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南風(はえ)吹かば  作者: 悠鬼由宇
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それでも好きでいていいんだよね?

 全然知らんかったけど、川崎って焼肉のメッカなんだそーだ。

 川崎駅からはだいぶ外れたとこにコリアンタウンがあって、そこは焼肉通りがあるそうだ。通りの両側に居並ぶ焼肉屋を想像しただけで、腹がギュルルルーと鳴ってしまい、ゆーだいさんに笑われる。

 チャラ男の車にまゆが乗っている、来た時と一緒だ。

 さっき風呂場で、

「あの小林さんって、I T会社の社長の御曹司で、しかもチョー優秀なプログラマーなんだって! きっと年収、オクだよ! 億り人だよ! コレは絶対キープっしょ。アンタはあのでっかいのにしとき、わかった?」

 まあ、これが延岡まゆだ。どーぞ好きにしてくれ。

 そんなことは正直どーでもいい。それよりも… 聖地川崎での、高級焼肉!

「みなみちゃんがあー、今まで食った事ないよーなスゲ〜の食わしてあげるよん〜」

 とチャラ男がゴルフ場を出る前に言った瞬間、悔しながら神に見えた。

 それからは半分意識を失いながら、なんとか助手席に座っている。しゃんとしていないと、口からよだれがあふれ出てしまう。

 そんなアタシを隣に乗せ、ゆーだいさんは軽快に車を走らせる。夜のアクアラインはマジ夜景がキレイだ。だが意識が半分ないのでイマイチ感動できねえ…

 そんなアタシを察してか、

「あと三十分で着くから。我慢できる?」

 あと三十分… 完全に失神しそーになるも、なんとか気を取り直し、

「命がけで、がんばります!」

 と声を張り上げるとまたゆーだいさんは声を立てて笑う。


 何度も意識を失い、もうこれ以上は我慢の限界…と思った頃に、

「さあこの辺りだよ。うわ懐かしい」

 とゆーだいさんが呟く。顔を上げて辺りを見回すとーうおおお、ホントに焼肉屋だらけじゃん、スッゲー!

 車を100円パーキングに停めると、丁度チャラ男の車も入ってくる。なんでもこの車はここに置いておき、後から代行に持ってってもらうらしい。

 キラキラ居並ぶ中のひときわゴージャスな店にみんなで入って行く。ヨロヨロと歩むアタシに、

「腹いっぱい、食わしてもらい。アタシはしこたま飲むぞおー」

 へー。まゆって酒飲みなのか。今度じーちゃんの作った酒でもくれてやるか。アタシの唾入れて。

 ゴージャスな個室に案内され、席に座る。さすがに今日はクリスマスな訳なので、ジャージって訳には行かない訳で、昨日ちょこっと実家に帰ってなけなしの私服を取ってきた。

 だけど着てみたら、腕周り、肩周り、腰回り、全てがキツくて泣きそうになった。マジで服買いに行かなきゃ。今度、春香に安くてデカい服売ってる店に連れてってもらおう。

 仕方なく今夜はキツい服をガマンして着ている。ユニクロのダウンにG Uのハイネックとパンツ。高校の頃も服に全く興味がなかったんで、ま、こんなもんっしょ。

 ちなみに、延岡まゆは雑誌から抜け出してきたよーなカラフルで可愛らしいカッコだ。アタシには一生着こなせない服装である。

 それに、やけにいい匂いがする。風呂の後、なんかシュッシュしてたわ。きっと男子はこんな女子が好きなんだろーな。アタシにゃ到底出来ないわ。

 チラッとゆーだいさんを見る。チャラ男とメニューの相談している。ゆーだいさんも、まゆみたいなのが好きなのかなあ。あのチャラ子が彼女なくらいだし。

 そう考えると、ちょっとだけ食欲が無くなる。

 オシャレしないと、ダメかな

 美容院行かないと、ダメかな

 香水とかつけないと、ダメかな

 伸びかけた短髪をそっとなでてみる。


 そんな思いは、次々に出される光り輝く高級和牛にすっ飛ばされる!

 スッゲーーー 焼くのもったいねーー

 口からヨダレが止まらない。おしぼりで口を思わず押さえつける。

 そして、七輪のコンロの上でジワジワ焼かれると、この世のものとは思えぬいい匂いが漂う。マジで一瞬意識を失った…

 そして、震える箸で摘み上げ、言われるがままに一気に口の中へ。

 美味すぎる! 何じゃコレ!

 今まで食ってきたのは新聞紙かよ、と言うほど柔らかくジューシーだ。

 思わず目からヨダレ…ではなく、涙がこぼれ落ちる。

「ちょっ… みなみいー、なに泣いてんのよおー」

 延岡男子前モードだ。

「だって、コレ、美味すぎて… ま…」

 言葉が出ねえ。

 そんなアタシをチャラ男が爆笑しながら見てる。片手に2杯目のビールを持ちながら。

 ゆーだいさんは運転あるから、鳥(烏)龍茶だ。この人、お酒飲めんのかなあ。いっつも車だから酒飲んでるとこ、見たことないや。

 延岡まゆは…2杯目のレモンハイを片手にギャハハと笑っている。

 クリスマスの夜。なんか思い描いてたのとはちょっとチゲーけど。うん。悪くない。気のおけない仲間と酒飲んで美味いもん食う。うん、悪くない、楽しい。

 アタシはひたすら、食う。上が付く肉を、ひたすら食う。コメも食う。そんなアタシを嬉しそうにゆーだいさんが眺めている。まるで餌をあげている市原ぞうの国の飼育員みたいだ。

 チャラ男とまゆは、競い合うよーに飲んでるし。次で5杯目だし。大丈夫かね、この二人?

 不意にゆーだいさんが、

「ドライバー、調子良さそうだね。よかったよかった」

「うん。ゆーだいさんが一月貸してくれてたから、デカヘッドも慣れたし。」

「F Wとパターはシャフトだけ変えたんだっけ?」

 あの事故の時。ドライバーとアイアンは修復不能だったが、3Wと5W、そしてパターはギリ難を逃れ、曲がったシャフト交換だけで済んだ。それはグリーンキーパーのテツさんがチャチャッとやってくれた。

「キャディーバッグは良太さんがお古をくれたし。コレで三月の予選会、バッチリです」

 そう言うと、ゆーだいさんはすっごく嬉しそうな顔をしてくれる。

「会場はどこだっけ?」

「えっと、1次予選は群馬県の〜何ちゃらカントリーってトコで〜」

 ゆーだいさんが軽くずっこけて、スマホでチャチャって調べてくれる。

「ふーん。知らないけど、きっと良いコースなんだろうな。勿論大会前に一度は行くんだろ?」

「うーん、どーすっかなー」

「いや、行けよ」

「まあ、支配人に聞いてみるー」

「なんか心配だわー、頼むぞ、みなみちゃん…」

 テヘペロしてみる。ゆーだいさんの顔が赤くなる。


 7杯目だったマッコリを飲み干したチャラ男が、何言ってっかイマイチわからん口調で、

「今から横浜のホテルにみんなで行くぞお」

 らしき意味の言葉を言ったので、

「ムリムリ。アタシ門限あっから」

 と言うと、チャラ男くらい酔っ払いのまゆが、

「確か今夜は実家に泊まるって言ってたわよねえ、なら平気じゃない?」

 っぽい言葉を言ったので、ああそーだった、今夜は実家に泊まるってクラブには言ったことを思い出す。

 と言うのは、まあ、ねえ、その、一応クリスマスの夜だし。聖夜だし。ゆーだいさんと(当初は)二人だけだし。遅くなるかもだし。

 なのでせっかくここまで伸びてきた髪をまた坊主にしたくねーので、外泊届を出しといたんだったわ。

 ゆーだいさんに目で伺うと、

「まあ、取り敢えずリューさんをホテルまで送って行こうかと。大丈夫、ひどく遅くなることはないと思う。」

 いーえ。ひどく遅くで結構ですから。そのホテルに酔っ払いまゆも放置して、二人でクリスマス聖夜ドライブがしたいっす!

