都市国家へ
数日後――。
エリシア達とミスラは、アル・バレの港まで足を運んできた。
そこには無数の帆船が並び、海を覆い尽くしていた。
世界有数の貿易都市と言われているくらいにあるだろう。
アル=ミサドもかなり大規模な貿易都市であるが、アル・バレはその数倍ある。
「あれが、我が国の船ね」
ミスラは指を指す。
その先には、ウェタル市国の国旗を掲げた帆船が停泊してきた。
「皆、忘れ物してないですよね? あれ乗ったら暫く帰って来れませんし」
エリシアは、何か忘れたものは無いかと確認する。
「ボクはないよー」
「我も無いな」
「私もありませんね」
どうやら、問題はない様だ。
「それで、憤怒の悪魔を連れてくるってことだったけど居ないみたいね」
ミスラはそう言い、辺りを見渡す。
「ボクがそうだけどー?」
辺りをキョロキョロとしていたミスラに対してアラストルは手を挙げる。
「貴方が憤怒の悪魔?」
「そうだよ。たまたま人間の姿してるだけだけどねー」
「本当に? にわかに信じられないわね」
「君が、都市長って言うのも信じ難いけどねぇー」
その時だった。
ウェタル市国の旗を掲げる帆船から、鎧を纏った中性的なエルフの青年が此方へと向かってくる。
「ミスラ様、お戻りになられましたか!」
「まぁね。運良い事に、物凄く強い助っ人も連れて来られたわ」
青年は、エリシア達の方へと視線を向ける。
「あのお方達がでしょうか?」
「えぇ、そうよ。エストリア帝国では、竜殺しの英雄として名を馳せているそうよ」
「本当にあの方達が、ですか……?」
青年は不安そうな表情を浮かべる。
確かに、外見年齢が15歳未満程度の少女だ。これが竜殺しとか、Sランク冒険者と言われてもにわかに信じ難い筈だ。
「その心配は要らないわ。ちゃんとギルドマスターからの紹介だから」
ミスラはそう言い、一枚の紙を青年に渡す。
それは、リハクのサインが書かれたギルドの派遣証明書だった。
それを見た青年は、はっとする。
「まさか、貴方が本当にSランク冒険者だとは……疑ってしまい申し訳ありません」
青年は頭を深々と下げる。
「気にしてないし、大丈夫ですよ。まぁ普通はSランクの冒険者には見えませんしね」
エリシアは苦笑を浮かべた。
せめて後、三年くらいして大人びてきたらこんな事も言われなくなるかも知れない。
「名乗れ遅れました。私はウェタル市国の聖霊騎士隊、副隊長を務めるゼーア・ミハイルです」
青年――ゼーアは再び頭を下げた。
「時間もありませんし、早く船に乗るわよ」
ミスラはそう言い、エリシア達を船に乗る様に催促した。
ミスラに連れられ船に乗り込むと、数名の精霊騎士、及び数多の水夫の姿があった。
船に乗り込み、暫くすると船は動き出した様で、ぐわんぐわんと船体が強く揺れた。
「にしても、船で二週間ですか……精神的にやられそうですね」
「ですね。正直、船嫌いなんで寝る時くらいは、陸地に停泊して欲しいんですが……無理ですよね」
エリシアとリアは深い溜息を吐いた。
リハクから聞いた話で、順調に行けば二週間でアヴァンドルム都市国家群に着くそうだ。順調に着かなければもう何週間かかるかは分からないが。
兎も角、不衛生で揺れて狭苦しい船内にずっといるのは骨が折れそうだ。
「我と我が主人は問題ないのだが、人間は面倒なのだな」
「だねー。悪魔種は精神的なダメージ負わないからね」
2人の大悪魔は他人事の様に、呑気にそう言った。
実際、彼女? 達にとっては他人事なのだろう。
「まぁ、普通に行くなら二週間はかかるわね」
「普通に行けば……どう言う事でしょうか?」
エリシアはミスラに問いかける。
「暫く沖合の方に行けば、どう言う事かわかるわ」
ミスラはそうとだけ、エリシア達に伝える。
一体何なのか――兎も角、予想もつかないが、何かしら航海の時短方法があるのだろう。
それから数時間程度、船に揺られて海を進んで行く。
正直、特にやる事もない。
リアやアラストル、レーマ――ミスラにゼーアと手当たり次第に会話をしてみたが、流石に数時間もすると本当にやることが無い。
ボートゲームやカードゲームの類を持ってくればよかったと、今更ながらに後悔する。
これが、ずっと続くと考えると吐き気がする。
《魔力変換》で魔力を全て筋力に振り分けて、ジャンプで都市国家まで、飛んで行けたりしないか――ふと、そんな変な事を思ってしまう。
「見えた。あれよ」
その時だった。ミスラは窓から、外へと指を指す。
エリシアは、ミスラが指を指した方を見てみると、そこには城の様なものが宙に浮いていた。
宙に浮かぶ城は、船よりも遥かに巨大で小規模な要塞程度の大きさはあるだろう。
レンガの様な材質で造られたそれは、五階建て程度の高さで、空を飛ぶ塔の様に見えるだろう。
等間隔に並べられた扉からは鉄の筒が無数に並べられていた。
エリシアがかつて本で読んだ魔導砲と呼ばれるものと類似していた。
「何ですかあれ、空に浮いてますが……」
「魔法でしょうか? だとしても、あれだけ大きいものを浮かすのは凄いですね」
エリシアとリアは、浮かぶ城を漠然と眺めていた。
当然ながら、あんな異質なもの初めて見る。
エリシアは強いて言うなら、昔読んだ"旧魔導文明について"と言う本で見た、空中戦列艦――と言うものに似ていると思った。
「ヴァラジア人の産物まだ残ってたんだー。一千年経っても動くもんなんだねー」
「まさか残っているとは……忌々しい」
アラストルとレーマはどうやら、あれに身に覚えがあるかの様な反応だった。
「あれは我が国で発掘された旧文明の兵器……空中戦列艦よ」
ミスラは誇らしげに、そう言い放った。




