プロローグ〜
「エリシア・エルミールの処刑をこれより執行する!」
処刑台の前に立たされていたのは、赤い瞳にブロンドの長い髪を持つ、整った顔立ちの少女だ。
彼女はカルミア王国の名門貴族、エルミール家の令嬢にして、ユニークスキル《聖女》を持つエリシア・エルミールだ。
「はい......」
彼女は虚ろな目で、一歩前へと進む。
エリシアに極刑が下されたのは、別に彼女が悪事を働いたからでは無い。
エルミール家の一族は、代々強力な魔術師としての才覚を持って生まれてくる。しかし、エリシアは魔法が一切使えなかった。
しかし、魔法が使えないのに"聖女の素養"だけはあったのだ。
そうして、一族全員から疎まれていた彼女は、濡れ衣を着させられ、今処刑台に立たされている訳だ。
(私も疲れましたし、もう終わりでいいですよね...)
エリシアはため息を吐く。この15年間、腫れ物の様に扱われていた彼女にどうせ居場所なんてない。
ならば、もういっそ消えてしまった方が楽だろう。それに、そうすれば嫌味を言われることも、暴言を吐かれることも、暴力を振われることもないのだ。
エリシアは、自ら処刑台の前で跪く。
彼女の隣には、首を切り落とすための斧と、執行人が立っていた。
「何か言い残したいことは...?」
執行人の冷たい声が聞こえる。
正直、言い残したい言葉どころか、思い出なんてひとつもない。
ーーしかし、強いて言うなら一つだけある。
「もう二度と、こんなクソみたいな家に生まれて来ませんように......」
エリシアはそう強く願った。
生まれ変われるなら、どっか平凡な家庭で普通に暮らせたらいい。それ以上に望むこともない。
次の瞬間、首元に斧が振り下ろされ視界が暗転する。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
それから、どれほどの時がたっただろうか。短い様な気もするし、とても長い時間が立っている様な気もする。
光が戻り、辺りを見渡す。天井はよく知っているものだ。
「ここは、私の部屋?」
エリシアが、自室のベットの上だと分かるには、そう時間は掛からなかった。自身の首元を触ってみると、しっかりと頭と身体は繋がっていた。
徐に、側にあった手鏡を取り、自分の容姿を確認する。
「は、はぁ?」
そこに居たのは、10歳程度の幼い容姿の自分だった。処刑された時は15歳だったので、5年前なのだろうか。
確かに、エリシアは生まれ変わりたいと願った。でも......
「なんで、またここなんですか。ふざけないでくださいよ!」
少なくとも、人生を時間逆行してやり直したいなど思ったことは無い。
「こうなったら、逃げてやる! 逃げてやりますからねっ!」
どうせ、このまま行ったら5年後に、また殺されるだろう。
だったら、それまでに生きる術や体力をつけて、さっさと逃亡するべきだ。
そう言えば"どっかの誰か"に、またこの世界へ戻る様に言われたような気もする。
それも定かな記憶では無いが、そんな神様のような存在がいて、私を素直に転生させてくれなかったそいつも大概ろくでもない。
兎も角、次は絶対に死にたくは無い。この世界線では、何としても生き延びるーーエリシアは強く心に誓った。
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