 目で訴えてみたけど、通じたかなあ。


     *     *     *     *     *     *


 まあ酷い酒癖だ、この二人は。

 学生の頃から良く通っていた桜川のセメント通りの焼肉屋を出る頃には、二人とも完全に呂律が回っておらず、コレでは明日の朝まで仲良く撃沈であろう。ザマみろ。

 この二人をとっとと横浜に送って行き、みなみちゃんを送って帰らねば。

 当初の予定では二人きりでいつもの焼肉を食べて、だったのだが。リューさんのまさかの段取りに付き合わされ、大分予定が狂ってしまった。

 みなみちゃんの門限が気になったが、どうやら今夜は実家に泊まる事にしているので、多少遅くなっても大丈夫そうだ。

 少し二人きりでゆっくりもしてみたいが、彼女は明日の朝も早いだろう、あまり遅くまで引っ張り回してはならない。

 時計を睨みつつ、車を横浜に走らせる。

「なんか、ごめんね遅くなって。明日も早いんだろ?」

「あー、なんか明日は午前中休み取ったんで。大丈夫っす」

「そっか。でもあまり遅いと体調崩しちゃうからな。なる早で送るから」

 曖昧な笑顔でみなみちゃんが頷く。

 本当は。

 本当の気持ちは、みなみちゃんと朝まで一緒にいたい。

 でも、それは出来ない。

 俺はこの切なさを飲み込んで、アクセルをギュッと踏み込む。その加速感が飲み込んだはずの切なさを喉まで押し返そうとする。


 一応有名人なのだから、帽子、サングラスまたはメガネ、マスクで顔を隠さねば、とまゆゆんを振り返ると、大きく口を開け、鼾かいている。この寝顔はまゆゆん信者は決して見ることは出来まい、俺はニヤけ顔に自ら頬うち、

「みなみちゃん、まゆゆんに帽子、メガネ、マスクかけてやって」

「ほーい。チャラ男はどーします?」

「このままでいいっしょ。そんでさ、俺がリューさん担いで行くから…」

「はーい、まゆはアタシが担いで行きまーす」

 赤煉瓦街に程近いシティーホテルの駐車場で、俺とみなみちゃんはそれぞれ自分の荷物を担ぎ、フロントへ上がっていく。俺たちのこの姿、滅茶苦茶怪しい。

 フロントの係の人も呆れ顔で、

「お連れ様が? え? そちらの? えっと…」

「僕の背中にいるのが予約した小林です、一緒に泊まるのが…彼女の背中にいる女性です」

「で、ではご宿泊の手続き…」

「僕がします…」

 背中に白アスパラガスを背負いながら、俺はチャチャッと手続きを済ませる。連れの名前は陽菜にしておく。

「この二人を部屋に送ったら、僕らは帰りますので」

「しょ、承知しました… あの、お疲れ様でした(笑)」

「でしょ? 大変だったよ、ホント(笑)」

「是非、またの機会にお二人でいらっしゃいませ、お待ちしております」

 俺とみなみちゃんは目を合わせ、二人して赤面してしまう。


 リューさんが取っていたスイートにチェックインし、キングサイズベッドにリューさんを放り投げる。みなみちゃんもまゆゆんをポイとベッドに放り投げる。

「へへっ 後でつべこべ言われないよーに、写メしとこっと」

 と言って、みなみちゃんは二人の酔いつぶれた姿を面白おかしく写真に撮る。俺もちょっと面白くなって、まゆゆんとリューさんの頬っぺたに軽く落書きしてみる。その顔をみなみちゃんがギャハハと笑いながら動画で撮る。

 コレをYouTubeで流せば、まゆゆんは一巻の終わりだ…脇が甘いぞまゆゆん!

 ひとしきり楽しんだ後、寝室の電気を消してやると部屋が真っ暗になる。

「うわーーー チョーキレーーーーー」

 みなみちゃんの声が裏返る。

 声の方を見ると、確かに。暗く奥深い横浜港を背景に、観覧車が光の回転を振り回している。見下ろすビル群の幾多の光が地上の星の如く揺らめいている。

 コロナ禍とはいえ、クリスマスの夜景が余りに美しく瞬いている。

「いーなー、ゆーだいさんたち…」

「へ? なに?」

「アタシらはさ。こんな景色一生見ることないよ、今のままじゃ…」

 言葉が出ない。

「いい成績で高校出て、いい大学いって、いい会社入らないと。こんな景色、見れないんだよね、フツー。」

 俺は何も言えず、そっとみなみちゃんの後ろに近づく。

「でも、アタシだって… ゴルフ頑張れば、アタシだっていつかこの景色をまた、見れるよね?」

 みなみちゃんが俺を振り返る。大きく見開いた目に、俺の顔が映っている。

 一歩、近づく。急激に体温が上昇するのを感ずる。

「ああ。来年の今頃は、きっとこんな夜景を勝ち取っているさ、みなみちゃんは。」

 半歩、彼女が俺に近づく。

「そーだといいなあ。でも。アタシ一人で見るのかなあ?」

 俺は視線を外し、窓の外の夜景を見る。

 ごめんみなみちゃん。俺と二人で、と言えないよ。

 でも、言いたいよ。来年は二人でこの景色見ようね、そう言いたいよ。

 来年も、再来年も、ずっと二人で見続けたいと、言いたいよ。

 俺は口を開くことが出来ず、窓の外の景色を眺める。するとみなみちゃんがまた半歩俺に近づく。俺の目の前に、だいぶ伸びてきたがまだ短い髪の毛が色とりどりの観覧車の光を反射している。

「なーんて。当然だし。ゆーだいさんは彼女さんと見るんだもんね。」

 俺は両手の拳をキツく握る。目の前で俺は途轍もないものを逃そうとしてはないか?

