魔族の少女
エリシアが再び目を覚ますと、太陽が登り、辺りを明るく照らしていた。
太陽もそう高い位置には無い、まだ時間的には、朝だろうか。
「ぐっすり、寝てしまったみたいですね......」
辺りを見渡すと、オークの死体が転がっていた。
勿論、ステータス欄にも《魔力変換》があり、これが昨日の出来事が夢じゃ無いということを物語っていた。
ふと、自分の身体を見てると、ドレスの足元が茶色に染まっていた。
「昨日は暗くてわかりませんでしたが、随分と汚れてしまいましたね......」
手入れされていない平原をずっと、歩いてきたのだ。泥などで汚くなるのは当然だろう。
「とりあえず、着替えましょうか」
エリシアは、鞄の中からメイド服を取り出す。
これは、メイドの自室からこっそり盗んできたものだ。
全体的に黒色を基調としており、今来ているドレスとは違い、汚れも目立たない筈だ。
メイド服に着替えてみると、意外と動き易く、今まで来ていたドレスとは比べ物にならない程だ。
「これなら、今より早く動けそうですね」
エリシアは先へ、進むことにした。
エリシアは、歩きながら今後どうするかを考える。
兎も角、エルミール領から脱出するとして、その後だ。
しかし、エルミール家は、カルミア王国の五本指に入る大貴族だ。領外でも、それなりに影響力がある。
ならば、完全に安心するには国外まで逃げる必要がある。
ならば、何処に逃げるべきか。
「だったら、エストリア帝国辺りが妥当ですかね」
エリシアが、思いついた逃亡先ではエストリア帝国が一番良いだろう。
エストリア帝国は、カルミア王国と国境を接する大国だ。
カルミア王国はエストリア帝国から独立したと言う歴史がある。
それ故に、建国以来から非常に仲が悪く、お互いを仮想敵国と定めている。
勿論、そんな国に逃亡すれば手出しはできないだろう。
「折角、ですしその後は冒険者にでもなりましょうかね......」
エストリア帝国では冒険者業が、盛んと聞く。
国土が、多くのモンスターの群生地があるためだ。
それに、今のエリシアは規格外の戦闘能力を持っているので、それなりに裕福な生活を送れる筈だ。
今後の目標が決まれば、後は早い。一刻も早く、カルミア王国を抜け出し、亡命するのだ。
それに、追っ手に捕まっても、今のエリシアなら抵抗することも容易い筈だ。ーーきっと、逃げることができる。
そうして、自分の明るいはずの未来を想像しつつ、先へと急いだ。
ーー暫く歩いた時だった。
目の前から、ボロボロの布キレの様な服を纏った少女が走ってくる。
年齢はエリシアと同じ程度で、白銀の髪を肩辺りまで伸ばしていた。額からは二本の角が生えており、それが純粋な人間では無いことを示していた。
彼女は息も絶え絶えで、エリシアの元まで駆け寄って来た。
「た、助けてください。お願いします!」
彼女は、エリシアの足元にしがみつき、懇願して来た。
「い、一体なんですか?」
見た感じ、彼女は魔族だろう。
魔族の国はここから、遥か遠方にある。それにカルミア王国では魔族は穢れたものとして扱われている。
だとすれば、良いとこ彼女は奴隷だろうか。
(どうしましょうか......なるべく面倒ごとには関わりたく無いのですが)
エリシアは、何としても早くここから抜け出したいのだ。彼女に構っている余裕はない。
「申し訳ないのですが、他を当たってはくれませんか? 私も余裕のある身では無いのでは無いので」
「そ、そこをどうにか......このままじゃ、わたし殺されます!」
彼女は涙目で、エリシアにしがみついてくる。
「第一、私がどうにかできるほど強いと思ってるのですか? こんな非力な見た目なんですよ?」
エリシアの外見は明らかに強そうには見えない。
それでも、見境なく助けを求めてくるとは、ある種の極限状態なのだろう。
「見つけたぞ!」
その時、盗賊と思わしき男達が姿を現す。
「逃げ出しやがって、この薄汚れた魔族が!」
「ひっ......」
少女は、エリシアの背中に咄嗟に隠れる。
「この魔族を連れ出したのはお前か⁈」
男はエリシアに怒声を浴びせる。
「いえ、私では......」
「きっと、そうに違いねぇ!」
「丁度いい、お前も一緒に売り捌いてやるよ!」
しかし、盗賊達は聞く耳を持たない様子で、エリシアの話しが全く通じてない様だった。
「オークの次は盗賊ですか......」
エリシアは深い溜息を吐く。
だが、今のエリシアが盗賊相手に何処まで通用するのか、試すには丁度いいかもしれない。
「後で、何かしらお礼はしてくださいよ?」
エリシアは魔族の少女にそう言い、自分から離れている様に指示する。
「奴隷にして売り捌くのは良いですが、私を倒してからにしてくださいね?」
エリシアはそう言い、ユニークスキル《魔力変換》を発動した。