脳筋聖女VS悪魔使い
「探知魔法を仕掛けておいて正解だった......やはり、もしもの事を想定しておくべきです」
男はそう言い、短剣を持って近づいてくる。
「リア、あの男は?」
「私が捕まっていた場所に居たやつです。多分あいつが中心人物みたいな感じでした......」
「新興宗教の司祭かなんかでしょうか。だとしたら厄介そうですね......」
エリシアは《鑑定眼》で男のステータスを確認する。
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スフェル・ミクサス 23歳
レベル:70
体力:190
精神力:200
魔力:1470
筋力:260
スキル:《召喚術師》
ユニークスキル:《召喚上限解放》
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スフェルーーそれが男の名前のようだ。
魔力量で言えば、実兄のアレスよりも高い。
恐らく召喚術師であろうが、ユニークスキル《召喚上限解放》と言うのが気にかかる。
(厄介そうですし、一瞬で決めましょうか)
変な能力を使われては困る。
ならば、一撃で勝敗を決めるまでだ。
「申し遅れました。私は友愛教筆頭司教スフェル・ミクサスです」
「名前くらい知ってますよ」
エリシアは男が名乗っていようが関係ないーー。地面を蹴り上げ、一瞬で間合いを詰める。
油断も容赦もない本気の拳をスフェルの顔面に振り下ろす。
スフェルの顔面は文字通り粉々なった。それから大気を切り裂くような音が鳴り響いた。
「これで生きてたら人間じゃありませんね......」
どんなに再生能力が高い種族でも、頭を潰されれば流石に死ぬだろう。
しかし次の瞬間ーー死体と化したスフェルの上に無傷の彼が突然姿を表したのだ。
「お強いですねぇ。人間の力とは思えません。なにかのユニークスキルなのですか?」
気がつけば、床に転がっていたスフェルの死体が消えて無くなっていた。
「しかし、ここは私が創り出した仮想空間。つまりこの空間内では私は不死身なのです」
「でしたら、貴方が諦めてくれるまで頭を潰すまでからね」
エリシアはもう一度スフェルの頭部を吹き飛ばす。
しかし、彼は何事も無かったかのように復活する。
「しつこいですね!」
エリシアは、復活する度に何度も何度も頭を吹き飛ばす。
しかし、スフェルは性懲りも無く幾らでも復活する。
「一方的に殺されるのも気に障りますし、此方からも......」
スフェルがそう言うと、八つの魔法陣が現れる。
そこから長身で痩せこけ、翼の生えた男らしき者が姿を現す。
合計で魔法陣分の八体。所謂、下位悪魔と呼ばれるモンスター? だ。
「神の司祭である貴方が、悪魔を使役するのはどうかと思いますが」
「まさか......神も悪魔も崇拝しておりません。奴ら上位存在を駆逐し、人類を自由にするのが我々の目的なのです」
「それは本当に宗教なのですか?」
「その教えを信じる者が居ればいい。それだけで宗教と呼べるかと」
友愛教と呼ばれる新興宗教は、神や悪魔を滅するのが彼らの目的なようだ。
それを宗教と言って良いのだろうか。ただの過激派の反神論者の集まりでは無いのか。
兎も角、この宗教が貴族階級で密かに広まっているのは間違いない。
「アアウゥ!」
下位悪魔は一斉に襲いかかって来る。
エリシアは《鑑定眼》でステータスを確認するが、大して強くもないし、敵にもならないだろう。
エリシアはそれを、一匹、二匹、三匹と的確に頭を潰し、無力化して行く。
しかし、少しの間隙を突いてエリシアの横腹に下位悪魔の鉤爪が食い込む。
「うっ......!」
幾らステータスを上げたところで、人間の皮膚は硬くならない。それは種族的な問題で仕方ない事だ。
血が溢れかえり、激痛が走るが不思議と耐えることができた。精神力と体力を向上させているおかげだろう。
「エリシアさん、大丈夫ですか⁈」
リアが回復魔法を使ったのか、横腹の傷が瞬時に癒えていく。
(リアは回復魔法も使えるんですか。助かりますね......)
魔族は種族的な特徴として、攻撃魔法は覚え易いが、支援系魔法は覚えづらいというものがある。
そうするとリアは、魔族として希少な存在なのかもしれない。
エリシアは、下位悪魔の攻撃を華麗に回避し、隙をついて次々に叩き潰していく。
彼らが全滅するのはそう時間は掛からなかった。
「これで、全部ですか......」
エリシアの服についた悪魔の血が、蒸気を上げ蒸発して行く。
悪魔の血は大気に触れると、蒸発して消える様だ。
これのおかげで、新品の服が汚れずに済んだ。横腹の破けた部分も修繕が可能な範囲だ。
「強いですねぇ。本当にお強い」
スフェルは甲高い笑い声を上げる。
「正直、魔族の娘に興味は無くなりました。それより貴方を生贄にすれば、"こいつ"を現実世界でも顕現出来るかも知れない......」
その瞬間、スフェルの背後に巨大な魔法陣が姿を現す。
「こいつは、私のユニークスキル《召喚上限解放》を駆使し、仮想世界のみで召喚・使役ができるのです」
「こんな大きな魔法陣、一体......」
「貴方を生贄に捧げ、これを完全に私の支配下におきましょう」
魔法陣から、高さ15メートルはある二足歩行の牛と人を足して割った様な怪物が姿を現した。
「これが最上位の悪魔です。これを召喚するのには魔力を大量に消費するので、この仮想空間を維持する魔力も然程残ってません。あと十分もすれば元の世界に戻るでしょう......」
スフェルの顔から一瞬だけ、常に浮かべている笑みが消える。
「しかし、問題はありません。貴方は一分も持ちませんので」




