契約
「別にボクに決まった形はないからねぇ。たまたま今は人型なだけだよ」
「そ、そうですか......」
エリシアはステータスを確認する。
そこには憤怒の悪魔 アラストルのステータスが表記されていた。
彼女が嘘をついている様にも見えない。
「それで、ひとつお願いを聞いてくれないかな」
「なんでしょうか?」
「ボクと契約して欲しいんだ」
「はぁ......」
悪魔との契約と言えば、ろくなイメージがない。できる事ならば結びたくは無い。
「何故私と...?」
「そう警戒しなくてもいいよ......代償なんて、求めたりしない。この世界に顕現し続けるには契約者が必要なんだよねぇ」
アラストルの話をまとめるとこうだ。
◯こちら側の世界を見て回りたい。
◯しかし、悪魔が現世に居続けるには、契約者の存在が必要。
◯それ故に、エリシアには形だけの契約者になって欲しい。その代償は一切求めない。
こういう事だそうだ。
確かに、これだけなら別に問題はないが悪魔の言う事は信用ならない。
今まで何千、何万人が悪魔に騙し殺されてきた事か。
「ボクのこと信用できないみたいだね」
アラストルはそう言うと、エリシアの額に手をかざす。
「一体何をしたんですか?」
「ボクは嘘をつけないし、君は契約を結ばなければ行けないと言う契約だよ」
エリシアは、試しにアラストルから逃れようとしてみる。
しかし、彼女から離れようとした瞬間、身体が石のように固まる。
「ほらっ、逃げられないでしょ? そして、ボクは君に危害を加えないって誓う。これで安全だって分かったはずだよ」
「この感じだと、私に拒否権はありませんね......」
「まぁ、そうなるかな」
アラストルは、エリシアに顔を近づける。
「これが対等かつ最上の契約の結び方だよ」
アラストルはそう言うと、エリシアの唇に自身の唇を重ねる。
「ちょ、ちょっと! 急に何してるんですか⁈」
「契約だよ。唇を使う契約なんて普通はしないんだけどね。それとボクに敬称はいらない......あくまで対等な関係だからさ」
どうやら、今のが悪魔式の最上位の契約らしい。
左手の手首を見てみると、そこには烙印の様な模様が浮き出ていた。
アラストルの左手首にも、同じような紋様が現れており、これが契約の証か何かなのだろう。
「では、アラストルでは長いですし、アラスーーとでも呼ばせて貰いますね」
「アラスね、そう呼ばれるのは初めてだね......それとボクもエリシアと一緒に行くよ。あんまり契約者からは離れられないし」
アラストルは、エリシアに着いて行かなければ、行けないそうだ。
しかし、そうなるとエストリア帝国行きの船に乗る運賃が足りなくなってしまう。
「運賃なら問題は無いぞ。ボクは自由に姿を変えられるし、何かに化けてこっそり着いてくよ」
「なんで私達の目的を? そういえば、私の名前すら教えてないはずですが......」
「契約した時に、名前とか目的とか分かるものだからねぇ」
どうやら、アラストルは契約を結んだ時に、エリシアの名前や、目的。若しくは記憶を覗き見した様だ。
どのみち人に内情を探られて、良い気はしない。だが、《鑑定眼》が使える自分も他人の事を言える立場でも無いだろう。
「それで、其方の魔族さんは?」
アラストルはリアに視線を向ける。
「私はリアと言います。よろしくお願いしますね、"悪魔さん"」
リアはアラストルを睨み付け、不貞腐れている様子だった。
「態度は気に食わないけど、契約者の友人だ。その程度の横暴は許してあげるよ」
「そりゃ、どうも......」
「まぁ、君の機嫌が悪いのも、ボクが口付けをしたせいだしね」
アラストルは、ほくそ笑んだ。
「何笑ってんですか? この、いやらしい悪魔......」
「本当にエリシアの友人で良かったね。そうじゃなきゃ、あの男と同じ場所行きだったよ」
リアは、アラストルを睨み付けていた。
対するアラストルは、嘲笑うかの様な微笑を浮かべ、卑下する様な目を向けていた。
(なんで、リアはあんな怒っているんですか......)
普通は最上位の悪魔相手に、あんな好戦的な態度を取る馬鹿はいない。
ちょっとの気まぐれで命を奪う様な連中だ。
ならば、リアをそこまでさせるのはなんなのかーー。
(もしや、リアは私に...?)
初めて会った時から、執拗に手を繋いで来たり、寝る時にもっと側に寄るように要求してきたりと、その気があるのではと思わせる行動が多々あった。
実際、エリシアも両方行けるタチだし、リアは誰が見ても納得するくらいには整った容姿だ。
別に付き合ったりしても、悪い気はしないだろう。
しかし、エリシアもリアも出会って数日しかたっていない。
お互いの事をよく知っていないし、共に死地を乗り越えた事による、所謂吊橋効果かもしれない。
(そもそも、私の勘違いかも知れませんしね......)
エリシアはそう思い、二人を連れ、宿へと帰路へと着いた。




