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滅亡の序章


✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎





翼人の国は、現在一つの町を残して壊滅状態である。




その最後の町も、渓谷を間を利用して造られた粗末なスラムの様な町だ。




その渓谷の入り口部には、外界との境界線として、渓谷を塞ぐ様な形で、石壁が建造されている。




石壁の中心にある門は立派で堅牢なものだ。並みの存在では、破壊するのもままならないだろう。




その壁の周辺には、警備する20名程の兵士の姿があった。



その20名の兵士の指揮を取るのは、バルサだ。



彼は三戦士の1人で、3人の中では一番弱い。



一番は長であるズディル。二番目がシュラ、そして三番目の自分だ。



とは言え、翼人の国にバルサに勝てるのは上記の2名しか居ないのだが。




「来るとしたら、そろそろだな」



1人の兵士がバルサに声をかける。




「そうだな。陽が沈むのも、もうすぐだ」




時間的には夕方頃だろうか。



この辺りには、夕方限定で出現するモンスター。影人シャドーマンが発生する。


いつもは、警備なしに放置されてる壁も、この夕暮れの時間帯限定で、影人シャドーマンが侵入することを防ぐ為に兵士を配置していた。


正直、影人シャドーマン自体、そんな強くもないモンスターだ。20名の兵士に加え、三戦士の誰か1人が居れば、まず安心だ。




「にしても、もう少し過ごしやすい町だったら、いいのにな」



1人の兵士が呟いた。




「仕方ない。俺たち最後の町が、これだからな」




かつて存在した王都と呼ばれた町は、森を切り開いた平坦な地に作られ、人口も王都だけで今の倍以上はあった。


それも、10年前にドラゴンに焼き払われ、炭と灰に化したのだが。




「しかし、バルサも羨ましいよ。あのシュラといい関係なんだろ?」



そう後ろから声をかけてきたのは、バルサの昔からの友人で、共にここを警備する兵士の1人だ。名はコットルと言う。



「まぁ……否定はしない」




実際、シュラとの関係を羨む者は多い。



と言うか、シュラは結構モテる。


顔が美形というのもあるが、それ以上に大きいのは強者と強者の間にできた子供だからだ。



強力な2人の血を引くシュラは、実際に強い方だ。と言うか、バルサよりも強いのだ。



厳しい世界で生きる彼らの中では、強者と言うのはモテる。男も女も問わずにだ。



  


自分も、それなりの強者なのだから、もう少しモテたっていいのではないか――と、バルサはふと思った。



顔もパッとはしないが、整ってはいるのに。





「俺もシュラみたいな人と、つがいにでもなりたいねぇ」



コットルは、軽口を叩いてくる。昔から、何かとこの件では茶化してくるやつだった。




「俺は、そろそろなるぞ」


「あー、そなんだ」


「意外と反応薄いな」


「そりゃ……あんな昔から仲良いんだし、別に今更驚かないよ」




そうか。


思い返せば、シュラとの関係も随分と長い。




初めて会った時は、10年前。まだ、バルサが幼かった。


ドラゴンにより、4つの町が滅ぼされ、2人の英雄も帰らぬ人になった頃。




バルサは、かつての王都に住んでいた。



燃え盛る家屋の隙間を掻い潜って、王都からなんとか逃げ出そうと必死だった。


目の前で両親を焼き尽くされ、悲しむ暇もなく、バルサは逃げ惑った。





その矢先で、出会ってしまった。





目の前で両親をドラゴンに食い殺され、まだ赤子だった妹――リッタを抱きしめてただ立ち尽くしていたシュラを。



片翼を失い、放心状態でそれを眺める事しかできなかったシュラの手を引いて、その場を逃げた。



まさか、それが英雄の間に生まれた子供だと思いもしなかった。




「まぁ、でもな。ドラゴン達が居なければな……」




遅かれ早かれ、自分達はドラゴンの気まぐれで絶滅するだろう。


今更、つがいになったからなんだと言うのだ。あの冒険者エリシアの話が本当であったとしても、それでも勝算は低い。



「逃げればいいじゃん。2人の実力なら、ドラゴンの包囲網もなんとか通り抜けれるだろ。1人、妹連れたくらいなら支障も出ないだろうし」


「俺もそれを提案したんだけど、シュラが皆んなを置いて行けるわけがないだって、言うこと聞かないんだ。あくまで最後の1人になるまで戦う気だ」



それどころか、「自分はいい。だから妹を連れて、2人だけで逃げて。貴方達だけには死んでほしくない」とか言い出す始末だ。



そこにシュラが居なければ、何も意味がないと言うのに。







とにかく、影人シャドーマンが現れる時刻だ。



たいして強くないとは言え、油断すれば死者が出る時は出る相手だ。気を引き締めなければ。






その時だった。




頭上を巨大な影が横切った。




そして、微かに周囲の気温が上昇するのを感じた。



「ま、まずい。伏せろっ!」



バルサはそう言いコットルを掴んで、共に壁の下に身を投げ出す。





次の瞬間、壁上が灼熱の炎に包まれた。


壁上で警備していた10名余りの兵士達が、焼け焦げる。




「ど、どうしたんだ!? 一体何が……」



壁の下で、警備していた兵士達は状況が掴めていない様子で、落下してきた2人の下に集まってくる。




「奴だ。奴……ドラゴンが来た!」




頭上を見上げると、そこには空中に対空するドラゴンの姿があった。



片腕、片目を欠損した巨竜は地上へと降下してくる。




「強者を炙り出す為だ。死んでもらおう」



ドラゴンはそう言い放った。

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