来訪
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それから三日がたった。
エリシア達を乗せた空飛ぶ城――旧文明の産物である空中戦列艦は、アヴァンブルム都市国家群まで到着していた。
エリシアの眼前には、海岸線が広がっており、遠目に城壁に囲まれた街が見えた。
「あれはウル市国と言う獣人の国よ。その向こうにウェタル市国があるわ」
ミスラは指をさし、そう言った。
ウル市国の外壁の周りには、畑が広がっており壁内にはみっしりと家屋が並んでいた。
規模自体は小さいものの、あれ程の密集具合だ。人口は二、三万人はいるだろうか。
その時、ある異変に気付いた。
ウル市国の外壁の平野に、獣人の軍勢の姿があった。
数にして、八千人程度だろう。
「一体あれはなんなんでしょうか?」
「演習ってわけでもなさそうね。あれ程の大軍はウル市国には居ないはずよ……無理にでも徴兵しなければだけど」
ミスラの記憶では、ウル市国は人口約三万人も居ないくらいだ。
それに対して、目の前にいる兵士と思わしき者達は、八千人程――余りにも多すぎる。
人口に対して、この人数を正規兵にするなら国家が破綻するレベルだ。
「向こう側から、何か来てるみたいだねー」
アラストルはそう言い、空中に映像を浮かばせる。これも何かしらの魔法なのだろう。
そこに映し出されていた光景は、ウル市国へと向かってくるオーガとオークの姿が見えた。
「モンスター⁈ もしかして、もうここまできたの……」
ミスラは、驚愕する。
ここは都市国家群でも、中間に位置する場所だ。
ここに到達するなら、人口三十万人を誇るエテル市国を突破する必要がある。
ここより前方にあり、辺りを山脈に囲まれたエテル市国は、都市国家群の中でもトップクラスの国力を誇る国だ。
奴ら、モンスターがここまで来ている――つまりはそう言う事なのだろうか。
「どうします? ここで倒してしまいますか?」
エリシアはそう言い、一歩前に出る。
エリシアなら、あれ程の大群でもなんとかなるだろう。
若しくはアラストルに魔力を貸して、あの最高位死霊魔術を発動すれば、一掃できるはずだ。
「ここは、ボクに任せてもらっていい?」
その時だった。アラストルは声を上げた。
「どうしたんですか。アラスは人助けをするタチでもないじゃないですか?」
「まぁ、そうだけどねぇ……理由はあるよ」
「理由ですか?」
「折角この際だし魂が欲しいんだよー。悪魔は食べた魂の分強くなる……でも、エリシアは人間を大量虐殺すると嫌な顔するでしょ? そして、目の前に殺しても文句言われなさそうな連中がいる。これを襲わない理由はないよね?」
アラストルは、一瞬狂気的な笑みを浮かべる。まるで獲物を見つけた飢えた肉食獣のそれだ。
「我が主人、我も行きましょう」
レーマもそれに続く様に、悪魔的な笑みを浮かべた――と言うか、そもそも悪魔なのだが。
「いいわね、それ。最高位の悪魔も見てみたいしね」
ミスラは、何処か乗り気な様だった。
最高位悪魔の実力をこの目で見てみたい。そう言う気持ちからくるものだった。
「エリシアも文句はないよねぇ? あれが本隊って訳でもなさそうだし、エリシアはその為に体力温存しとけばいいよー」
「そうですね。ここはアラスに任せますよ」
アラストルが負けるわけは無い。そこの点は心配する必要はないはずだ。
ただ、変な魔法を使って周囲に被害が出なければいいのだが。
「それじゃ、行ってくるねぇ。十分で戻ってくるかねー」
アラストルはそう言いうと、姿が消える。
転移魔法でも使ったのだろう。
「我も主人に続くことにしよう……」
レーマもアラストルに続く様に、転移魔法を発動し、姿を消した。
今、悪魔の大虐殺が再び始まるのだった。




