脱走
あれから4年の月日が過ぎ、エリシアも今日で14歳になった。
と言っても、誕生会などやるわけでない。そもそも、人生で一度もやったことがない。
不憫に思ったメイド達が、毎年こっそりプレゼントをくれたりする。彼女達には感謝しかない。
エリシアは、自分のステータスを確認する。
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エリシア・エルミール 14歳
レベル:37
体力:98
精神力:340
魔力:9900
筋力:109
スキル:《祝福》《鑑定眼》
ユニークスキル:《聖女》
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基本的に成人のステータスの平均値は100とされている。14歳のエリシアがここまで高ければ、充分だろう。
正直、最近能力値の上がり具合も以前に比べてかなり下がっている。これ以上大きく上がる見込みもない。
そろそろ、ここから脱出するべきだろうか。
「いっそ、今日の夜に逃げ出しても良いかもしれないですね......」
窓の外に目を向けてみると、雲が空を覆い尽くしていた。月明かりも殆どないだろうし、逃げるには丁度いい。
「ねぇ、愚図」
その時だった。
扉を蹴り開け、ミリスが部屋に入ってくる。
ミリスの手には、真っ二つに折れた絵画が握られていた。
「これやったの、あんたでしょ? 本当に最低よねっ」
ミリスは邪悪な微笑を浮かべる。
どうせ、間違えて割ってしまったのをエリシアに責任転換したいのだろう。若しくは完全に陥れようとしているのかのどっちかだ。
「し、知りませんよ。身に覚えが......」
「五月蝿いっ! 私がそうって言ったらそうなのよ、本当に理解力が低いわね」
ミリスは、割れた絵画をエリシアに投げつける。
「いっ......!」
肩に角から絵画の端が当たる。
絵画とはいえ、思いっきり投げられ角から当たれば、相当痛い。
「バカ兄にいつも殴られてるんだから、どうせ痛くないでしょ⁉︎ てか、その目も気に食わないのよ!」
ミリスはそう言うと、もう片方の絵画の破片も投げつける。
これは、大して痛くもなかったが。
「夕食の時間にでも、お母様とお父様にこの件は伝えとくわ。しっかりと反省しなさいよ!」
ミリスはそう言い残すと、エリシアの部屋を後にする。
「無理です、本当に無理ですっ! 逃げてやる! 今日絶対に家出しますからねっ! もう我慢できません、なんですか? あいつ⁈」
ミリスが出て行った後、エリシアは叫び散らす。
幾らなんでも、我慢にも限界がある。いつも耐えていたものが吹っ切れた気分だ。
自分の記憶が正しければ、この後、絵画の件でシリアが憤怒し、一ヶ月近く部屋に閉じ込められるはずだ。
流石にそれはごめんだ。日が落ちたと同時に家出を決行する。
そうと決まれば早い。
鞄に着替えの服、乾パンやその他必要なものを詰め込んでいく。少なくともエルミール領からは抜け出さないと行けないので、長旅になるだろう。
金銭は3枚の銀貨だけだ。この程度の金額だとそこまで当てにはならない。
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逃亡の準備が終わった頃には、太陽がほぼ沈み、夜になろうとしていた。
「少し夜には早いかもしれませんが、もう待てませんね......」
夕食の時間はもう少し後だろう。と言っても家族とまともに食事をとった事がないので、確かではない。
エリシアは鞄を背負い、部屋を出る。
そこからは誰にもバレないように、裏口から外へと出た。
「なんでだろう、空気が美味しく感じる......」
エリシアは外の空気を一杯に吸い込む。
これからどんな生活が待ち受けてるかは分からない。しかし一度は死んだのだ。どの様な結果でも後悔はしない。
エリシアは裏口から屋敷に遠ざかる様に、駆け抜けていく。
これでもう、このクソみたいな家とは関わらなくていいのだ。
ーー後は、自分の行きたい様に生きればいい。
きっと、私の未来は明るい筈だ。