都市国家からの来訪者ー2
あれから数週間の月日が流れた。
エリシアは、自宅のソファの上に寝転がり分厚い本を読んでいた。
その本の表紙には、"異世界勇者の冒険譚"と書かれていた。
所謂小説というやつだ。
元々物語系の本は余り興味もなく、殆ど読んだことがなかったが、こうも暇だとなんでもやってしまうものだ。
「にしても、暇ですね……」
エリシアは欠伸し、身体を思いっきり伸ばす。
「数百の魔王を駆逐した異世界の勇者ですか……そもそも魔王ってそんなに沢山いるんですかね」
この本は、まるで過去に実際にあった出来事のように書かれていた。
とは言え、作り話だろう。いくらなんでも突拍子もない話だ。
「流石に暇ですし、依頼でも受けますかね」
エリシアは、久しぶりに冒険者として依頼を受けようか迷う。
「エリシアさーん!」
その時だった。
ソファに横たわるエリシアにリアが飛び付いてくる。
「またですか!」
エリシアはそれを、軽い身のこなしで避ける。
リアはそのまま、エリシアの居なくなったソファにダイブした。
このところ毎日こんな感じだ。
ベタベタくっついてくるのは別に良いし、嫌な気もしない。
しかし、最近は別の関係を求めるようになってきて少し困っているのだ。
「なんで避けるんですか? 私達付き合ってるですから、逃げる必要ないじゃないですか?」
「あれは無効ですよ。あの変な森のせいですし」
「それはだめですよ? だって、一度言ってしまったんですから……」
リアはそう言い、再び飛びかかろうと姿勢を整える。
「今日こそは絶対に、エリシアさんとあんな事やこんな事をっ!」
「アラス、助けてください‼︎」
エリシアがそう叫ぶが、アラストルが姿を現すことがなかった。
レーマの姿も見えないし、彼女を連れて何処かに出かけているのだろう。
その時、扉を数度ノックする音が聞こえて来る。
「誰かお客様見たいです。出てきます!」
「ちっ……タイミング悪いですね」
舌打ちをするリアを横目に、エリシアはそう言い、玄関の方へと走っていく。
正直、この来訪者には助けられた。
扉を開けると、そこに居たのはリハクだった。
「すまねぇな。緊急の依頼があったんだが、話だけでも聞いてくれないか」
「別に良いですよ。丁度暇してましたし……それで依頼の内容は何ですか。流石に前のドラゴン討伐ほどのことではないと思いますが」
「それが案外そうでもないんだなぁ……都市国家群がモンスターの大侵攻で壊滅的被害を受けてるのは知ってるだろ?」
「まぁ、えぇ……」
その情報自体は、エリシアの耳にも入ってきていた。
モンスターがあれほどの大群を形成できるほど、協調性があるとはにわかに信じ難いが。
「それでだ。アヴァンドルム都市国家群にモンスターの群れの討伐に向かって欲しいんだ。報酬の件は依頼者側に聞いて欲しい」
「そうですね……受けるも受けないも、依頼者と話してみないといけませんね」
「なら話が早い。ギルドの応接室まで来てくれないか?」
「まぁ、良いですよ。最近退屈してましたし」
エリシアとリアは久しぶりに冒険者ギルドへと向かうことになった。




