正直者の森
2人は森の中へと足を踏み入れた。
森は異様な外見であったが、入ってみると意外にも心が落ち着き、それどころか安らぎすら感じた。
「なんでしょうか。見た目は不気味ですが、落ち着く……」
「ですね。この不思議な匂いも木が原因ぽいですね」
エリシアは辺りを見渡してみる。
モンスターは当然いないが動物の姿も無く、草もまばらにしか生えていないことに気づく。
恐らくこの木の影響だろう。有毒な何かでも出しているのだろうか。
それなら、余り長居はしたくは無いが。
「エリシアさん、そういえば私のことどう思っています?」
リアが訪ねてくる。
こんな質問してくるとは、いきなりどうしたのだろうか。
「どう思ってるって……嫌いだったら、いつもべたべた触っているとき、もっと嫌そうにしますよ」
「そう曖昧な言い方じゃなくて、好きか嫌いかでいえばどちらですか?」
「そりゃ……好きですが」
それを聞いたリアは一瞬、口を詰まらした。
「私も…大好きです……エリシアさん」
「は、はぁ。それは、ありがとうございます」
その後リアは再び口を詰まらす。
何か言いづらそうな様子で、顔が若干赤くなっていた。
「そのなんて言いますか……恋愛的な意味で好きなんです」
「……そうですか」
確かに、そこまでべったりくっついていては、好意を抱いてるのは明白だ。
とは言え、それは親しい姉的な関係だと思っていた。それが恋愛的な感情を抱いていたとは思っていなかったが。
「だとしても、なんでそれをこの場でそれを?」
「何でですかね、今なら言える気がしたんです。それで返事はどうですか……女同士って、変かも知れませんけど、それでもいいなら……お願いします」
リアはそう言い、顔を再び赤らめた。
エリシアは男女両方いけるタチだ。別にそう言うのには抵抗は無い。
それにリアもいい顔をしている。付き合っても良い、寧ろリアなら大歓迎――エリシアはそう思った。
「別に……リアなら良いですよ?」
「ほ、本当ですか⁈ ありがとうございます!」
リアは笑みを浮かべ、エリシアに勢いよく抱きついてくる。
普段なら、このまま跳ね返していたが、何故だかそう言う気が起きない。
「私たち付き合ってるって事でもいいんですか⁈ 良いんですよね!」
「まぁ、そうなりますね」
リアは吹きこぼれる喜びを抑えられない様子で、エリシアを強く抱きしめる。
次に今度は何を思ったのか、エリシアの顔に自身の顔を近づける。
「エリシアさん、キスしましょう?」
「今じゃなきゃだめですか? こんな森の中ですし、なんか気が進みませんが……」
「あの悪魔とだって外でしてたじゃないですか」
確かにしてた。
しかし、突然向こうがして来たことだし、契約ならば仕方がない。
「キスが嫌ならこう言うのは……」
リアはそう言い、エリシアの服に手をかける。
「付き合ってるなら、別に問題ないですよね⁈」
リアはそう言い、高揚した様子でエリシアを押し倒した。
「いやいや、いきなりってのはどうかと思いますよ!」
エリシアは抵抗しようとするが、意外とリアの力が強く争うことができない。
ある種の火事場の馬鹿力的なものなのだろうか。
《魔力変換》を使えばどうにでもなるだろうが、エリシアもこのスキルを完璧に使えるわけでもない。割り振れる魔力量は大体の感覚でしかできない。
それ故、魔力が膨大なエリシアは大体の感覚で、少なめに割り振ったとしてもとんでもない馬鹿力になる。
そうなるとリアを傷つけかねないし、最悪殺してしまうかもしれない。
「エリシアさん。ぐへへっ……ぐふぇ⁈」
その時だった。
リアは強い衝撃を受け、気絶したのかその場に倒れ込む。
「大変だったねー。もう少しで襲われるとこだったよー?」
リアの背後にいたのはアラストルとレーマだった。
アラストルの腕には手刀が作られており、これで気絶させたのだろう。
「なんですかね。素直に喜べませんね……」
普段のエリシアなら、感謝の言葉を述べていただろう。
何故だか、素直にその言葉が出なかった。この森の効果だろうか。
「あれ? だったら助けなくてもよかったかもねー」
「我も、心の底から嫌がってるようには見えなかったが」
兎も角、この森にずっと居たら頭がおかしくなりそうだ。さっさと出よう。
エリシアはこの後ずっと、この森の出来事を後悔したりしなかったりしながら生きていくことになるだろう。




