買い物
エリシアとリアは、アル=ミサドの市場へと訪れていた。
市場は港の真横にあり、数多の商船が溜まっているのが見える。
市場には服や食料品、それ以外にも各国の特産品などが並んでいた。
「それにしても、人が多いですね......」
エリシアは辺りを見渡す。
市場は人で溢れ帰っており、殆どは人族であるが、獣人族やドワーフ、エルフの姿もちらほらとあった。
ここで買う必要があるのは当面の食料、長距離移動に適した服だろう。
暫く露店を見渡しながら歩いていると、衣服を売っている店が目に入った。
「すみません。旅に適した服はあったりしませんか?」
エリシアは、店の店主に話しかける。
「それなら、これはどうだ?」
そう言った店主は、旅人が着ているイメージその物の服を渡してくる。
「これで銅貨六枚だ。買うか?」
「六枚ですか......」
確かに高くはないが、安いとも言えない金額だ。
とは言え、エリシアにはこれと言った交渉術があるわけでも無いので、この金額を飲むしか無いだろう。
「わかりました。その料金で買わせてもらいます」
「毎度あり、裏の方に更衣室あるし、着替えたらどうだ?」
店主が指を差した先には、小さな小屋がいくつか立っていた。
「そうですね。そうさせて貰います」
会計を終えたエリシアは服を持ち、小屋の方へと向かう。
「どうでしょうか? サイズ的には丁度良いのですが......」
「とても似合ってますよ。流石エリシアさんです」
服はかなり地味な色合いだが、見栄え自体は良く、意外にもお洒落ではあった。
「流石かどうかは分かりませんが......動きやすいですし良いですね」
冒険をするなら、メイド服よりずっと良いだろう。
「服の買い物は終わりましたし、後は食料品でも買いましょうか」
「そうですね」
その後、エリシアとリアは再び市場を回ることにした。
乾パンとその他、日持ちしそうな食料を買う。二日程度の備蓄で、銅貨九枚だった。
エストリア帝国行き船が、銀貨一枚なので後は自由に使えるお金は銅貨一枚だけだ。
「使えるお金は、銅貨一枚だけですか......」
本当は向こうで、使う分のお金も残しときたかったが、仕方ない。
「お姉さん達!」
二人が帰路についた時、二十代前半くらいの獣人の女性に声をかけられる。
「これ消臭玉って言うんだけど、買わないかい? 銅貨二枚で売るよ」
獣人の女性は、掌サイズの球体を見せてくる。
「これを臭い場所に投げつければ、嘘みたいに無くなるって優れものさ」
確かに、宿の悪臭で悶絶していたリアの為には買ってあげたい。
しかし、買うとなると今度は船に乗れなくなる。
ならば、だめ元で値切り交渉をしてみるしか無い。
「銅貨一枚に負けてくれませんか? 使えるお金がそれしか無いんですよ」
「うーん、一枚かぁ......」
獣人の女性は暫く考え込む。
「まぁ、いっか。どうせ、売れ残ったやつ押し売りしようと思っただけだし、一枚でいいよ」
「ありがとうございます」
エリシアは銅貨と消臭玉を交換する。
「表の通りで雑貨屋経営してるんだけど、金がある時にでも来てくれよ。良いもん揃えてるかさ」
「そうですね。お金ある時にそうさせて貰います」
「あいよ」
獣人の女性を言い残し、その場を立ち去っていった。
「あの、良いんですか......お金なかったのに」
「別に良いんですよ。どうせ、銅貨一枚なんて大した使い道ありませんし」
「ありがとうございます。本当に助かります」
「早く帰りましょうか。疲れましたしね」
ーーその時だった。
視界が一瞬暗転すると、真っ白な床が延々と続く異様な空間にいた。
「エリシアさん、一体これは?」
「分かりませんが、何かしらの結界魔法? でしょうか......」
エリシアは《魔力変換》で9900の魔力を他のステータスに振り分ける。
自分達を狙っている者がいるのは間違いない。
それが、エリシアの追っ手かリアの追っ手かは分からないが。
「やっと、捕まえましたよ」
その時、背後から声をかけられる。
振り向くと、そこには笑みを浮かべた若い少年がいた。
その少年は司祭風の見てくれで、美形の顔立ちは不気味な笑みのせいで台無しになっていた。
「生贄を返して貰いましょうか」
男の口角がよりいっそう曲がった。




