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大魔法使いの謁見


✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎



エストリア帝国 帝城オルガスル 謁見の間にて。



玉座に鎮座する女帝、ウェレス・エレ・ヴァルアード=エストリアは、前方の男に視線を向けていた。


男の容姿は、特段目立ちはしないものの整った容姿で、赤い瞳とブランドの髪の持ち主だ。



「ウェレ。それが例の処刑されかけた魔法使いだよ」



そう言ったのは、男の隣にいた猫獣人の少女だった。


彼女は、一国の長であるウェレスを"ウェレ"と愛称で呼んでいる。



普通はそんな不敬なことは許されない。


しかし、これもウェレスが許した事だ。誰も咎めるものなどいない。



「お初にお目にかかります。皇帝陛下……私はアレス・エルミールというものです」



アレスは深々と頭を下げた。


カルミア王国で、帝国の密偵にまんまと騙されて国家機密である魔法技術をばらしてしまったのだ。



そこで本来は、妹を犯人にでっち上げて処刑を免れるはずだったが、その妹が逃走し行方不明になった。


それでアレス本人が、処刑されることになったのだが、上手いこと帝国の密偵に泣きついてここまで亡命してきたのだ。




カルミア王国には、最早戻れない立場だ。とは言え、落ち込んではいられない。



この新しい場所でまた一から始めればいい。


なんたって、自分は有数の魔法使いだ。どんな環境でも、そこそこの地位といい暮らしは出来るはずだ――少なくともアレスはそう思っていた。



「お主が例のエルミール家のものか?」



ウェレスはアレスに問いかけた。



「はい……とは言え、ご心配は入りません。最早王国には戻れない身です。これからは、帝国の為に働いていくつもりです」



アレスは再び頭を深々と下げた。


これからは、目の前の竜人族が自分の長だ。なるべく媚を売らなくては行けない相手だろう。



「面をあげよ。お主の様な人材は我が国には有益じゃ、代々強力な魔術師を輩出する血筋は是非我が国に入れたい……とは言え、今後の待遇を決めるのは魔法省の判断があってからだがの」


「はい。なるべく良い待遇だと嬉しいのですが……」


「心配はするな。言った通りお主は有益な存在じゃ。雑には扱われんよ」



ウェレスはそう言い、アレスの容姿に注目した。


と言うのも、アレスが何処かで見た様な、既視感を感じたからだ。



そのブロンドの髪に赤い瞳に加え、何処かで見た様な顔立ち――それが誰か理解するにはそう時間は要らなかった。




その人物とは、エリシアだ。



エリシア・エルミール――竜殺しにして、大悪魔使いの救国の英雄だ。


エリシアとアレスが兄弟だとしたら? そのくらいは容姿が似ていてもいいだろう。


もう一つは苗字が同じであると言う事だ。エルミールという苗字は割と一般的なものだ。帝国では平民にも多い、言わばありふれた名前だ。



しかし、エリシアの経歴は全くもって不明。


分かっている事といえば、カルミア王国方面から渡ってきたという事だ。


実はエリシアがエルミール家のもので、目の前のアレスとは血縁関係――別に可笑しな話ではないし、寧ろ自然なくらいだ。



(だとしたら、エリシアは何故ここまで……?)



だとしても、何故エリシアは身分を隠し帝国に移り済んだのだろうか。何かしら深い理由があるはずだ。



(この男にエリシアについて聞いてみるか? いや、流石に地雷か……)



兎も角、今は判断材料が少ない。変に聞き出すのは、余りにもリスクがある行動だ。



「お主に一つ質問なのだが、妹か姉はいたか?」


「はい。妹はふた……いえ、1人だけいます」



アレスはエリシアもカウントしようか考えたが、魔法が使えないものは人ですらない――それが彼の考えだった。



「それで、その妹の名前は?」


「ミリスと言います。まぁ、傲慢なやつでしたよ、あれは……」



アレスはそう言い、深い溜息を吐く。


どうやら、ミリスという人物に余りいい感情は持ってない様だ。



それに、アレスの口からエリシアに関する情報は出なかった。


そもそもエリシアは分家の人間なのだろうか。それとも、アレスがあえて言わなかったり、隠したのか、それとも全くの部外者なのか。


いろいろ考えようはあるが、見当が、ーつかない。



「なぜ、陛下はそんな質問を?」



アレスは不思議そうに問いかけてくる。


急にそんな質問をされたら、この様に困惑するのも当然だろう。



「気にするな。妾の気まぐれの質問じゃ……それよりこれからよろしく頼むぞ?」



ウェレスはそう言うと、アレスは再び頭を深々と下げた。


これから暫くして、色々と落ち着いたなら妹であるエリシアでも探しに行こう、アレスはそう思った。



(自分の命欲しさに逃げたクズめ……絶対に見つけて殺してやるからな)



アレスはその事を思い出すと、怒りが込み上げてくる。


"生きる価値もない奴"が命欲しさに逃げ出して、そのせいで"生きる価値がある自分"が殺されかけたのだ。


これはあまりにも許し難い事だ。見つけて、この手で無惨に殺してやらないと気が済まない。


絶対にいつか見つけて、殺す――アレスはそう強く心に誓った。

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