「今日だってクリスマスなのに。ごめんね、大事な夜にアタシなんかと居てくれて」

 目を固く瞑る。でないと涙が溢れてきそうだ。

「でも、ゆーだいさん…お願い…」

 みなみちゃんが俺の左肩におでこを乗せる。

「あとちょっと、このままでいさせて…」

 両手でキツく抱きしめたい誘惑を必死で堪え、左手だけ彼女の背中にそっと置く。だが、彼女の吐息を左胸で感じた時、俺の脳はこれ以上堪えることが出来なかった。

 背中に回していた左手を強く引き寄せる。彼女が小さくうめき、俺の胸に密着する。

 これでいい。

 思い残すのは嫌だ。後悔だけはしたくない。

 右手を彼女に回し、きつく抱きしめー

 ピロロ ピロロ ピロロ

 ラインの着信音が静まり返った部屋に響き渡る。

 みなみちゃんは静かに俺から離れていく…


     *     *     *     *     *     *


 遅くなったら申し訳ないと言いつつ、法定速度を1キロも超えることなくゆーだいさんは車を走らせる。

 さっきまで、アタシは夢のような時を過ごしていたー

 高級ホテルの上層階、大きな窓から見えるヨコハマの夜景、クリスマスの夜。まるでドラマか映画のワンシーンのようなひと時。

 そして、(奥で死んでいる二人を除き)ゆーだいさんと二人っきりの、夜。

 アタシと彼は向かい合い、見つめ合い。近づき、お互いを感じ。

 貴方の瞳に映って見えた光る観覧車、一生忘れないよ。それと、

 貴方の胸の暖かさと、左手の温かさ。

 ホントにホントに、彼氏と彼女みたいだったな。アタシたち。

 でもこの時間はもうすぐおしまい。この車が大多慶の実家に着くまでが、私のシンデレラタイム。せめてそれまで、あと47分間だけ、アタシは貴方の彼女でいさせて…


「それにしても、あの二人。朝までぐっすりだろうな」

 急に思い出す。そーいえば、チャラ男とまゆ…

「朝起きて、どんな顔して過ごすんだろ。メチャ気まずいっしょ、ウケる(笑)」

「それな。俺なら、消えてなくなりたい…」

「アタシなら、窓から飛び降りたい…」

「でも…案外、あの二人、シレッと『おはよおー』なんて言ってー」

「あはっ『お腹すいたあー、高級ビュッフェ食べたあーい』なんて言いそう(笑)」

「そーそー。そんで、『じゃービュッフェしちゃおっかあー』なんてチャラく言ってそー(笑)」

「しっかし。あのまゆゆんが、あのリューさんに… 意外だったわ〜」

「えー、そーでもないっしょ。だってチャラ男、おんぞーしだし。億り人だし。チャラいけど顔もまーまーだし。そーゆーの好きな女は、フツーに行くっしょ」

「そ、そうなんだ…」

「へへっ ゆーだいさんも気をつけねーと。まゆとかアタシみたいなのに捕まっちゃうぞおー」

 と言ってから耳を赤くする。

「まゆゆんはともかく… みなみちゃんなら、大歓迎かも」

「もー。嬉しいこと言ってくれちゃって。コレだから彼女いる男はあかんわ。口が上手いし手も早い。なんちって」

 と言ってからちょっと下を向く。

 それからしばらくアタシらは無言のままだった。言いたいことや話したいことは山ほどあるけど、今はグッと胸にしまっておく。

 助手席から見える工場の光がメチャきれい。カーオーディオから流れるF M放送のクリスマスソングとよく合っている。こんだけ光が多ければ、サンタさんは道に迷うこともないだろーな。運転席のサンタさんを見る。ヒゲは生えてないけど、アタシにいっぱい色んなプレゼントをくれた、世界一のサンタさん。アタシに暖かさと優しさをいっぱい振る舞ってくれた宇宙一のサンタさん。


 長―いトンネルを抜けると、海ほたるのP A。トイレ行きたくなったんで、ゆーだいさんに言って停まってもらう。

 トイレから戻ると、車の前でゆーだいさんが、

「ちょっと散歩しない? 寒いかも知れないけど」

 このまま車に乗ってしまえば、あと三十分の命。いや、彼女。

 もうちょっと、あともうちょっと彼女でいれる!

「うん。いこいこ」

 暗いのをいいことに、そっとゆーだいさんの左腕に右腕を絡める。ゆーだいさんは少し困った顔をしつつ、アタシにニコッと笑って歩き出す。

 海ほたるは船みたいな形をしていて、アタシらはその先っちょの方、東京や川崎や横浜がよく見える方に歩いて行く。

 確かに、顔に当たる海風は冷たく湿っている。ブルっと身を震わせる、が、ゆーだいさんにくっつくと、身体の中からポカポカが込み上げてくる。しばらく歩くと、少し汗ばむくらいである。

「どお? ここからの景色。綺麗でしょ?」

 思わず息を呑む。遠く暗い水平線の向こうに光りさんざめく街の灯。それはまるで、空から落ちてきた星がそのままピカピカ光っているみたいだ。

 アタシとゆーだいさんをグルリと囲むように、遠く千葉、東京、川崎、横浜の街の灯りがクリスマスの寒空を暖かく照らし出してる。

 でもね。ゆーだいさん。

 こーゆートコってさ、あんまし女子連れてこないほーがいいよ。

 真っ暗な海の向こうに淡く光る夜景効果でさあ、ゆーだいさんのこと好き、なのが、大好き、にスキルアップ(グレードアップ?)しちゃうんだから。

 そしたらどー責任取ってくれんのさ。こんなに人を好きにさせといて〜♪ あ、コレ、節子さんの十八番だったわ。


 それからしばらく、寒さを忘れてアタシらは東京湾の夜景に見入っている。さっきからピッタリくっついているので、マジ寒さを超越したかも。

 そっと目を閉じてみる。ゆーだいさんとくっついてる部分が熱い。そしてそこからと、胸の奥からの暖かさが身体中に染み渡る。

 どれくらい時間が経ったんだろ。スマホの時計はもーすぐ12時。うわ…シンデレラタイムが…あと少しで…

「うわ、こんな時間… ゴメンね、遅くまで…」

「全然っ チョー楽しかったからっ アタシね、この光景もぜってー忘れない。今日のこと、ぜーんぶ忘れない。」

「ありがと」

 ゆーだいさんがそっと呟く。表情は暗くてよくわからない。

 アタシたちは腕を組んだまま駐車場に戻る。短髪だから無いけど、後ろ髪を引かれる思いってコレなんだ、この歳にして初めて知った。

 車に戻り、千葉方面に車を走らせる。木更津市に入る。あと三十分で大多慶だ。

「コレでゆーだいさんの仮装(仮想)彼女ターイム、しゅーりょー、だね、えへ」

 ゆーだいさんが苦虫をかみ潰したような顔をするんで、ちょっと心がチクンとする。それをごまかし茶化すように、

「あー、そんでさ、もしさ、ゆーだいさんが彼女にフラれたら、アタシ付き合ってあげるよお てれっ… へへ、なんちって…」

 あー、やっちった。ゆーだいさん、ドン引きだわ…

「だ、だからー、ウソだって。うっそー。アタシが…」

 ゆーだいさんが、横に首を振りながら、ゆったりした声で、

「実は、彼女と」

 アタシの目をしっかりと、でも悲しげな目付きで、

「婚約、したんだ」


 それから大多慶の実家に送ってもらった間の時間全て、夢の中の出来事のようだった。何を話したかはしっかりと覚えてるけど、それを思い出す時、フワフワしてるのだ。とてもホントにあった事とは思えない程、浮ついた記憶しか残っていない。

