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都市国家の悲劇



エストリア帝国の南方にある沿岸地帯。





海を背に山脈で覆われたこの地域には、延べ二十四カ国の小国が乱立していた。


アヴァンドルム都市国家群――これの起源は八百年前にも遡ることができる。



都市国家群は、エルフの国や人間の国、獣人の国など種族ごとにそれぞれ分かれて国を形成していた。


八百年と言う長い年月の間でも、種族間で交わりがほぼ無かったのは、都市国家群の成り立ちに深く関わってくるのだが。





しかし現在、アヴァンドルム都市国家群は滅亡の危機に瀕していた。


周辺のモンスターが連合を組み、大侵攻を始めたのだ。



その数は約三万。協調性も人間種程の知能もない彼らが、これ程の大群を形成するなど本来はあり得ない。


異常としか言いよう無い。ある種の突然変異か、それとも裏で糸を引くものがいるのであろう。




現在二十四カ国中、半分の十二カ国がモンスターの群れにより陥落していた。


モンスターに占領された都市の有様は、地獄の様相だった。


食人を好むオーガやオークにより、人間は家畜化され、そうでなくとも無意味に殺されあちこちに死体の山を形成していた。




✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎




「次はウェタル市国を攻めるぞ」



そう口を開いたのは、モンスターの中でも知能が比較的高いスネークマン――中でも上位者の"オリジン・スネークマン"が口を開いた。


辺りを見渡してみれば、様々なモンスターの上位種達の姿がある。


言うなれば、モンスターの大群を仕切るもの達で、強いて言えば群れのリーダー的なポジションだ。



彼らがいる大広間も、元はエテル市国と呼ばれる都市国家の王城であった。


占領されてからは、モンスター達の本拠地と化している。



大広間の端は、酷い死臭が漂う肉塊で覆われている。


そこにあるものを人間が見たなら、絶句することだろう。



「ナンデ、アノ国狙ウ? エルフ不味イ……イラナイッ」


「ソウダ……エルフ駄目、獣人美味イ。獣人ノ国、襲ウ」  



声を荒げたのは、キングオークとジャイアントオーガの二体だった。



「お前らは食い物事しか考えられないのか? あの国は比較的国力も高いから早く落とさねばならぬのだ」


「オタリ。言ウ事可笑シイ!」


「美味イモノ、食ウ。ソレガ先ダ」



オタリ――そう呼ばれたオリジン・スネークマンは深い溜息を吐く。



何故に、他のモンスターと言うのはこれ程に愚かなのか。


自分が人間種として生まれていれば、どれ程幸せだっただろうか。


モンスターの優れた身体能力は得られないが、少なくとも目先の利益にしか興味がない馬鹿共とは一緒に居なくて済むのだ。



「良いか。あの国、危険! だから潰す。わかったか?」



オタリはオークやオーガにもわかる様に、言葉を単略化して話しかける。



オーガとオークはお互いの顔を見合わせる。


しかし、やっぱり納得しなかった様で――。



「嫌ダ。獣人、食イタイ!」


「獣人ノ国、襲ウ。襲ウ!」


「はぁ……」



オタリは深い溜息を吐く。


自分の技量では、説得は無理そうだ。もう好きにさせるのが賢明だろう。



「わかった、わかった……お前らは好きに行動すれば良い。もうそれで良いとも」



そう言い終え、オタリは今まで黙っていた他の者にも目を向ける。



「それでお前らはどうする、 獣人狩りか、それともエルフの国を攻めるか?」


「俺は、ウェタル市国を攻める。確かに他の国を攻略するにもあそこは邪魔だ」



そう言ったのは、ウォーリア・リザードマンの雄である、ラーシャーと言う個体名を持つ者だ。


ラーシャーはオタリが共感できる数少ないモンスターだ。


なんといっても、彼もまたオタリとしっかりとした会話ができ、高知能な部類だ。



「獣人ヨリ、エルフノ方ガ好キ」



続けて、そう声を上げたのはゴブリンロードだ。


正直、こいつがこの中で一番頭が悪い。とは言え、食の好みがエルフで助かった。



「……ヴォ」



毛むくじゃらの大きな巨人――ビーストトロールは、短い咆哮を上げ、オタリの方へと近づく。


彼率いるトロールの群れは、ウェタル市国攻略組に付くようだ。



「兎も角、これで二手に分かれたな。しかし、死ぬなよ。人間達を舐めていると手痛い反撃を喰らうからな」


「ソンナワケナイ!」


「人間、弱イ。無理」



オーガとオークは、汚い呻き声をあげて笑い出す。



「とは言え、人間達に我々は散々追い詰められていたのだ。しくじったら、全てが元通り……」



人間達に過ごしやすい地域を占拠され、自分たちは不便な僻地に追い込まれる。


オタリはそんな生活に再び戻されるのを想像すると反吐が出る。



「だから、絶対に死ぬな。お前達が死ねば、オーガとオークの統制は出来ないにも等しい。そうなれば、戦力の著しい低下になるからな」



一応念を押すが、彼らは聞く耳を持たない。


オタリは、大きな失態が起こりそうな気がして、心配で仕方なかった。


そして、その心配も直ぐに的中するのだった。

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