ドラゴン討伐ー3
大空を舞っていた一匹のドラゴンが、急速に降下しエリシア達を襲う。
咄嗟に動いたのはアラストルだった。
片手でドラゴンの鼻先を掴み、それを地面に叩きつけた。
凄まじい振動と砂煙が視界を塞ぐ。
視界が元に戻ると地面に身体が半分ほどめり込んだドラゴンの姿があった。
まだ息はあるようで、埋まった身体を出そうともがく。
しかし、アラストルが片腕を掲げるとドラゴンの身体は暗い炎に覆われて、一瞬で灰になる。
「とりあえず、一匹は片付いたよー。後は十一匹ってところかなぁ」
「下位悪魔やオークより全然強いですね」
「そりゃ当然だよ。自然界では最強の種族だしねー」
エリシアはドラゴンの群れ全体に、《鑑定眼》を発動する
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レッドドラゴン
個体平均レベル:60
個体平均体力:1400
個体平均精神力:1600
個体平均魔力:1000
個体平均筋力:1700
スキル:
ユニークスキル:
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「やっぱりめちゃくちゃ強い...」
ステータスだけでも個々がSランク冒険者に匹敵するだろう。
ここまで来ると、ギルドの連中は自分達が生きて帰る事を想定していないのでは無いかと思う。
「アウオォォ‼︎」
別のドラゴンが低い唸り声を上げて、リア目掛けて急降下してくる。
エリシアはリアに突進してきたドラゴンの横顔を思いっきり殴りつける。
鱗が薄氷の様に砕けちり、何十メートル先まで吹き飛ぶ。
恐らく気絶ーー若しくは死んだはずだ。
更に2匹のドラゴンが此方に迫ってくる。
しかしそれをアラストルとそれぞれ一体ずつ容易く仕留める。
「思ったより弱いですね......」
「見た感じなにかの制約で弱体化してるみたいだね。少し前のボクみたい」
「という事は、このドラゴンは操られているという事ですか?」
「だろうねー。一方的に契約を結ばされたんだと思う」
その時、ドラゴンが火炎の息を吐く。
「神盾」
アラストルがそう呟くと、エリシア達の周りに三重の結界が展開され、火炎を容易く防ぐ。
「神盾......もしかして、防御系魔法の最高峰ですか?」
「まぁね。ボクくらいになればこんなの朝飯前だよ」
ドラゴン達は、結界を突き破ろうと一斉に纏わりつく。
爪で引っ掻いたり、炎を吐いたり、噛み砕こうとしたりするがびくともしない。
「炎に気をつければ、問題なく倒せそうですね」
このドラゴン達は、本来の力を出し切れておらず一、二発殴りつければ倒すことができる。大した敵ではないだろう。
「でもさ、殴って殺すのそれ面倒くさいじゃん。だから試したい魔法があるんだけどさー」
「......試したい魔法?」
「死霊系魔法の最高峰ってやつ? 履修はしてたんだけど、魔力が足りなくて使えなかったんだよー」
「最上位の悪魔にも出来ないこともあるんですね......つまりは私の魔力を貸して欲しいと?」
「まぁ、そうなるねー」
死霊系魔法の最上位。一体どんなものなのかエリシア自身も気になる。
折角だ。この際どんなものか見てみるのも経験だろう。
「いいですよ。私の魔力を貸してあげます」
エリシアはそう言い、《魔力変換》を解除する。
身体中に流れていた莫大な力が、魔力に戻って行くのを感じる。
まだ、この妙な感覚には慣れない。
「助かるよー。魔力特化の"怠惰"なら単独で使えるんだろうけどねぇ」
アラストルはそう言いながら、エリシアの肩に手を掛ける。
その瞬間、三重の結界のうち一枚目が、ガラスの割れる様な音を立て粉砕する。
「は、早く‼︎ ど、ド、ドラゴンが入ってきますって⁈」
それを見ていたリアは、あたふたと焦る。しかし、対照的にアラストルは冷静だった。
「本当に煩い魔族の娘だよねぇ。まだ一枚目が破られただけだよ」
「こ、怖いもんは怖いんですよっ、相手を考えてください!」
「まぁ、なんの力もない君には怖いかー」
アラストルはそういうと、エリシアの肩に置いた手と逆の手を掲げる。
この魔法は彼女と同格の悪魔が編み出した魔法だ。
この凶悪な魔法を一度使ってみたいと思っていたが、今まで魔力が足りず使えなかった。
だが、その夢も今ここに叶う。
「最高位死霊魔術 "死の舞踏"」
アラストルを中心に、黒い波動が放たれる。
その瞬間辺りの草木は瞬時に枯れ、地面に這う虫、空を飛ぶ鳥、小動物からモンスター。ーーそしてドラゴン。
目に見える範囲、全ての生命が生き絶える。
一瞬のうちに半径数キロメートルに、生命が存在しない地獄が生成される。
「これが死霊系最強の魔法だよー。すごいでしょ?」
アラストルは満足げな表情を浮かべる。
長年の夢が叶ったのだ。さぞかし嬉しいだろう。
「な、なんですか......これ」
「酷すぎますね。流石に......」
エリシアとリアはその光景を見てドン引きしていた。
確かにドラゴンを一瞬で殲滅できたが、辺りの生態系ごと消し飛ばしてしまった。
「どうせ、辺りの人間はドラゴンに皆殺しにされてたしー。いんじゃない?」
「その他の生き物死にすぎじゃないですか......」
「まぁボクが良ければそれでよしだよー」
やはり、悪魔には倫理観のかけらもない様だ。
当然と言えば当然ではあるのだが。
(そう言えば、魔力をどれくらい消費したんでしょうか?)
エリシアはステータスを確認すると、一万以上あった魔力が二千まで減っていたのだ。
(八千以上の魔力を消費する大魔法⁈)
それほど膨大な魔力を消費する魔法など聞いたこともない。
死の舞踏ーーこの魔法はやはり相当異質な魔法らしい。
どう考えても、人間用には作られていない。
「ギルドへの言い訳が面倒くさそうですね...」
エリシアは深い溜息吐き出した。




