新天地
翌日の朝、宿を後にしたエリシア達は船に揺られていた。
「やっぱり海は綺麗だね。やっぱり現世は景色が良いね」
アラストルは船体から体を乗り出す。
彼女は船に乗る際に、小さな蝙蝠に化けてこっそり侵入し、その後に人間の姿へと戻ったと言うわけだ。
この船は、エストリア帝国行きの船で今日の夜前には目的地までつく。
背後を振り向いてみれば、貿易都市アル=ミサドの街並みがよく見える。
「これで一安心ですね。ゆっくりできそうです」
エリシアはホッと息を吐く。
流石に、エストリア帝国にまで追っ手は来ないはずだ。
それこそ追っ手が来たものなら、戦争行為そのものだ。
「エリシアさん、それでこの船は何処に行くのですか?」
リアが疑問を投げかけてくる。
「確か、帝都バル・アレまで向かうそうすよ」
帝都バル・アレは海岸にあるエストリア帝国の首都だ。
海岸線を三重の壁に覆われた帝都の防御力は異常な程高く、戦争では過去一度も陥落どころか、侵入すらされていない。
その事から、"カルミア王国から最も近く遠い都市"とも言われている。
帝都バル・アレはかなり賑わっているらしく、カルミア王国よりよっぽど都会だそうだ。
兎も角、どんな街なのか楽しみだーーエリシアは、そんな期待に胸を膨らませた。
「バル・アレには魔族もいるのですか...?」
「きっといますよ。友好国ですしね」
エストリア帝国は人間国家の中でも、唯一の親魔族国である。
魔族だってきっといるはずだ。
「そうとは限らないよー。形だけの友好って結構あるしねぇー」
アラストルは、嘲笑うかの様に横やりを入れてくる。
「昨日から五月蝿いですね。悪魔......」
「昨日のことをまだ怒ってるみたいだねー。まぁ、忘れなよ」
「静かにしてください。他に人がいるんですから」
リアとアラストルは昨日からずっとこの調子だ。
それに船内は人でぎゅうぎゅう詰めだ。変な会話をしてる奴らと思われるのも良い気分はしない。
「不毛な言い合いはやめてくださいね。お願いしますよ?」
「エリシアさんが言うなら、辞めますよ......そりゃ」
「勿論、契約者様のご意向なら従うよ」
そう二人は分かってくれたようだが、多分何も分かってくれてない。
昨日も、こんな会話をした気がする。
この二人は相性が悪いのか、リアが勝手に敵意を向けてるのか、なんなのかは知らないが、一緒に旅する仲だ。悪いよりはよくなってほしいというのが、本心だ。
(きついですかね。時間をかけて話し合えば、なんとか......なるか?)
疑問を浮かべるエリシアを揺らしながら、船はアル・バレに向けて進んでいった。
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数時間船に揺られ、辺りの日が沈みかけた頃。
海の向こう側に、三重の石壁に周囲を覆われた港が見えてくる。
その大きさはアル=ミサドの比ではない。視界いっぱいに市街地が広がっていたのだ。
少なくとも、王国にはこんな大規模な都市は無いはずだ。
「あれが帝都......」
「どんな街かつくのが楽しみだね」
これほど文化的に発展している大都市である反面、周囲は無限にモンスターが湧き出てくる群生地に囲まれているそうだ。
これ程強靭な鉄壁の守りも、全てはモンスターの侵入を防ぐために作られたそうだ。
そして、冒険者業も盛んらしい。
今のエリシアにとっては楽に大金を稼げる方法だろう。
兎も角、これからは悠々自適に過ごそうーーエリシアは改めてそう思った。




