絶望の終わり
ドラゴン達を屠った、エリシアは翼人の長であるズディル達をその場に呼んだ。
「う、嘘だろ……」
ズディルとその付き添いの数名の兵士達はその光景を見て絶句する。
辺りの地形は、焼かれ、吹き飛ばされめちゃくちゃになっていた。
そこにあるのは、一体のドラゴンの亡骸のみ――。
他のドラゴン達は、アラストルの魔法により消し炭も残らず、消えてしまった事を伝えたら、言葉を失ってしまった。
それはそう言う反応にもなって当然だ。
いつも豪胆に笑うズディルでさえも、驚きを隠せず困惑している。
付き人の翼人達に至っては、絶句して言葉も出ない様子だった。
「ま、まさか本当に倒してしまうとは……あんた達は一体何者なんだ?」
かなりの猛者であるのは、確信していたが、ここまでだとは想像できるはずがない。
そして、ズディルに対する問いは一つしかない。
「私は人間です。何故か、力だけは物凄く強いんです。まぁ、隣のアラスとレーマは、悪魔なのですが」
エリシア達はそう言うが、ズディルはにわかに信じられない。
仮にエリシアが人間だったとして、アラストルとレーマは何者なのだ。悪魔だとしても強すぎる。
それか、大罪の悪魔だとしたら納得は行く。
大罪と呼ばれる悪魔達は、一国を滅ぼせる程に強いとは聞いている。
「と、ともかくこの国を、いや翼人を救ってくれて感謝する。どう礼を返せばいいのか……」
「あのペンダントだけでいいですよ。そう言う約束ですしね」
「それだけで恩が返せる様な代物ではないが、それ以外に渡しようがないしなぁ」
エリシアがペンダントで納得してくれるなら、それで良いのだが。
どこか、もやもやした感情が残る様な気がする。
「とにかく、今日は国を上げた――そもそも町一つしかない有様だが、宴が開かれるだろうな。勿論、参加してくれるだろ? 主役が居ないとな……ほらな」
「えぇ、勿論参加しますよ。いえ、させてください……結構そう言うの嫌いじゃないですしね」
折角だ。それには参加するのは賛成だ。
しかし、まだ気がかりな点が一つだけある。
「シュラはどうなっていますか?」
この場で一番詳しいであろうズディルに問いかける。
その問いかけに対して、ズディルは多少表情が暗くなる。
「寝ているよ、まだ起きていない筈だ――まぁ、この国はこんな有様だ、あのくらいの経験はみんなしている。親や大切な人を殺されたりだな……とは言え、それを差し引いてもシュラは不憫だな」
ズディルとシュラの付き合いもそれなりに長い。彼的にも思うところが沢山あるのだろう。
にしても、シュラが起きた時どう接すれば良いのだろうか。
家族に愛されていなかったエリシアに家族愛の感覚がどの様なものかは分からない。
ただ、アラスやリア、そしてレーマが居なくなったら、どれだけ辛いのかは想像に容易い。
きっと、彼女達が"本当の家族"と言える存在なのだろう。
シュラは現在リッタに見守られながら、自宅で眠っているそうだ。
あそこの家で世話になっている以上、彼女とは会わなければ行けないだろう。