 確かに年末まであと数回一緒に回ろうと約束した場面は覚えている。だがアタシがなんと答えたかよく覚えていない。

 あの日はあの後一睡も出来なかった。翌朝実家で朝ごはんを食べて大多慶に母ちゃんに送ってもらい、昼過ぎから仕事して夕飯食って、寮の寝床に入った。さすがにバタンキューだったが、朝4時には目が覚めてしまい、それから夜12時くらいまで眠れず4時には起きてしまう、そんな夜が続く。

 必然、体のキレは悪くなり、また気分的に練習に身が入らなくなっていく。年末までにゆーだいさんは二回来たようだけど、アタシは仕事を理由に一緒のラウンドを断った。

 ラインが何本も来たけど、既読スルーしていた。

 その内にメッセージは来なくなり、年が明けた。

 あけおめメッセージにも返事を出さず、実家で久しぶりの睡眠を貪っていた。

 年明けは三日から仕事だ。だが。

 抜け殻のアタシは実家の布団に貼り付いたままだった。

 じーちゃんと母ちゃんがずっと何か言ってるけど、スルーだ。何も聞こえない。

 二人の弟、大次郎、源次郎もなんかわめいているけど、聞こえない。

 何だろ、アタシ。どーしちゃったんだろ。


     *     *     *     *     *     *


「明けましておめでとうございます、今年も、いやこれからもよろしくね、雄大君」

 小林社長は既に赤ら顔で上機嫌である。

 正月、俺とみなみは広尾の小林家に呼ばれ、新年を祝うことになった。昼過ぎにお邪魔すると、宴の支度はすっかり出来上がっており、持参したお年賀を奥様に渡し、大多慶CCの7番グリーンほどもあるリビングで歓談している。

 リューさんも既に真っ赤な顔で、

「さー、今日は飲めよお、ゆーだい。運転はみなみちゃんに任せてさあ」

 年末、みなみが普通自動車運転教習生活を無事卒業し、晴れてドライバーとなったのだ。

 ドライバー…

 みなみちゃんは、どうしているだろう…

 あれから何度連絡しても、返事が返ってこない。ほぼ既読スルー状態である。

 理由はわかっている。

 俺が陽菜との婚約を話したからだろう。

 非常に真面目な子なので、彼女持ちならギリだが、婚約者持ちの男性とはこれ以上接しない事にしたに違いない。

 ドライバー… 調子はどうなのだろう。アイアンは? 三月の予選会に向けて、調子は?

「おい、ゆーだい。初打ちはいつにするよ? パパも一緒に行こーよ」

 キッチンから陽菜が出てきて、

「もー。あんまゆーだいくん誘わないでよ、お兄。式の事とかいっぱい決める事あるんだからー」

 膨れっ面ながら、嬉しそうに陽菜がリューさんを窘める。

 年末。陽菜や両親、みなみと話し合い、今年の秋頃、コロナ禍が落ち着くであろう頃、俺と陽菜は式をあげる事に決まった。

 陽菜は(みなみもだが)今年大学四年生、学生結婚となってしまうのだが、

「どーせ学校行かないし。全部リモートだし。それなら奥さんしながらでもいいよね?」

 リモート授業の合間が夫婦生活なのかよ…

 まあ、これも人生なのかも知れない、なんて変な諦めに苦笑いしながら、俺は陽菜の話に同意した。

 新居は小林家が用意してくれた代官山のマンションと決まる。資産運用で賃貸に出していたのだが、入居者が四月から葉山に戸建てに住む事にしたらしく、内装工事を入れて秋には入居できるようにしてくれると言う。

「絶対、遊びに行くからねお兄ちゃん! うわ、夢の代官山ライフだよー」

 珍しくみなみが興奮している。兄と幼馴染みが暮らし始めるのが嬉しくて堪らない様子だ。


 それにしても、陽菜は本当に変わった。

 髪は地毛に戻し、服装もフツーに、そして口調もフツーに戻って久しい。その変化を一番喜んでいるのが小林社長夫妻だ。

「雄大君は琉生だけでなく、陽菜も変えてくれた。なんてお礼を言えばいいか…」

 うわ… 社長が涙ぐんでる… I T業界でその冷静沈着さで一目置かれている、あの小林社長が…

「ホント。ウチには勿体ないくらいよね、陽菜ちゃんのこと、よろしく頼んだわ」

I  T業界では美魔女として名を馳せている細君が蕩けるような表情で言う。うん。魔女だ。

「それにしても… りゅうちゃんは雄大君くらいしっかりして欲しいわ。もう三十なんだし。そろそろ自立して欲しい わあ。そうそう、高橋さんのところの美奈ちゃん、今年大学卒業なのよ、ちょっと一度会ってみなさいよ」

 はははは…あのリューさんの顔。ウケる。ウケ…

 みなみちゃん、どうしているだろう…

 俺は頭を振る。

 婚約者の家で他の女子のことを考えるなんて…

 席を立ち、小林家の庭に出てスマホを開く。メッセージは無い。

 青く晴れ上がった空を見上げる。雲一つない、新年に相応しい快晴だ。この空をみなみちゃんも大多慶で見上げているだろうか。

 それとも予選会に向けて正月から練習しているのだろうか。

 会いたい。会って話したい。会って励ましたい。会って応援したい。

 これからも俺の出来ることをしてやりたい。ずっとそばで見守っていたい。

 そして、

 またあの夜景を、一緒に眺めたい…

「おーいゆーだい、こっち居てくれよお、ママがうるせーんだよお、助けてくれよおー」

 軽く溜息を吐く。まずはこっちから助け応援すっかな。


 今年の打ち初めは三日と決まり、俺、リューさん、小林社長の三人で回る事になる。

 二日の日。みなみを連れて練習場でドライバーを握る。一ヶ月間、みなみちゃんが使った、俺の410。そう思うとつい力が入り、球はスライス回転で右に大きく曲がっていく。

 明日、みなみちゃんに会えるだろうか。年末行った時には顔を見ることも叶わなかったが。

「お兄ちゃん、どうしたのボーッとして」

 みなみが不審げな顔で後ろから声を掛ける。俺は苦笑いしながら、

「曲がりが止まらねえんだわ。明日どーなることやら…」

 みなみは首を傾げ、ふーん、そうなんだ、と呟く。生まれてからずっと俺の妹をやってきたみなみには、俺の心情が手にとるように分かるのかもしれない。こいつに変な心配させたくない、そう思い目の前のボールに集中する。

力を抜け。音を消せ。

 無心で打った一打は、真っ直ぐ飛んで行き、250ヤードの看板を超えてネットに突き刺さる。


 この二日間、いや大晦日から三日間、この二人は飲み続けたのだろう、車の中は妙に酒臭い。それにしてもリューさんはまゆゆんとどうなったのだろう、聞いてみたいが流石に社長であり父である人の前では聞くことが出来ないので、市原鶴舞I Cを降りてすぐのコンビニで買い物をした時に、

「で? まゆゆんとは、あれから?」

 リューさんは苦笑いしながら、

「まあ、その、なんだ、アレだわ。てへ」

 …よく分からん。小林夫妻を心配させるような事にならなければいいのだが。

「あの後の話はしたよなあ、昼まで二人爆睡して、起きてから昼飯に中華街行って、車呼んで家まで送ってってー あれからまだ会ってないわー 今月は何だか忙しくて会えないみたい〜 ねーねー、ゆーだいー、どーしよー」

 知るか。勝手に弄ばれて、死ね。

 やはりこの人と長く付き合える地球の女性はいないのではないだろうか、と言う確信にも似た答えを告げるのは流石に可哀想なので、肩を二回ポンポンと叩き、

「さ。大多慶行こうぜ」

 リューさんは不満げな表情で俺の後をテクテクついてくる。


「ちょっと、ゆーちゃん、ちょっと…」

 マスター室長の串間さんが俺をそっと呼ぶ。

「あのね、みなみちゃんが来てないの。仕事サボってるの。何か知らない?」

 持っていたグローブを下に落としてしまう… 何だって? 出て来ていない?

