人と悪魔
「ボクの記憶が残ってるのはここまでだよ。それで気づいたら悪魔になってたんだよねぇ」
ーと、アラストルの昔話は唐突に終わった。
リーベスの名は聞いた事がある。いや、聞いたことしない。
なぜならエリシアの血筋、エルミール家の祖と言われる人物が、リーベスその人だからだ。
だがおかしい。リーベスは魔族との戦いで没したと言うのが公式な記録の筈だ。
「ねぇ。なんでボクがこんなつまらない話をしたかわかるよね?」
「いえ、わからないですよ……」
アラストルはそう言い、エリシアへと歩みを進める。
エリシアはその気迫に押され、一歩後ろへと下がる。
「ボクってさ、子供居ないはずなんだよね」
エリシアは更に、背後へと下がる。
気づけば、そこは壁だった。
もう下がれない。
今のアラストルはおかしい。普段の狂気の中に、殺意を微かに感じる。
「ボクもさ、その後の記憶がなくてさ。なにをされたとか分からないし、どうやって死んだかもしらない」
エリシアは、アラストルがなにを言わんとするのかを察する。
「でも、なんで君はボクの子孫なんだい?」
「ただの伝承です。作り話だと……」
「ボクもそう思ったさ。でもね、エリシアが受けたその呪い。魔法が使えないって呪いだよ。それさ、ボクと全く同じ物なんだよね。多分、エリシアは先祖返りって奴さ、ボクと血が近いあまり呪いも引き継いだんだろうねぇ」
アラストルはそう言うと、エリシアの首あたりに手を添える。
「な、なにをするんでっ……!?」
「ねぇ、少なくともエリシアはボクの望んだ存在じゃないんだよねぇ」
アラストルの手の力が、少しだけ強くなる。
「あーあ。こんな仲良くなっちゃうって知ってたら、最初から殺してたよ……」
アラストルの力が更に強くなる。
「うぐっ……!?」
魔力変換を発動させようとするが、上手く効果が発揮されない。
「無駄だよ。前もってステータスの変動を塞ぐ結界を展開してあるからねぇ。それとだけど、君は悪魔であるボクに殺された場合、エリシアは悪魔として復活はしない。つまり君は本当の意味で死ぬんだよ」
エリシアはその発言で確信する。アラストルは本当に殺す気だと。
「ごめんね……ボクの存在の為に、ボクがボクが生きてていいって思える為に……ボクが次の一歩踏み出せる様に……ボクがボクであるために……死んでよ」
アラストルの首を絞める力は更に強まる。
「う……っ……!? か、かはっ……」
不味い。本当に殺される。
どうすれば、どうすればいい。
だめだ。なにも思いつかない。
「ボクはね。ボクが人であった頃の嫌な思い出は全部無くしてしまいたいんだ。エリシア……ボクの望まない子供は殺さないと」
薄れゆく意識の中で、アラストルが涙を浮かべているのが見えた。




