表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/134

ウェタル市国侵攻



市議会の近くにある、一等地に建てられたヴェルダの屋敷にある3人の姿があった。



ヴェルダとゴーセル、そして"竜の眼"の団長であるヘッケルン・マリダスの姿があった。



「今頃、あのガキどもは血祭りに上がってる頃だろうな」



ヴェルダはワイングラスに注がれた、上質な葡萄酒を口に含みながら呟いた。



この葡萄酒は、エストリア帝国から貿易で取り寄せたリヴァン龍公国産のものだ。


大陸から少し離れた島を領土とするリヴァン龍公国は、土壌に魔石をふんだんに含んでおり、その大地で育てられた葡萄酒は、独特な甘い風味で非常に上等な味わいである。


しかしリヴァン龍公国自体、エストリア帝国としか貿易しない鎖国状態であり、これを入手するにはエストリア帝国から買い付けるしか無いのだが、これまた非常に莫大な金額での取引になる。



「やはりこの酒は美味いな。金貨30枚で仕入れただけの価値はあるわい!」



ゴーセルはそう言い、注がれた葡萄酒を一気に飲み干す。大貴族とは言え金貨30枚は、決して安い金額では無い。



「お前も飲むと良い。この酒はいいぞ」



ヴェルダはそう言い、ヘッケルンにも酒を勧める。



「私は酒が苦手なもんで。遠慮しときますよ」



ヘッケルンはそう言い、手で渡された酒を遮る。



「相変わらずつまらん男だな。お前は……まぁいい」



ヴェルダはヘッケルンに対して多少の苛立ちは覚えたものの、それ以上に言及する事はしない。



「それで、私を呼んだ理由とはなんですか?」



暫くの沈黙の後、ヘッケルンは口を開いた。



「嗚呼、その件なのだが……もうすぐモンスターが攻めてくるだろ? それでな。竜の眼の全団員で、屋敷ここで我らの護衛をしてほしいのだ」



ヴェルダの発言を聞いたヘッケルンは目を丸くする。



「正気ですか? 私達が前線で戦わなければ、どうするんですか!」



ヘッケルンは声を荒げる。ヴェルダの発言が、余りにも常識外れのものだったからだ。


ウェタル市国の動員できる兵力は2000人だ。それに加えて、聖霊騎士隊200人、魔導部隊500人、そして"竜の眼"の構成員が150人だ。


ただでさえ戦力が少ないのに、その中でも精鋭である150人が最前線から抜けてしまうのは、相当な痛手である。



「五月蝿いな。お前らはこのヴェルダの私兵だろ? なら言う事を聞け」


「確かにそうですが、そんな事をしてしまっては勝てる相手にも、勝てません!」


「黙らないか。魔導部隊が居れば、モンスターなど一捻りだ! だからお前らの出る幕は無いのだぞ? これだから頭が足りない平民上がりは……」




ヴェルダはいらつきを抑える為に、葡萄酒を一気に飲み干す。


何故、平民出身はこうも馬鹿が多いのか。彼には理解不能だった。




「た、大変です!」



その時だった。部屋の扉を思いっきり開け、1人の男が部屋に入ってくる。彼は"竜の眼"の構成員だ。


ヴェルダから、「全ての団員で屋敷に来い」そう命令され、全ての"竜の眼"の団員は別室で待機していたのだ。


どうやら、彼は相当焦っている様子だった。



「どうした。何があった?」


「モンスターの襲撃です‼︎ 既に屋敷は包囲されています。私を除いた殆どの人間は死にま……っ」



男が言いかけていたその瞬間――彼の腹部から刃が飛び出し、血が噴き出す。



「うぐっ……あ、助けて……」



男はもがき苦しむ。


しかし、刃は段々と上昇していき男を真っ二つに切り裂いた。



無残に二つに解体された男の背後には、二体のモンスターの姿があった。


そのうち一体はリザードマンで、赤い鱗を持つ通常種より一回り大きく、どこか知的な雰囲気を帯びている。


片腕に大楯、もう片腕には剣を装備していた。男を真っ二つに解体し、殺害したのはこのリザードマンの様だ。



もう一体は、スネークマンと思わしきモンスターで、漆黒のローブに身を包み、杖を手に持っていた。


まるで高貴な魔導師の様な見てくれだ。



「"竜の眼"……エルフの精鋭部隊と聞いていたが、存外大した敵では無かったな。オタリよ」



リザードマンは流暢な人語でそう話した。



「しかしだなラーシャー、此奴らも精鋭である事は確かだ。他の者達に被害が出ぬよう、先に滅ぼさ無くてはな」


「そうだな。これ以上同胞に被害が出ては、人間に勝ったところで悲惨な結果に成りかねない……」



まるで人間の様にすらすらと人語を介すモンスターを見て違和感と強い恐怖を覚える。



「な、何故モンスターがおるんだ⁈ ヘッケルン、や、奴を殺せ!」


「早く倒してくれ!」



ヴェルダとゴーセルは後退りして、ヘッケルンの背後に隠れる。


貴族であり、国の中にずっと引きこもってきた彼らにとっては初めて見るモンスターだ。その恐怖は測りえない。



「お前は中々に手強そうだ」



ヘッケルンを真っ直ぐな瞳で見つめたリザードマン――ラーシャーはそう口にした。



確かにヘッケルンは強い。とは言え、副団長のデテールには敵わないのだが。



(何者なんだ? モンスターにしては理性的すぎる……上位種なのは確かだろうな)



一部の上位個体のモンスターは人間並、若しくはそれ以上の知能を有する者がいるらしい。目の前の二体も、恐らくはその類だろう。



「我らも時間がない。悪いが早急に終わらせてもらう」



ラーシャーはそう言うと、剣を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ざまあ、です。
[一言] 面白かったです( ≧∀≦)ノ 一気に読んでしまいました(/´△`\) 続き楽しみにしています( ´∀`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