「年末から様子が変でね、ちょっとみんなで心配してたのよ。年明けは今日が初出勤なんだけど、さっきお母さんから電話あって、具合悪くて来れないって…」

 いつもの語尾の「いひ」が無いほど真剣な口調だ。

「ゆーちゃんと、年末なんかあったのかなって。ねえ、誰にも言わないから教えてくれない?」

 俺は落ちたグローブを拾い上げ、

「クリスマスの夜、俺が彼女と婚約したこと、話したんですよ。」

 串間さんがハッとした顔になる。

「それから俺もみなみちゃんと連絡取れなくって。全部既読スルーされて。」

「そう…だったの… そっか、あの娘…」

 串間さんは曇り空を見上げ、白い息を大きく吐いた後、

「今日ね、ラウンド終わったら、あの子の家に行ってみてくれないかしら。様子を見てきて欲しいの。ね、お願い…」

「そんな… 俺が行っても…」

「貴方じゃなきゃ、ダメだと思う」

 キッパリとした口調で告げられる。

「大丈夫。貴方が行けば、何とかなると思う。それに、あの子のおじいちゃんの源さんと小林社長、昔馴染みじゃない、ちょっと行ってくれないかしら…」

 串間さんの目がこんなに鋭いのを初めてみる。それはまるで、

(アンタのせいでみなみちゃんがこうなったのよ。ちゃんと責任取りなさい)

 と言われているようで、胸が苦しくなる。そして更に、俺が婚約を告げたせいでみなみちゃんが引きこもってしまったのならー俺はみなみちゃんにとんでもないことをした事になる。

 予選会まであと三ヶ月。仕事も練習もせず、家に引き篭ってしまった。

 間違いなく。これは俺の責任だ。俺が何とかしなくてはならない。

「わかりました。ラウンド終えたら、社長に話して、彼女の実家に行ってきます」

 串間さんは俺の手を握り、

「お願いよ、ゆーちゃん。あの子、あとちょっとなの。あとちょっとで、あの子は自分の足で歩けるようになるの。お願い、助けてあげて!」

 俺は深く頷き、小林社長の元に歩き出した。


「まさか源さんと会える事になるとは。感謝します、雄大君。実に20年ぶりですよ、お元気でいらっしゃるかなあ」

 簡単に事情を話すと、社長は快諾してくれた。

 今年初のラウンドを終え、因みにスコアは99。ギリの100切りに胸を撫で下ろす。三人で風呂に浸かり、渋るリューさんを宥めすかして脅し、みなみちゃんの実家に車を向ける。

 大多慶CCからは車で10分ほどの山の中腹、緑に囲まれた古い日本家屋が見えてくる。クリスマスの夜遅くに送った時は真っ暗だったので、へえ、こんな感じだったんだと初めて来た気分になる。

「いちいち会いに行かなくたって。ゴルフ場で会えばいーじゃん。あーめんどくさ」

「源さんは身体を悪くされて、最近はクラブを握ってないそうだ。因みに、源さんの作った日本酒は本当に美味しいんだぞ、琉生」

「マジ? ポン酒かあ、俺あんま飲まないんだよなあ、なんか甘ったるくてさあ」

 リューさんがブツブツ言っている間に、みなみちゃんの実家に到着する。串間さんが連絡しておいてくれたので、俺たちの来訪は伝わっている筈。

 俺は久しぶりに緊張する。もし、みなみちゃんが俺と会うのを拒んだら… それは近い将来の日本女子ゴルフ界の大きな損失になるかもしれない…

 俺は震える指で呼び鈴を鳴らす。


     *     *     *     *     *     *


 こんな感じになるのは、あん時以来だ。あん時とは、延岡まゆに干され、ゴルフ部を辞めた頃だ。あの時は夏休み前だったのだが、結局一夏何もせずに家に引きこもっていたわ。

 脱力感がぱない。なーんもやる気になれない。大晦日の夜のお笑い番組も紅白も見る気になれず、正月もお節食った時以外は部屋から出る気になれず。

 スマホの電源も切ったまま。今日から仕事始めだったけど、ダルいから休むって母ちゃんに連絡してもらった。

じーちゃんは、

「ほっとけ。その内起きてくるわ」

 と放置プレイ。正直、それが助かる。

 弟達も腫れ物に触るようにアタシから距離を置いてくれてる。スッゲー助かる。

 あれ、アタシ今年風呂入ったっけ? 面倒くさくて、多分大晦日以来風呂入ってないや。

 窓を開けてみると冷たい正月の空気が部屋に入ってくる。部屋にこもったアタシ臭さが少しマシになった気がする。でも寒いのですぐに閉める。

「みなみー、もうすぐ宮崎さんと小林さんがいらっしゃるって。ちゃんと挨拶しなさいよー」

 ハア? 母ちゃん、何言ってんの? 母ちゃんがアタシの部屋の外からなんかとんでもないことを言い出す。

「で、誰なの? 宮崎さん? 小林さん?」

 アタシは慌てて飛び起き、部屋の襖を開け、

「何で?」

「それは私のセリフだよ。誰? 何で?」

 親子でクエスチョンマークを投げ合っているうちに、車の止まる音がする。え? マジで?


「源さん、お邪魔しますよ、東京三葉銀行の小林です」

 玄関から紳士じーさんの声がする。小林って、社長の方かい!

「ちーっす。お邪魔しまーす」

 ちっ 何でチャラ男まで…

「こんにちは、お邪魔します」

 胸にグリーンフォークが突き刺さった痛みを感じる。ホントに、来たんだ。

 え…

 会いたくない。

 でもリトルみなみが歓喜する。

 来てくれたんだ! チョー嬉しい!

 でも、どんな顔して会うの? 何を話すの? もうすぐ結婚する人と、何を話せばいいの?

 でも、チョー会いたーい。既読スルーしてゴメンなさいしたーい。

 いやいやいや。会えんだろ。会いたくねーわ。もーすぐ(いつか知んねーけど)婿に行くヤツと会いたかねーわ

 いやいやいや。会いたいよお。会ってまた一緒にゴルフしたいよお

 一人で激戦している内に、じーちゃんのすっとんきょな声が聞こえてくる。

「あれあれあれーー、小林さん、じゃないさ、いやー、懐かしい、ささ、どうぞどうぞ」

 あーあ。家に上げちゃったし。

 さーどーする、みなみちゃん。

 会う?

