゃらに振り下ろした。
その拳は交わされて地面を抉り取ったり、宙を舞ったりしたが、稀にリーンデバイトに直撃する。
その度に防御姿勢を取られて、ダメージを緩和されてしまっているのだが、着実に打撃を入れられている。それに鎧を着ていても、もろに喰らってしまえば簡単に潰れてしまうだろう。
こうした二人の互角の攻防が、繰り広げられていた。
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しかし、その一方ゼーアは苦戦を強いられていた。
「くっ……!」
無数のゴブリンの群れが、ゼーアの周りを取り囲む。ゴブリンロードが一度咆哮を上げると、周囲にいたゴブリン達が集まったのだ。
「ギャャ!」
数十匹のゴブリンが一斉にゼーアに飛び掛かる。
ゼーアが槍を振るうと、周囲の地面が凍りつき鋭利や氷の刃がゴブリン達の身体を一斉に貫く。
「食イ殺ス!」
その一瞬の間隙をついて、ゴブリンロードが飛び付いてくる。その動きは、通常のゴブリンとは比べ物にならない程俊敏でゼーアに迫ってくる。
精霊術で地面を凍らせ、そこから氷の刃を射出する。だがそれをゴブリンロードは容易く避ける。
ゴブリンロードの鉤爪がどどかその瞬間、精霊術で風を巻き起こし、ゴブリンロードを振り払う。
だが、それでも怯まず迫ってくる。
再び風を起こして、振り払おうとするが今度は地面を強く蹴り上げた為か振り払う事が出来なかった。
「ま、まずい!」
鉤爪がゼーアの腕に直撃する。鉤爪は鎧の籠手を容易く貫き、肉に突き刺さる。
「うぐっ……!」
その際に出来た隙をついて、鉤爪を喉元に振り下ろしてくる。
「ま、不味い!」
ゼーアの脳裏に死が過った――その時だった。
恐る恐るゼーアが目を開けると、そこには頭部を吹き飛ばされ、絶命したゴブリンロードの姿があった。
「一体何が……?」
ゼーアが周囲を見渡すと、そこには一人の少女がいた。
エストリア帝国の最高位冒険者――エリシア・エルミールその人だった。
「何とか間に合いましたね。ぎりぎりですが……」
「すいません。助かりました」
「大丈夫ですよ。私も依頼された仕事をこなしただけですから。それよりも……後はあのトロールだけですね、それで全てお終いです」
エリシアはそう言い、少し離れたところで戦闘していたリーンデバイトとビーストトロールに視線を向ける。
「エリシア殿……共に加勢しましょう」
「そうですね。そうしましょうか」
エリシアとゼーアはそう言葉を交わして、彼らの元へと向かった。




