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最後の足掻き



「うっ……」



辺りが臓物と返り血で染まった食堂――血の生臭さが部屋中に広がった。こういった耐性があるエリシア達は兎も角、ミスラはその凄惨な光景に吐き気を催した。



「ミスラさん。大丈夫ですか……?」


「え、ええ……なんとか…っ…少し驚いただけよ」


エリシアの問いに、ミスラは震える声で応答した。


ミスラの身体はがくがくと震えており、顔色もあまり優れていない。


確かに精神的に荒んでいる自分だからこそ、そこまでショックは受けなかったが、一般の人が見れば普通はトラウマになるだろう。



「くっ……糞っ、化け物め!」



デテールはそう言葉を吐き捨てると、助走をつけて切りかかってくる。


魔法を使われる前に、攻撃するべきである――そう考えたのだろう。


目標は、第一の殺害対象であるエリシアだ。



付与炎イグナイト!」



エリシアに斬りかかる瞬間に、デテールは魔法を唱える。


そうすると、手に持っていた剣に業火が宿る。その炎は高く舞い上がり、剣から天井近い高さまでに吹き上がる。



デテールは燃え盛る剣を、エリシアに向かい振り下ろす。



「熱っ……‼︎」



エリシアは咄嗟の判断で、燃え盛る剣を素手で掴む。


エリシアの肉体は人間のものとは言え、今の彼女のステータスは異常だ。並大抵の攻撃では、傷をつける事すらままならないだろう。



「なっ……なに⁈」



エリシアは掴んだ指に力を加え、剣を粉々に粉砕する。


鍛えた鉄をミスリルでコーティングした剣――それを素手で粉々に粉砕したのだ。そんな話聞いたことない。そもそも鉄を粉砕する時点で人間には無理だ、



「化け……もの……化け物だ」



その瞬間、デテールの頭は一瞬真っ白になってしまった。その真っ白になった頭で、ふと口に出た言葉――それが、化物だった。



「失礼ですね。これでも人間なんですよ。そう……ですよね?」



エリシアはそう言い、背後に振り向く。しかし、肯定してくれる人物はいない様だ。



「心配しないでください……エリシアさんが、人間じゃなくても私はずっと好きですから」



リアは悟った顔でそう言い放った。「いや人間ですからね⁈」と咄嗟に突っ込む。


確かに、ステータスは化け物じみてるかも知れないが、生物学上は人間なのだ。決して人外ではない。



「人間の能力値じゃないよねー。いっそ悪魔に転生したらいんじゃないかなぁ……今なら嫉妬の座があいてるよ?」


「お断りさせて頂きます」



何故だろうか……アラストルの顔が今まで見た事ない様な真剣な眼差しで、背筋にゾワっと悪寒が走るのを感じた。



まさか人間と肯定してくれる人が誰もいないのは予想外だった――これには意外とショックを受ける。




「冗談じゃない。こんなの付き合ってられない……!」



デテールはエリシア達がごちゃごちゃと話し合っているすきに逃げようと、扉の方へと走って行く。



「痛えっ」



しかし、扉の眼前で()()()()()に防がれて頭を強く打ち付け、その場に尻餅を突いてしまう。



「け、結界だと⁈ また面倒な……!」



デテールは腰に刺していた短剣を抜く。



結界破壊ウォールブレイク鬼人化オーガアップ限界突破アンリミテッド全能力強化エンハンス!」



デテールは幾つかの強化魔法を唱えると、短剣を思いっきり振り下ろす。その動きは余りにも早く、本人にも視認できないほどだった。


この時のデテールの筋力と体力は瞬間的2000――つまるところSランクの冒険者の2倍、人間の限界点に達していた。




        だが、しかし――。



カキイィィン! 鋭い音を立てる。結果として結界には傷一つすら付けれず、短剣が真っ二つに折れる。



「ひえっ、ひひゃあぁ⁈」



絶望と驚愕から、あまりにも情けない声を上げるデテール。殺される――直感的にそう感じた。



「馬鹿め……我の結界を突き破りたければ、筋力は6000以上は必要だ。人間では不可能だ……仮にいたらそいつは人間のふりした化け物だぞ?」


(私破れるんですが? わざと言ってるですかね。この悪魔は)



エリシアは口に出して突っ込みたくなるが、それをグッと抑える。



「くっ、クソが……深淵魔手アビスハンド!」



最後の抵抗と言わんばかりデテールは魔法を唱えた。


エリシアの足元から無数の黒い腕が出現し、エリシアを飲み込んだ。



「ど、どうだ……金属板を丸めてしまうほどの漆黒の剛腕だ。これで生きているはずなどあるまい!」



これでエリシアが生きていたらなす術がない。デテールにとっての最後の希望だ。


しかし、その希望を案外あっさりと散りさってしまった。





次の瞬間、漆黒の剛腕達が散り散りに吹き飛んだのだ。


そこから現れたのは、無傷のエリシアだ。



「流石にちょっと苦しいですね」



エリシアも特別変わった事をやった訳ではない。身体に少し力を入れただけで、拘束は容易く解けてしまった。



「それで、まだ戦いますか?」



そう言い、エリシアはジリジリとデテールに近づいて行く。



「すいません。私が悪かったです、許してください。」



デテールはそう言い、額を地面にゴンッと言う音がする程に勢いよく床に擦り付けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「だが、しかし――。」とは中々良いノリだと思いますwww
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