 会わない?

 どっちにしろ、何しに来たんだか確かめなきゃならんわな、そんな訳で、客間近くの話し声が何とか聞こえるところまで貞(偵)察に行く事にするー


「…と聞いたんですけど、お加減は如何ですか?」

 なんだ。じーちゃんの膝の話してんのか。

「そーなんだよねえ、四年前にさ、膝をやっちゃってさ。杜氏の仕事の方は、大丈夫なんだけどさ、ゴルフはちょっと、難しいんだわ。それにしても、懐かしいなあ、おい美加、あれ、持ってきてくれ」

 アレって、アレかなあ。

「ささ、どうぞどうぞ。運転はどちらが? 宮崎さん、が運転ですか。じゃあお猪口は二つでいいですね」

「うわ… みなみちゃんママ、マジ美しい…尊い…」

「あーら。若いのに口が上手な事。へー、小林さんの息子さんなんだ、似てねー(笑)」

「不詳の息子でして。以後お見知り置き下さい。それとこちらが息子の友人で私の会社に勤めてもらっている宮崎雄大君です。」

「あーーーら。あーら、あら。ちょっと、おじいちゃん、こっちの人、みなみ好みじゃない?」

 よくわかってんじゃねーか。さすが母ちゃん。

「あ、初めまして、宮崎です。みなみさんには大変お世話になっています。」

「あらあら、初めまして、みなみの母です、やだ、ホント素敵な人じゃない」

 ちょ… やめろ母ちゃん… 本気出すなよ、ゆーだいさんが…

「亡くなった主人にちょっと似てるかも… あら、御免なさい、失礼よね…」

「い、いえ、そんな事は…」

 ヤバ。母ちゃん、本気出しかけてっぞ。マジやめろ母ちゃん、アンタが本気出したらアタシなんて敵いっこねーし…

「御免なさいね、今日は運転だからおじいちゃんの本気のお酒差し上げられなくて。今度、車置いて飲みにいらっしゃいね、一緒に飲みましょ。ホントに美味しいのよお」

 アカン… このままじゃ、ゆーだいさん…


「ちょっ 母ちゃん、ゆーだいさん困ってんd―」

 気が付くと客間の襖を思いっきし開けてしまった!

 そして客間には母ちゃんに迫られ、満更でもなさそうなデレ顔したゆーだいさんが…

 なんかアッタマきたので、ツカツカと歩み寄り、あぐらかいてるゆーだいさんの横っ面を

 パシっ

 と叩いて、場を凍らせてしまう。

 同時にー

 あの時以来、ずーっとぼんやりしてた頭がスッと晴れ、メチャ驚いた顔してるチャラ男、紳士じーさん、ウチのじーちゃん、母ちゃんの顔がハッキリと見てとれた。そしてー

 あの時とおんなじ顔してるーそお、ドライバーを17番の池に放り込んだ時と同じ顔で凍りついてるゆーだいさんの顔を見て、腹の底から嬉しさと可笑しさが湧き上がり、5分ほど大笑いとポロポロ涙が止まらなくなってしまった。


「マジ、この酒、神ってるわー 俺、ポン酒あんまやんないんすけど、これはチョーいけますって。こんな美味いポン酒、初めてだわー」

「だろ。源さんの酒は、神ってるんだよ。」

 メチャ上機嫌じゃん、紳士じーさん。

「この人さあ、味にうるせーんだわ。初めてウチの酒蔵、来た時にさ、利酒しまくって、散々講釈たれやがって。結局、買ってったの、一本だけ。金持ちのくせにさ、ケチな野郎だったよなあ」

「ああ、思い出したあー、あの小林さんねー、でもあの後近く来たら必ず寄ってくれてたよねえ、一本しか買わんけど(笑)」

「いやー、大多慶小町が覚えてくれていて、光栄です」

「大多慶小町? って、おばさんじゃん… あっ ひっ」

 母ちゃんが昔の杵柄、メッチャガン飛ばし光線でチャラ男を焼き殺す。母ちゃんは高校まではかなーりグレてたらしく、言い寄る半端な男は睨み殺していたって。

「小林さんは、こっちの方は、どーなんだい?」

 じーちゃんがスイングして見せる。

「まあ、ボチボチです。あれからイギリスに転勤になって、あっちでリンクスとか回ったんですよ。是非源さんと回りたかったなあ」

「ほー、そいつは羨ましいわ。あれか、回った後は、スコッチで乾杯ってか?」

「そうですね、樽の匂いが渋く効いたヤツをこう、クイって。最高でしたよ。でもね、やっぱり酒は日本酒に限る。それもこの大多慶酒造の特別大吟醸、『南風』。うん。これが一番!」

 ちなみに。この酒の名前は、アタシから取ったんだってさ。

「この口に入れた時の風味。フルーティーながらもしっかりした舌触り。まるでグレープフルーツのような舌触り。そしてこの喉越しの滑らかさ。ツルんって喉を転がるように入っていく感じが堪りません。そしてさらにー」

「出たよ出たよ、いやー懐かしい(笑)コレを一時間以上、続けんだぜ、この人」

 うーん。フツーに面倒臭いわ。紳士じーさん。

 あ。ゆーだいさんが笑ってる。

 いいなあ、やっぱこの人の笑顔。マジいやされるわー。

「でも、わかるよパパ。この酒さあ、ワインみてーに飲みやすいんだよお、マジうめー」

 黙れチャラ男。何なら、死ね。てか、まゆにもてあそばれ苦しみ悶えろ。そして、死ね。

 あれ。アタシ、笑ってる。

 口開けて、大笑いしてる。今年の初笑いかも。

 母ちゃんがそっと卵焼きを差し出す。それを受け取り、一切れ食う。マジうまい。もう一切れ食う。チョー美味い。腹が突然、グリュリュリューーーと鳴き響く。皆は一瞬呆気に取られ、そして大爆笑する。くっそ。


     *     *     *     *     *     *


「でも、また源さんと一緒にラウンドしたいなあ」

 小林社長がしみじみと呟く。地元でも有名なアマゴルファーだったらしい、みなみちゃんのおじいさん。一体どんなスイングでどんなプレーをするのか、俺も大変興味深い。それにーみなみちゃんのゴルフの師でもあるのだし。

 源さんは右膝をポンと叩き、

「なあ。コイツさえ、良くなってくれりゃあ、みなみともさ、一緒に回れるんだがなあ」

「ねえ源さん。僕の知り合いにね、膝専門のスポーツドクターがいるんですよ。一度診てもらいません? そうしましょう、いつにしますか? 来週は空いてますか?」

 仕事が出来る人は他人を巻き込むのが上手い。社長レベルになると、達人の域である。躊躇する源さんを宥めすかし、その専門医に直電しあっさり予約を取り、来週の水曜日に何故か俺が源さんを送り迎えする事になる。

