悪魔使い?エリシア
場所は変わって帝城オルガスル。
エリシアはアラストルを連れて、再び会議室へと戻ってきていた。
「という訳で、アラストルは私が制圧しました。そして私が契約して眷属としたのでもう安全です」
エリシアはそう宣言する。
実際アラストルと結んだ契約は対等なものなので大嘘である。
エリシアがアラストルを打倒して眷属とした――そう言った全くの虚構の話だ。
「そんな訳あるか! あの大悪魔を従えた? 人間にできるわけが無い。第一こんなか弱い少女なわけが無いだろ!」
そう声を荒げたのは大剣を携えたエルフの男だ。
彼はエストリア帝国の第四騎士団長、バーン・オットスルだ。
「俺は百年前、あの悪魔に目の前で妹を殺されたんだぞ? 仮にこれがアラストルだとしてもそんなのあり得るか‼︎」
やはりエリシアの予想通り、アラストルに相当ヘイトが溜まっている様だ。
「ボクは本当にアラストルだよー。だって君の妹の顔と名前おぼえてるもーん……確かエリーナだっけ。遊び殺した人間の名前覚えてるなんてボクは優しいねぇ?」
アラストルは邪悪な笑みを浮かべる。
人間を根本から嘲笑う人ならざる者のそれだった。
「な、何言ってるですか⁈ いくらなんでも……」
「本当にボクが憤怒の悪魔ってことを証明したのさ」
エリシアは驚愕する。
いくらなんでもこんな事を言うのはありえない。余りにも酷すぎる。
今回ばかりはエリシアもアラストルを許容できないだろう。
「やはり貴様かあぁ‼︎」
バーンは大剣を抜き、アラストルに飛びかかろうとする。
「辞めぬか」
ウェレスがそう言うと、バーンの身体は石の様に硬くなり硬直する。
これはウェレスのユニークスキル《皇帝》の効果の一つだ。
「陛下。何故止めるのですか……カタキは目の前にいるのにっ!」
「お主の気持ちも分かるが、抑えて欲しい。それに今飛びついても無駄に死ぬだけじゃぞ」
「構いません。一矢報い入れれば……!」
「残念だが、その一矢も報いれずに死ぬだろうの。だから落ち着け」
バーンは不服そうな表情を浮かべ黙り込む。悔しさからか涙が頬を伝う。
「しかし、本当に大丈夫なのですか? 再び暴走したり、と言うかそもそも憤怒の悪魔を倒したと思わされているだけでは……」
そう言ったのは神官の男だった。
どうやら本当にアラストルが暴れないのか心配な様だ。
「その心配はあるまい。エリシアに限ってそんな事はないはずじゃ」
「陛下はエリシア殿を買い被りなのでは無いですか?」
「そうかも知れない。しかしな、妾を一撃で倒したのだぞ? どんな猛者すら打ち倒してきたこの身を一撃で瀕死に追い込んだのじゃ。それに限って悪魔に負けたり、幻影を見させられるほどやわじゃあるまい?」
ウェレス意気揚々とそう語っていた。
エリシアは実際少し高く買い被りされているのかも知れない。
実際アラストルと殺し合ったら、どっちが勝つのか分からない状況だし、魔法が使える分向こうが有利なはずだ。
その時だった。
エリシアの脳内に一つの妙案が浮かんできた。
「そうです! だったらこう言うのはどうですか?」
「エリシアよ。今度は何を思い浮かんだのじゃ?」
「恨みがある人はこの悪魔を気が済むまで殴れば良いんですよ! 勿論それで気が済む訳では無いでしょうが、やらないよりましでしょう。それにこれでアラストルが反抗しなければ、私の管理下にあると言う証明にもなります」
エリシアの思いつく中では、この案が一番事を穏便に済ませられる作戦だ。
アラストルには悪い気もするが、自業自得である。
そもそもこの程度で済むのだから、幸運な方だ。
「ま、待って! 流石にそれは無いよ⁈」
アラストルはエリシアが一体何を言い出したのか一瞬理解できていない様だった。
そしてやっと理解したのか、今度はエリシアに発言を撤回する様に求めてきた。
「仕方ないじゃ無いですか? 今まで何をしてきたのか考えてください」
「で、でもさー……ボク死ぬよ?」
「大丈夫です死にません。悪魔ですし」
アラストルはエリシアに助けを求めるが、結局それも無駄に終わる。
「確かに、これで反撃しなければエリシア殿の支配下にいると言う証明にもなりますね」
「ならばそれで良いのでは無いか? この悪魔に直接恨みを持つ者はその拳を持って制裁すれば良い。それで一旦は終いにしようぞ?」
その話を聞いて、バーンを筆頭に数人の男たちがアラストルを囲い込む。
その全ては竜人やエルフの長命種だった。百年前の惨劇を乗り越え、今日までアラストルにトラウマと共に復讐心を抱いてきた者達だ。
「これで妹――エリーナの復讐に少しでもなるなら……」
バーンはそう言い、震える手で握り拳を作る。
「殺すでは無いぞ? あくまで此奴はエリシアの所有物だからな」
「問題ないですよ。人に殴り殺されるほど弱くは無いですし」
ウェレスは殺さぬ様に注意するが、その心配はないだろう。
アラストルのステータスは全体的に非常に高い。
人の拳で殺そうとすれば、殴り続けて一体何年かかる事だろうか。
「お、お手柔らかにねぇ?」
アラストルは苦笑を浮かべた。




