竜女帝の目的
エリシアの一撃を喰らったウェレスは、地面に衝突する。
半径10メートルはあろう巨大なクレーターが形成される。
それにより、辺りの地面が沈下したのか、周囲にあった城の城壁が傾斜する。
クレーターの中心には倒れ込むウェレスの姿があった。
身体中に激痛が走る。
骨が幾らか折れてるかもしれない。もしかしたら内臓が潰れてる可能性もある。
兎も角、《即死耐性》のおかげで助かった。
これが無ければ今頃肉塊だ。
「妾は…負けたのか……」
ウェレスは敗北の味を噛み締める。
《竜化》していれば、まだ戦いになったかもしれないが、流石にこんなズタズタの身体じゃ変身もままならないだろう。
負けると言うのは、今までの人生で初めての感覚だ。
今まで、戦いでは負けた事どころか、追い込まれた事すら無かった。
帝国最強の存在――今までその称号を欲しいがままにしていた。
しかし、目の前の少女は一撃で、その自分を仕留めたのだ。
一言で言い表すなら、彼女は"規格外"だ。
「もしかしたら、エリシアならこの災厄すら乗り越えれるかもしれんの……」
ウェレスは静かに笑った。本当は声に出して笑ってもいいが、流石に身体が痛む。
彼女の強さは予想外だ。聞いた情報から自分より強い可能性は考えていたが、まさか此処までとは予想も付かなかった。
これなら、あの強大な悪魔を打倒できるだろう。
「これで満足でしょうか? 陛下」
エリシアは倒れ込むウェレスに話しかける。
「少しばかし強すぎはしないか……まさか初めての敗北が、此処まで一方的だとは思わなんだ」
ウェレスは痛む身体をゆっくりと起こす。
「わざわざお主を呼び出して、こんな決闘を挑んだにも訳があってだな……」
「まさか敗北を知りたいとかですか」
「妾は流石にそこまで戦闘狂ではないぞ? 兎も角理由があるのじゃ」
「はぁ」
「これは極秘ゆえ、あまり声を出しては言えないがの……」
ウェレスはそう言うと、その場から立ち上がる。
やはり、肋骨あたりが痛いのだろう。両手でしっかり押さえつけていた。
なんだろう。やってしまった罪悪感が凄まじい……。
「この情報は、一部の人間しか知らないものだ。口外は禁止で頼む」
「ええ、そこまで言うのなら誰に言いませんが……」
「数日前神官達から連絡があってな。あの忌まわしい大罪の悪魔が顕現したそうじゃ……それも魔素探知によると帝都に潜伏しているみたいだな」
「は……?」
エリシアに嫌な汗が走る。脳裏に、アラスの顔が浮かんでくる。
「あ、あのぉ……その悪魔ってアラストルとか言ったりしますか?」
「その通りだ……百年前にあの"大惨劇"を引き起こした張本人じゃ。今度こそは奴の好きにさせるつもりはない」
(あの、悪魔また何かやらかしてたんですか⁈)
どうやら百年前に帝都で、何か大問題を起こしていたらしい。
少なくとも探知魔法でピンポイントで探されるくらいにはだ。
「しかし、帝国は戦争中じゃ。前線から兵を連れてくるわけにいかず、冒険者達だけに任せるわけにも行かない。それゆえに強力な存在を探していたわけじゃ……そんな中お主が現れての」
大体の話の本筋は見えてきた。
つまりは、
昔、帝国でアラストルが暴れた。それが再び帝都に現れたみたい。
だが、戦争中でまともな戦力が帝都にない。既存の冒険者だけでは頼りない。
なんかドラゴン殺しまくってるすごい強い人がいるらしい。
至急呼んで、助けてもらおう。
簡単に説明すると、こんな感じだろうか。
要するに、アラストルが全部悪い――これだけだ。
「妾とて、大罪の悪魔相手には力不足じゃ。どうか力を貸してくれぬか?」
ウェレスは真剣な眼差しでエリシアを見つめる。
「勿論です……そう言う事なら幾らでも力をお貸ししますよ……ははっ」
エリシアは深い溜息を吐いた後、苦笑いを浮かべる。
しかし、これで一つはっきりしたことがある。
やっぱり悪魔はろくでもない。