「良かったわねえおじいちゃん。これでまたゴルフ出来るじゃない」

「そんなの、診てもらわねえと、わからねえや」

 と言いながらも、源さんは嬉しそうな顔を隠せない。

 当然、みなみちゃんも、

「マジ? じーちゃん、またゴルフ出来んの? マジで?」

 源さんはニヤリとし、

「あれ。お前、大多慶、辞めたんじゃ、ねーのか? 今日サボったってな。ゴルフ、やめたのかと、思ったわ」

 みなみちゃんは一瞬俺をチラッと見て、

「や、やめてねーし。きょ、今日は、アレだ、あれ、生理だったか……ゲッ」

 すかさずお母さんの張り手がみなみちゃんの短髪の後頭部にヒットし、大爆笑となる。

「アンタ! 男の人の前でなんてことを… ゆーだいくーん、今のは忘れて頂戴。いい?」

 とウインクされる。

 いや、ホントにみなみちゃんのお母さん、ヤバい。

 俺に何の柵もなければ、本当にのめり込んでしまいそうな愛嬌、美しさ、妖艶さだ。小林社長もさっきから目をキラキラさせているし。


 トイレを借り、手を洗っていると、そのお母さんがスッと俺の横にやってくる。洗面所の鏡の中のお母さんが俺をじっと見つめ、

「ゆーだいくん。ゆーだいくんって…」

 鏡越しの視線ながら、俺は一気に緊張し、耳まで真っ赤になっている。まさかーさっき言ってた、お酒を飲みに来い、の具体的な相談なのでは…

「みなみのこと、どう思っているの?」

 そっちか。よく見ると、母親の顔で俺を真剣に見ている。人の表情は直接見るより鏡越しで見た方が本性を分かり易い、と何かのネット記事で見たことを思い出す。俺は包み隠さず、本音を言うことにする。

「好きです。でも、僕にはこの秋に結婚する婚約者がいます。」

 鏡に映るお母さんは軽く頷く。目の鋭さは直接見るよりもキレがある気がする。

「ですので。僕はこれからは、女子としてではなく、一人のプロゴルファーの卵として彼女を応援し助けていきたいと思っています。」

 二度、頷いてくれる。

「ただ… みなみちゃんがそれを迷惑に思うなら、遠くから見守ろうと思っています」

「それって、もう会わないってこと?」

「もし、彼女がそれを望むなら」

 お母さんはニヤリと笑い、俺の頭を叩く。妙に心地良い。

「うちの子は、そんなヤワじゃねーよ。惚れたオトコが婿に行くからもう会いたくない、なんて泣き言言う筈ねーよ」

「…ですか、ね?」

 頷きながら、表情が変わる。優しい母親の顔になり、

「だからね。みなみのこと、支えてやってくれないかな…もちろんできる範囲で良いから。あの子ね、秋からすっごく変わったんだ。自立したっていうか、本気で打ち込むものを見つけたっていうか。それまではね、あの子本気でプロを目指してなかったんだよ。」

「そんな事はないと…」

「本人はそうだったかも知れないけど。側から見たら、単なる逃げにしか見えなかったの。大学にも行けず、まともに就職も出来ず。仕方ないからゴルフでもやるか、って気持ちがありありと見えてたの。だからこのままじゃとてもプロになんかなれないと思ってたわ。」

「そ、そうなんですか?」

「それが。この秋。多分、あなたとみなみが出会った頃? から、ガラッと変わったわ。あの子、本気でプロになるって決めたみたい。それはね、お金のためかも知れないし、人に負けたくないからかも知れない。でも、私は違うと思う。」

「…それは?」

「うん。それはね、貴方が側にいるから、だと思う。」

「えっ…」

「あなたに見て欲しいから。あなたに見守って欲しいから。あなたの喜ぶ顔が見たいから。あなたの笑顔が見たいから。」

 ま、まさか。そんな…

「あの子は根っからゴルフが好き。大好きなおじいちゃんと大好きな良太ちゃんに教わったから。その大好きなゴルフで生きていく様を大切に見守って欲しい、それがあの子の願い。そして、それを叶えてくれるのはこの世で、」

 鏡の中のお母さんが人差し指を俺に向けて、

「貴方だけ。」

 鏡の中の俺が、硬直し動けなくなっているー


 みなみちゃんが今夜、寮に戻る事になって自分の部屋でその支度をしている。俺はそれをボーッと眺めている。

「今日は弟さん達、いないんだ?」

「そ。大次郎は友達と初詣、源次郎は受験勉強で友達と塾行ってるわ」

「そっか。いつか会ってみたいな。下の弟が野球やってんだよね?」

「そ。いつか教えてやって。ヘッタクソだから」

 未だ会ったことのない二人の弟に想いを馳せていると、

「まったく。突然来るからビビったよ。で、今日はどうだったん?」

「99。100は切れたわ」

「ほーん。じゃあ、年内にシングルな。」

「いやそれは… 難しいなあ」

「そっか、ケッコンの準備が忙しいからかあー」

「…まあ、それもあるかも」

 カバンに大体の荷物を詰め込み終えたようだ。

「一つ、聞いてもいい?」

 俺は軽く頷く。

「ケッコンしても、」

 みなみちゃんは俯きながらそっと呟く。

「ゆーだいさんの事、好きでいて、いい?」

 俺は洗面所でのお母さんとの話を思い返す。

(でも、俺、この先どうすれば…)

(えー、フツーに二股とか(笑)それはキミにはムリそうね(笑))

(お母さん…真剣に! 俺はどうすれば?)

(これまで通りに。一緒にゴルフして、食事して。試合があれば観に行って。それも、無理かしら)

(いえ、それなら十分可能です)

(なら、そうして)

(わかりました)

(それとあと一つ)

(はいっ)

(お母さん、じゃなくて、美加って呼んで)

(はい?)

 俺は一人吹き出す。みなみちゃんのお母さんは最高だ。じゃなくて。美加さんはサイコーだ。

「いい、と思う。」

 みなみちゃんは懐かしい満面の笑みで大きく頷く。


     *     *     *     *     *     *


「ねえ、もう頭丸めなくていいからね、そのままでいて頂戴。いい?」

 クッシーさんの必死な顔に、苦笑いでうなずく。

 昨日はゆーだいさん達に寮まで送ってもらい、仲間達から鮮烈な新年のあいさつを受け、なんだか夜通し健人、翔太、みう、グリーンキーパー見習いのヤス達と語り合い、眠気眼で午前の仕事をしている。

 午後からは久しぶりに球を打つ。五日ぶり? 四月から今まで、こんなに打たなかったのは初めてだ。

体が重たい。硬い。腰が回らねえ。五日もやらないと、人間の体はこんなになっちまうとは…情けねえ。

 それでも、楽しい。体は重たいけど、心が軽い。軽すぎて、弾む。ぴょんぴょん、弾む。

 ゆーだいさんの彼女にはもうなれない。でも、好きでいていいって言ってくれた!

 来週、二人で回る約束をした。それまでに本調子に戻さねば。冬のラウンドは初めてなんで色々教えて欲しいって言われた。色々教えてあげよっと。そんで、焼肉食べながら反省会するんだ!

