アラストル
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エストリア帝国、帝都バル・アレにて。
ある日の朝、自宅のリビングで深い溜息を吐いているエリシアの姿があった。
「どうしたんだい、やっぱりリアが気になるのー?」
そう声をかけてきたのは、アラストルだった。
「そりゃ、気にしますよ……だって死ぬかも知れないんですよ?」
「でもさー。そんな事ずっと気にしてたら身体が持たないよ」
「でもですね。気にしないと言うのも無理があります」
アラストルは、そう言うとティーカップに入った紅茶を渡してくる。
「アラスが何かしてくれるって珍しいですね」
「まぁね。気分が向いただけだよー……ってかさぁ、リアが居ないと身の周りのことなんもやらないよねー」
「リアと出会う前はこうじゃなかったんですけどね」
リアと出会う前までは少なくとも、身の周りの事は自分でやっていたのだが、リアが身の周りの世話をなんでもやろうとしてきた。そしてエリシア自体もそれに甘える事が多かったのだ。
「エリシアも苦労人だよねー。まぁ、ボクほどじゃないかもだけど」
そう言えば、アラストルと契約する時に、彼女はエリシアの記憶を覗き見している。
アラストルは、昔は人間だったと言う話を聞いた事がある。ふと、彼女がどの様な人物だったか気になった。
「気になったのですが、アラスは人間だった頃、どんな感じだったのですか?」
その発言を聞いたアラストルは、暫くの沈黙を置いて、表情が変わる。
「ねぇ、エリシア」
いつとない真剣な眼差しをエリシアに向ける。
「他でもない君になら教えてもいいよ。レーマも丁度出払ってるしねぇ」
「えぇ、気になります。私の過去は知っといて、アラスが教えないのは不公平ですし」
「ははっ、そうだね……うん、でも、しょうがないか」
アラストルの乾いた笑い声が、エリシアの脳裏に焼き付く。
こんな人間らしく、そして弱々しいアラストルをエリシアは今まで見た事なかった。
「それじゃあ、昔話をしてあげる」
そう言いい、アラストルは過去を語った。




