休息ー2
市議会の控室に2人の貴族のエルフの姿があった。
1人は、商業の最高指揮権を持つヴェルダ・オースティン。もう1人はウェタル市国の2割の土地を保有する大貴族、ゴーセル・カウマンだ。
「おのれ! この私に恥をかかせおって!」
ヴェルダはそう叫び散らす。
彼の顔は包帯に覆われていた。12針縫う大怪我だ。口を動かすたびに激痛が走り、それと同時に怒りが込み上げてきた。
「こちらも見てて、我慢できなかったぞ。あの小娘風情が……」
それに続く様に、ゴーセルが口を開いた。
そんな彼等の視線の向こうには、15名の傭兵の姿があった。
彼等はヴェルダ直属の傭兵団である"竜の眼"の構成員だ。
彼等は他国との貿易するための馬車の護衛で重宝されており、彼ら30名はその中でも精鋭中の精鋭で、全員がBランクの冒険者以上の実力者だ。
「決行は今日の夜だ。皆殺しにしてくれるわ! このヴェルダ様に楯突いた事後悔させてやる……」
ヴェルダはそう言い、邪悪な笑みを浮かべた。
「にしても、竜の眼の精鋭を使うとは過剰戦力過ぎないか?」
「奴らは腐ってもSランク冒険者だ。油断は出来んだろう」
Sランク冒険者は誰もが知る冒険者の最高位だ。人間にして、人間の限界を逸脱した存在――。希少且つ強力な武具で身を包み、時にはドラゴンすら討伐する。
少なくとも、あの小娘達はその領域にいる。油断するのは危険すぎる。ヴェルダも身を持って立証済みだ。
「お主の軍勢じゃしな。好きにすれば良い……」
「そうさせてもらうよ」
だが、ゴーセルはその重要性に気付いてはいない様だが。
Sランク冒険者、というよりは冒険者ギルドが存在しないウェタル市国では実感は湧かないだろし、仕方がないと言えば、仕方がない。
「ヴェルダ様、一つ宜しいでしょうか」
「ん、なんだ?」
その時だった。"竜の眼"の団員の1人が前へと出る。デテール・コルステークスと言う男だ。
彼は"竜の眼"の副団長であり、Sランク冒険者に匹敵する実力者だ。その残虐な性格と盗賊40人を単独で殲滅した事から、"残虐公"の名で恐れられている人物である。
「今回の暗殺目標は、中々に見目が整った女共とのことですよね?」
「まぁ、そうであるな」
「でしたら、殺す前に遊んでも構いませんか?」
「好きにすれば良い。だが、終わったらしっかり殺すのだぞ」
「ありがとうございます。では、終わり次第しっかりと殺しておきます……」
デテールはそう言い、卑下た笑みを浮かべ舌なめずりをする。今夜のことを考え、悦に浸ってる様だ。
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「疲れましたね……」
部屋へと帰ってきたエリシアは、ソファへと腰を下ろした。
ウェタル市国を1日かけて、探索してみたが特にこれと言って気を惹かれるものが無かった。正直、帝都の方が充分に見所がある。
「ですね。特に面白みもないし、食べ物も美味しいわけでも、不味いわけでもないし、店員の態度は悪いし……」
そう溜息を吐いたのはリアだ。
「そうだねぇー。全く面白く無かったね、見た目は神秘的だけどすぐ飽きるしねー」
「兎も角、失礼な奴らだな。人間風情が上位悪魔の私にあの様な視線を向けるとは……腹立たしい」
そう言うのはアラストルとレーマだ。彼女達もこの国は余り気に食わなかった様だ。
「仕事が終わったら、さっさと帝都に帰りましょう。この国、居心地悪いです」
「確かにそうですね。エストリア帝国の方がご飯も美味しいですし」
モンスターの討伐が終わったら、早々と帰ろう――エリシア達はそう思った。
その時だった。
「昨日は申し訳ないわ。うちの国は馬鹿ばっかりで……」
そう言って、部屋に入ってきたのはミスラだった。
「いえ、ミスラの責任ではありませんし」
「そう言ってくれると助かるわ。それでなんだけど、今夜夕食を一緒に食べない? モンスター討伐の件で話したいこともあるし、そのついでね」
「そうですね。折角ですし、そうしましょうか」
エリシアは辺りを見渡す。特に異論がある人物はいない様だ。
「じゃあ、行きますか。時間も夕食どきだし」
「そうですね。私達も歩き回ってお腹空いてましたしね」
エリシア達はミスラに導かれて、市議会にある食堂を目指した。