 楽し過ぎて、気がつくとあたりは真っ暗。体はボロボロ。

 今夜ほど、眠れる夜はないだろう。


「…惜しい…」

 ゆーだいさんが残念そーに呟く。

 おっかしいなあ。パットがちっとも入らねえ。

 ラインは見えてる、と思う。だけど、そのラインにボールが全くハマらない。ラインを読まない上りの強めのパットは問題ない。だけどカップ一個分以上の曲がりのあるパットのラインにボールが全く乗らないのだ。

「ドライバーもアイアンも、調子良いのにな。」

「何それ、俺が買ってやったヤツは調子いいじゃん、ってか?」

「んぐっ そんな訳じゃ… あ、何ならパター、買ってあげようか?」

 一瞬、舞い上がる。のだがー

「んー、大丈夫。あと三ヶ月あるし。明日から死ぬほど転がすぞおー」

 パターも、死んだ父ちゃんの遺品な訳で。そう簡単に別のに替えるわけにはいかない。

 パットはアタシの得意なのだ。今までパットで苦しんだり考えこんだりした事がない。なので、これ程重症なのは初めてだ。今日なんか、2メートルを三回も外した。それも素人みたいな外し方で…

「ちょっと俺のパター使ってみない?」

 ゆーだいさんのパターはオデッセイのトリプルトラック。最近流行りのツーボールタイプ。有り難く使わせてもらうけど、やっぱ、アカン。父ちゃんの残してくれた、このスコッティキャメロンのスタジオセレクトに勝るパターは考えらんない。

「あんがと、ま、明日から何とかするわ。さ、日沈んじゃうし、次行ってみよー」

 空元気を出し、日暮れの西の空を眺める。薄い雲に光が透けて橙色の光が目に差し込む。冷たい風にちょこっと体を震わせる。

 少し不安になり、ゆーだいさんの後ろ姿を目で追う。その広くて力強い背中に少しホッとし、残り3ホールの気合が入る。


 二週間ぶりだな〜ゆーだいさんとのお食事っ

 今夜もいつもの町で二番目の焼肉屋。今日なんかアタシの顔を見た店員が注文の途中で、

「ライス先持ってきますねー」

 なんて言ってくれちゃって。アタシ、ひょっとして、顔?

 毎度、アタシはお腹いっぱいにならないと、人と会話出来ねえ。特にゆーだいさんとの食事はそう。上ハラミ、上カルビ、その他諸々をコメでかき込み、そこそこ腹が落ち着いてからちゃんとした会話が始まるー

「でもさ、みなみちゃんパターにそんなこだわりがあるとは思わなかったわ。だってドライバーもアイアンも、普通に使いこなしてたから」

「まあね。ぶん回す奴って、案外なんでもいいのかも。だけど、パターはあかんわ。使い慣れた奴じゃないと、上手く転がせんわ」

「そんなものなんだ… でも、一体何がアレなんだろう… スイング? タッチ?」

「どーなんだか。まー、五日もサボってたから、そのせいかも」

「五日転がさないと、タッチが狂うんだ?」

「かもね、四月からこんなにサボったの初めてだから。誰かさんのせいでえー(笑)」

「おい。それ言うか。じゃあ、しばらくしたら復調するのかな?」

「うん。ぜってー元に戻すっ」

「おう。期待してるぞ!」

 今夜も元気を、ありがとね。


 だけども…

 昨日も今日も、なんかしっくり来ねえ、良太さんに見てもらったけど、

「うーん、別に姿勢とかテークバックは問題ないと思うよ。やっぱりタッチのフィーリングの問題じゃない?」

なんて素人以下のアドバイスにブチギレて、ドライバーショットを25ヤードオーバードライブしてやった。

「もー。俺も425に替えるっ 絶対替える!」

 駄々っ子かよ、情けねえ(笑)

 研修生仲間の健人、翔太、特にパッティングに定評のある(?)みうに見てもらったけど、

「右の手首の角度が浅くなってね?」

「左膝が少し流れてるかもな」

「頭の位置が前より左にズレてない?」

 …オマエら。それ、ホントか?

「「「いやーーー、なんとなく…」」」

 コイツら、今年のプロテスト、アカンやろ…

 だが。そういうアタシもこんなパッティングじゃあ、とても二次予選まで進めない。技術的な問題なのか、精神的な問題なのかどちらか全く分からず、それでも一日一日と予選会の日は迫ってくる…


 そーいえば明日。ゆーだいさんがじーちゃんを連れて膝の病院に行ってくれる日だ。じーちゃんは四年前くらいから膝の調子が悪く、全くゴルフが出来ない状態なんだ。最後に一緒に回ったのはアタシが中三の頃かな、

 じーちゃんは昔アマチュアのでっかい大会で入賞する位のゴルフの達人だ、良太さんとじーちゃんはアタシのゴルフの師匠なのだ。

 もし膝が良くなったら、またじーちゃんとラウンド出来る! そう思うといてもたってもいられなくなり、今夜は実家に帰ることにする。

「ったくオマエは、こないだ寮に、戻ったと思ったら、また帰って、きやがった。」

「チゲーし。明日の事が心配だから、戻ってきたんだし」

「バカやろー、ジジイ扱い、すんじゃねえや」

って、アンタジジイだし。リアルに。

「で? 膝の調子、どーなの?」

「んー、あんま、良くねーわ」

「どうなん?」

 母ちゃんに話を振る。

「んー、最近は立ってるのも辛いって。これじゃ仕事も、ねえ…」

 杜氏ってのがどんなハードな仕事か知らんが、じーちゃんから仕事もゴルフも取っちゃったら、余りにかわいそーだよ…

 ちょっと悲しくなったんで、じーちゃんの膝をさすってあげる。じーちゃんはソッポ向いて面倒くさそーにしてるけど。


 翌朝。

「そんじゃ、頼むね、ゆーだいさん」

「ああ。任せて。」

「頼むわよ、ゆーだいちゃん。で、私はだあれ?」

「…美加さん。じゃ、行ってきます」

 大きな溜息ついて車は去って行く。検査は10時からで、結果が分かり次第、母ちゃんに連絡してくれるそうだ。

「ホント、いい奴だわ。アイツ。アンタには勿体ないわ」

「だよ、ね…」

「て事で。私が頂いちゃおうかしら♪」

「おい。もうすぐ人夫なのだが?」

「略奪う〜 燃えるわ〜」

 てな事言いつつ、未だ父ちゃん一筋な母ちゃんな訳だが。

 アタシは去って行くゆーだいさんの黒い車に深く一礼し、じーちゃんの膝が良くなりますよーに、と心の中の神様にお願いした。

「ねーちゃん… なかなかいい男じゃん。ガッチリしてて。」

 大次郎の頭をこずく。

「お似合いじゃねえの、結婚しろよ」

 源次郎を頭をマジで叩く。頭を抱えてうずくまる源次郎を更に蹴り飛ばす。

「な、何すんだよお…」

 コレで二人とも、ゆーだいさんの話をしなくなるだろう。口は災いの元。それをキッチリ体に叩き込んでやるのだ。怯えながら見上がる源次郎に更に蹴りを入れて仕上がる。

 そんなアタシらを眺めながら大きなため息をついた母ちゃんが、

「アンタ、たまには家の掃除、手伝いなさいよ」

「わかってるって」

 と言いながら二人の弟を睨みつけると二人は渋々首をコクコク振ったもんだ。


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