作戦会議
エリシア達は、ミスラの後に続き市議会にある食堂にまで足を運んでいた。
この部屋は、小さいながらも細部まで装飾が施されており、中央の白いテーブルクロスが引かれた円卓は清潔感を生み出していた。
円卓の上には、野菜料理を中心としたメニューが並べられており、その半分以上はエリシアが名前も知らないものだ。
恐らくはこの地の――若しくはエルフ特有の郷土料理なのだろう。
「あんまり、見たこともない料理も多いと思うけど、きっと口に合うわ。とりあえず、座って」
ミスラはそう言い、エリシア達を座るように催促する。
「それじゃあ、食べながら話でもしようかしら?」
「そうですね。そうしましょうか」
エリシアは、緑色のパンの様な物を手に取る。
これは、妖精草と呼ばれる妖精がいる森でしか取れない特殊な山草をパン生地に練り込み、粒状のチーズを入れ込んで焼いたものだ。
ミスラによると、特別な日に食べるある種の御馳走であるらしい。
(言っちゃ悪いですが、余り美味しそうには見えませんね……)
エリシアはそんな事を思いながら、緑パンを口につける。
「意外と美味しい?」
妖精草特有の風味と、上質なパンの味、そして程よいチーズがお互いに干渉し合い、なんとも言えない独特な旨味を醸し出していた。
「でしょ。このパンは、塩とか砂糖で味付けしてないから、素材の味が大切なのよ」
ミスラはそう言った後「さてと」と呟き、本題へと入る。
「それでだけど、現在モンスターの群れがここに向かって進行を始めたわ。偵察隊によると数は2万以上らしいわ」
「二万ですか……」
エリシアは、二万匹以上のモンスターの群れをこの国が対抗できるとも思えなかった。
「ウェタル市国は人口5万人、常備軍2000人……とてもじゃ無いけど、身体的、数的に圧倒的な奴らの前には太刀打ち出来ないでしょうね」
「市民から徴兵すれば……いえ、無理ですよね」
2000人の兵士――市民から緊急徴兵すれば、もっと人数は増えるだろうが、そんな寄せ集めの兵力なんて大して役にも立たないだろう。
「そこで貴方達にお願いしたいの。ウル市国を攻めてきたオーガとオークを焼き殺したみたいに、奴らを殲滅してほしいわ」
「私は構いませんよ。その為に来たわけですしね」
「助かるわ。ありがとね……」
ミスラは微笑んだ。
「それで、モンスター達はいつごろ来る予定なの?」
「早くても明日の夕方ごろには到着する予定よ。遅くても二日くらいかし……っ」
その時だった。
部屋の中に真っ黒なフードを被り、武装した男と思しき者達が部屋に勢い良く侵入してくる。
数にして10人以上――フードを深く被っている為耳が見えず、エルフかも判別できない。
「何故都市長が⁈」
黒尽くめの男の1人が困惑した様子で声を上げた。
「気にするな。都市長もついでに殺して良いとも言っていたからだろ。それにその方が褒賞がもらえるしな」
デテールはそう言い、短剣を抜いた。
「お前ら、殺すんじゃないぞ。殺すのは弄んでからだ……」
デテールは舌舐めずりし、じりじりと距離を近づいてくる。
「誰の手の者なの⁈ もしかして……」
「都市長は知る必要はありませんよ。どうせ今から惨めに死ぬんですからねぇ」
ミスラの問いを軽くあしらったデテールは、卑下た笑みを浮かべる。
「アラス、お願いできますか?」
「ボクがやる必要すらないよー。だって相手弱いしねぇ?」
「では、我が……」
レーマはそう言い、一歩前へと出る。
「お前ら、かかれ!」
デテールの号令で、一斉に"竜の眼"の団員達が飛びかかる。
「車割!」
レーマが魔法を唱えると、辺りが一瞬だけ暗闇に包まれた――その様な気がした。
次の瞬間、デテール以外の黒尽くめ達の四肢が吹き飛び、食堂を真っ赤に染め上げた。
デテールはその瞬間に動きを止め、バックステップで距離を取った。
「な、なんだ……何が起きたんだ?」
デテールは理解が及ばない様で、困惑している様子だった。
「うわぁ……もう少し、そのなんて言うか……汚さないと言うか、もう少し別な方法はありませんでしたか」
「対象を効率良く滅ぼすには、これが最適だぞ? 後は悪魔っぽい殺し方ってやつ……浪漫だな。それと、リーダー格らしい男は生き残しといたぞ」
レーマはそう言う。悪魔に何と言っても、無駄だろう――これはアラストルで充分に立証済みだ。
「……それで、私達で弄びたいんでしたっけ?」
エリシアは、唯一生き残った。デテールに視線を向けた。




