最悪な家族
エリシアが家出するのは次回の話になると思います。
それから二ヶ月。
エリシアは屋敷の図書室に足繁く通い、薬草や野営、モンスターの知識を収集していた。逃亡した時に、生存率を少しでも高めるためだ。
それ以外にも、こっそり外に出て走り回ったり、スクワットや腕立てなどの筋トレも行っていた。これも同様、生存率を高めるためだ。
逃亡するなら、体力は必須だろう。魔法が使えないエリシアなら特にだ。
「はぁ...今日も疲れました......」
エリシアは、いつもの図書室&体力作りを終え、ベットに腰掛ける。
名門貴族の令嬢となれば、本来は勉学や習い事でそんな時間はない。しかし、両親はエリシアに微塵の興味もないので、自由な時間が沢山あった。
エリシアはステータス画面を開く。
ステータス鑑定ーーエリシアが使える聖女の唯一のスキルだ。
聖女の本来のスキルは、全てに幸福をもたらすと言うものだ。
あくまでそれがメインだが、魔法を出力できないエリシアには使うことすらできない。おまけ程度のサブスキルである、ステータス鑑定だけが使える力だ。
別に、エリシアしか使えないスキルでもないが。
現状のエリシアのステータスはこうだ。
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エリシア・エルミール 10歳
レベル:12
体力:29
精神力:330
魔力:8700
筋力:45
スキル:《祝福》《鑑定眼》
ユニークスキル:《聖女》
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「また、レベルが上がりましたね」
ここ二ヶ月で、レベルは6から12になった。筋力も、倍以上に向上している。
ちなみに、魔力が異常に高い癖に魔法が使えないのは、ただ単に魔法の出力ができないからだ。ちなみに魔力の高さだけなら、家の中では断トツで一番だったりする。
まぁ、結局は高くても意味はないが。
「さてと、汗もかきましたしお風呂にで入りましょうか」
エリシアはそう言い、ベットから立ち上がる。
この調子で行けば予定より早く、逃亡準備が整うかもしれない。
部屋から出て浴室へ向かう途中、目の前から1人の女性が歩いてくる。
エリシアに似たブロンドの髪で、気が強そうな雰囲気だ。
エリシアは彼女に気付くと、目を逸らし、顔を合わせないようにする。
「あら...なによその子が人の屋敷を勝手に歩いているの?」
「あの、ごめんなさい......」
そう言ったのは、信じられないかも知れないがエリシアの母親だ。
シリア・エルミールという名前で、エリシアの事を毛嫌いしている。
シリアはエリシアの横を通り去っていく。
シリアはエリシアの事を娘と思っていないどころか、腫れ物として扱っている。勿論、エリシアも母親だと思った事はない。
「あれが、娘に言う言葉ですか」
エリシアは、ぼそりと呟いた。
あんなのを気にかけていては、やっていけない。
あまり気に止まる事なく、浴室へと向かう足を進めた。
エリシアは、浴室をそっと覗く。此処で、誰かと出会したら最悪だ。
「誰も居ませんね......」
誰もいない事を確認し、中に入る。浴槽には、お湯が張ってあった。メイドにお願いして、この時間に沸かしてくれるように頼んでいた。
彼女、彼らの使用人達は魔法が使えない事に対する嫌悪感もない。あくまで普通に接してくれる。
それだけでも、エリシアにとってはありがたい存在だ。
エリシアは服を脱ごうとした時だった。
「愚図のお姉様が、昼間からお風呂に入るなんて良い御身分ですね」
そこに居たのは、エリシアの妹に当たる、ミリスだった。
「なんで、ミリスが昼間にいるんですか......?」
兄を差し置いて、エルミール家の後継者として期待されている彼女は、魔法の勉強や鍛錬で基本的には昼間は屋敷に居ないはずだ。
「なんでって、偶には家にいても良いでしょ? 居場所すらないあんたに、グチグチ言われたく無いんだけど!」
エリシアはミリスに、かける言葉が見つからなかった。
彼女は性格が壊滅的に悪い上、口も達者だ。エリシアに対する当たりも強い。
その性格の悪さは、跡継ぎと期待され今まで甘やかされて育った結果だろう。
「どいてくれない⁈ 私お風呂に入りたいの。あんたの後とか、無理だから。愚図がうつるわ」
ミリスは、エリシアに出るように催促する。
此処で彼女と張り合っても、しょうがない。立場が弱いエリシアにはどうせ勝ち目はない。
「はい......わかりました。出ていきます」
エリシアはそう言い残し、その場を立ち去ろうとする。
「ちょっと、何嫌そうに立ち去ってるの? 愚図のくせに生意気なんだけど!」
エリシアの態度が気に食わなかったのだろう、不機嫌そうに言ってくる。
(そりゃ、良い顔できるわけないじゃないですか......)
ミリスは、自身を中心に世界が回っているとでも勘違いしているのだろう。聞いた話では使用人にも横柄な態度を取っているらしい。
エリシアには母と妹以外にも、父と兄がいる。
兄のアレスは、跡継ぎになれないという不満を暴力という形でエリシアで解消するような人物だ。
父親のダラスには、一度も口を聞いてもらった事がない。虚無、という感想しか出てこない人だ。
兎も角、一つ言えることはこの家族は最悪だ。