ウェタル市国侵攻-2
少し前に時間を戻す。
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「ヴェルダの命令でこんな事をしたのね」
床に額を擦り付けるデテールにミスラは吐き捨てた。
「はい、そうです。全てはヴェルダの命令です……」
「はぁ。なんでこの国の貴族って馬鹿ばっかりなのよ」
ミスラは頭を抱え、深い溜息を吐いた。
「エリシア、これから追加の依頼をしても良いかしら?」
ストレスで痛む頭を持ち上げ、エリシアに視線を向ける。
「ヴェルダの屋敷に攻め入って欲しいの。これは立派な反逆罪だわ、向こうも最悪殺されても文句は言えない筈よ」
「少し面倒ですが、良いですよ? 私も彼奴は気に食いませんですしね」
「ありがとう……勿論報酬は上乗せしとくわね」
ミスラはエリシアに差し出された手を取る。
「それで、こいつはどうするつもりー?」
その時だった。
アラストルが、土下座で倒れ込むデテールに視線を向ける。
「ひいぃ、命だけはご勘弁をっ……!」
アラストルの人ならざる気配を感じ取ったデテールに悪寒が走った。
「とりあえず処罰は後程決めるわ。流石に降伏した相手を殺すのは、気が引けるしね」
「降伏したんですし、これで危害を加えてしまったら大人気ない気がしますしね」
「ふーん、まぁそれでも良いんだけどねぇ」
それを聞いたアラストルは、何処か残念そうな表情を浮かべる。
彼女は、この男を好きにしても良い。そうGOサインを出したら一体何をしでかすつもりだったのだろうか。
「とは言え、放置するのも危険ですね」
「縄で縛るにも、強度不足で困るわね……」
デテールもSランク冒険者に匹敵する存在だ。縄程度では、簡単に破られたり、解かれたりする可能性も高い。
「ならば、我が眠らせてやろう」
そう言ったレーマは、デテールに「顔を上げろ」とそれだけを告げる。
「は、はいぃ……」
それを聞いたデテールは従順に顔をあげる。
「昏睡」
レーマが一言魔法を唱えると、デテールはその場に倒れ込む。
「それなりに効果は強力にしておいた。丸一日は起きない筈だ」
そう言い捨てたレーマの横で、デテールは鼾をかきながら爆睡している。余りにみっともない姿だ。
「それでは、行きますか。まさか今から解散なんて言いませんよね?」
「そうね。命を狙われておきながら悠長には出来ないわね……それに彼奴の屋敷って近いところにあるし」
エリシアとミスラはお互いに顔を見合わせた。
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エリシア達はミスラに案内され、ヴェルダの屋敷へと向かう事にした。
どうやら、近いところにあるようで市議会を出て数分程度でヴェルダの屋敷までたどり着いた。
「結構大きな屋敷ですね」
リアは目の前に広がる大きな屋敷を見上げた。
とは言っても、昔住んでいたエルミール家の屋敷の半分程度の大きさだ。だが小国でこれだけ大きい屋敷を建てられるのだから、やはりヴェルダは相当の権力者のようだ。
「なんか血の匂いがします。私の気のせいかも知れませんが」
内部に異変に気付いたのは、リアだった。
勿論、血の匂いなど彼女以外には感じてはいない。魔族は嗅覚が発達しているからこそ分かったのだろう。
「一応気を付けて行きましょう」
「そうね。何があるか分からないし」
エリシアは念の為にと《魔力変換》を発動させる。
そしてそのリアの予感は的中する事になった。




