無能聖女の覚醒ー2
腹部に大穴を開け、倒れ伏せたのを見て、他のオーク達は困惑している様だ。
「ナ、ナンダ⁉︎」
「此奴モ、強イニンゲンカ......」
オーク達は怖気つき、その場で硬直していた。
しかし、この中で最も困惑していたのはエリシアだった。
「な、なんですか......これ」
自分の身体に、あり得ない程に力が入ったのを感じた。
その瞬間、自分の身体が重力から解放された様に軽く、力も無限に入る様な感覚だった。
「コ、殺ス!」
一体のオークが静寂を切り裂き、手に持った棍棒を振り下ろしてくる。
それをエリシアは咄嗟に、避ける。
身体は綿毛の様に軽く動き、振り下ろされた棍棒を避けたのだ。ただの人間ができる動きではない。
「何これ? 身体が軽い...」
エリシアはステータスを確認する。
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エリシア・エルミール 14歳
レベル:37
体力:98
精神力:340
魔力:9900
筋力:109
スキル:《祝福》《鑑定眼》
ユニークスキル:《聖女》《魔力変換》
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能力値に変わりはなかったが、ユニークスキルに《魔力変換》が追加されていた。
エリシアは《魔力変換》の詳細を確認する。
スキルの保有者は、そのスキルについて強くイメージする事で、スキルの詳細が分かるのだ。
例えば、ユニークスキル《聖女》はスキル《祝福》《鑑定眼》を獲得すると言ったものだ。
《魔力変換》:自身の魔力を他のステータスに振り分けれる。
これが能力の詳細だらしい。
恐らく、無意識のうちにこのユニークスキルを発動していたのだろう。
にしても、いつの間にこんなユニークスキルを獲得したのだろうか。
「これって、私めちゃくちゃ強くなってない......えぇ?」
エリシアの魔力値は異常と言えるほどに高い。
天才と言われているミリスですら、魔力量はエリシアの半分しかない。
勿論、魔力を魔法に変換する出力装置が壊れているエリシアには無意味だったが。
しかし、その魔力、他のステータスに振り分けれるなら話は別だ。
ステータスは100で一般人、1000もあれば超一流の冒険者クラスだ。
9900もある魔力を他に振り分けられるのなら、チートと言っても過言ではないだろう。
オークは古びた剣を突き刺そうとして来た。
しかし、エリシアは棍棒を難なく避け、オークの横腹に拳を振り下ろす。
「ブゴゥ⁈」
オークはその衝撃で、数十メートル吹き飛ばされ、その先で肉塊となった。
「ニ、逃ゲロ!」
「ツ、強イ!」
オーク達は、勝てないと悟ったのか逃亡を始める。
「このまま逃げて、他の人が襲われても困りますね」
彼等もある意味、被害者だ。
住処を奪われ、仕方なく人を襲っていた。可哀想と言えば、可哀想だ。
しかし、エリシアは"人間種"だ。人として、オークの立場に立つわけにもいかない。
「オーク達には悪いですが、生かしてはおけませんね......」
エリシアは石ころを拾い上げ、オーク達に投げつけた。
「ブグゥ⁉︎」
凄まじい勢いで飛んできた石が、オークの頭を貫いた。
その調子で、次々と石ころを投げつけて、残ったオーク達を掃討していく。凄まじい命中力で、1発たりとも外さない。
どうやら、エリシアには投擲の才能があるようだ。
「これで終わりましたね」
エリシアの眼前には、オークの死体が転がっていた。
雲の隙間から、月明かりが大地を照らしており、それがよく見えた。
「ふぅ......なんだか、疲れましたね」
エリシアはその場に倒れ込む。
元からずっと歩きっぱなしだった事もあるが、極度の死の緊張から解放されたことの方が大きい。
「もういっそ、寝ても良いでしょうか」
暫く、横になっていると眠気が襲ってきた。
本当は危険な行為であるが、この際どうでもいい。
オークだって倒せたのだ。獣程度は容易くあしらえる。もし、襲われた時はその時だ。
だんだんと、エリシアの意識は遠のいていった。