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魔法少女学園の新米教師  作者: もぶ
新任教師は元神童
2/2

無謀で踏み出せば、それは蛮勇になる


 さて、最推しである魔法少女に罵倒されたキーラでしたが、彼は精神的には26足すことの異世界で20歳、今の彼は肉体的にも20歳、いい大人です。

 そんなキーラが最推しに罵倒されたくらいで、その喜びを漏らすでしょうか。


 答えは(我慢できた)です。


 もう分かりやすいくらい感激で震えていますがそれは端から見れば怒りを抑えているようにも見えますし、握りしめたガッツポーズも良いカモフラージュになっています。表情筋を使いきるレベルで歪ませたことで笑顔も隠せています。そしてその歪んだ謎の顔も無駄にキマっています。よっ! イケメンの無駄遣い!

 まぁ見る人が見れば語彙力を失ったオタクの末路ですが、今キーラを見つめる目は人生経験の少ない少女たちだけ。バレることはありませんでした。


 さて、今は朝のホームルーム。残念ですが最初のホームルームというのは自己紹介の時間なのです。声を整え、キーラは教壇で自己紹介を始めます。少女のことは無視して。

 

 来ているロングコートの襟を正して、余裕のある男の表情で。


「私はリンツリー家次期当主……ですが家柄は今は些細なこと。

 

 ()()キーラ・リンツリー。このクラスを受け持つことになった。前任のアスティア先生に変わってね」


「「「えぇー!?」」」


 少女たちは残念そうですが、決まりですから仕方ありません。ちなみにアスティア先生はまだ23歳の元魔法少女の先生でした。なので大人気でした。

 ただ、教会直属の魔法少女だったため、先日の教会デモに参加。完遂して事故死したと言われていた両親と8年ぶりに再開を果たしたので、しばらくお休みになりました。有給ってやつですね。放置されていた実家の掃除とか色々あるらしく、ゆっくりされるそうです。


 このデモはキーラの調査書『教会の使途不明金について』と論文『教会魔法少女の帰属問題』が原因になっていまして、現皇帝が手引きしたものです。いやはや、形振り構わないのは現皇帝の悪いところですが、犯罪が明るみに出るのは良いことですね。


「リンツリー家って確か……御当主が大臣じゃなかったっけ」


「そうなの?」


「「しらなーい」」


 確かにキーラの父、キンドニッチ・リンツリーは帝国の現職大臣です。キーラの天才性に振り回される可愛そうな父親ですね。

 まぁ直ぐに過去の帝国の罪を認めさせて『未來の為に何を残すか』にシフトして現皇帝に進言する辺り、優秀な人ではありますが。


 魔法少女たちが知らないのも無理はありません。魔法少女適性検査は幼少期に行われ、適性有りと判断された子達はみな10歳でこの魔法少女学園に入学することになります。なので世間知らずというよりは()()()()()()()()()()()のですよ。

 もちろん、昔よりは穏やかなものになりましたが、魔法を暴発されては困るのでこぞって送り出すのです。魔法の使い方を教えると同時に戦線にも出す……そんな学園ですが引退した魔法少女たちの勤め先でもあります。なので基本的には男性不可侵、立ち入り禁止な保護区とも言われていますが……。


 キーラは例外でした。


「俺は俺自身の理論を試すためにこの学園に来た。君たちは1年間、俺の理論の実験台になってもらう」


「「「はぁー!?」」」


 これまた挑発的な言い方ですが、仕方がないのです。語彙力を失ったオタクと言うのは大概上から目線になってしまうものです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、キーラは『魔法少女』箱推しなので今目の前にいる魔法少女を見てテンパっているのも事実です。

 そしてキーラは『理論の実験』という名目でこの学園で教鞭を握ることになったのは本当です。それは父であるキンドニッチ・リンツリーとの約束であり現皇帝との契約でもあります。


「ホームルームは以上だ。一時限目は身体測定だ。各自、体育着に着替え保健室に向かえ」


 言うべきことは言ったとばかりにキーラは教壇を降りそのまま廊下に通じる扉を開けようと手を……伸ばせませんでした。

 手の前に青い髪をショートヘアにしたボーイッシュな女の子がドアの前で立ち塞いだからです。


「待って! 実験ってどういう……」


 キッと睨み付けていますがその顔には自分より背の高い男に対する恐怖があります。そして『実験』に対する質問には無言を返すつもりだったキーラが少女を睨み返そうとした……その時、


「ら、『ラピッドブラスト』!!」


「『『ツインソニックスター』』!!」


「『フレイムアロー』!!」


 席に座っていた少女たちが立ち上がり、キーラに向かって魔法を放ちました。詠唱を始めたことはキーラも気づいていましたが、話しかけてきたボーイッシュな子のほうに気を取られて2つのことを忘れていました。


 少女たちはまだ幼く、「()()()()()()()()()()()()魔法を使えない」ということ。

 そしてもう1つは未熟な彼女たちは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということでした。


 目を開け、魔法を解き放った彼女たちは敵と判断したキーラの側にクラスメートがいることに気付いてももう遅いのです。


「ちっ!」 



 ラピッドブラスト、空気を圧縮して放出し、着弾と同時に破裂、拡散させて相手を吹き飛ばす魔法。殺傷力は低いものの魔法完成からの着弾までの速さは風属性魔法の中では一番。

 殺傷力の低い風属性魔法……これは恐らくフィーネ・フーリンの魔法。風魔法を得意としているがクラスメートに模擬戦でも魔法を当てたくないと棄権し続ける少女。俺にさえラピッドブラストを選択。ただし出力、を無意識か意識的にか下げたのか? 遅いせいで問題が生じた。


 ツインソニックスター、こいつは聞いたことがない魔法だ。ソニックスターは風属性魔法に物を風の力で飛ばす魔法があるが……ツイン、そうかライネ・ゼファーとレフィ・ゼファーの双子の魔法か。確か一人ずつだと魔法を完成できないと聞いたな。

 『セルドリス融合魔法論』では一人一人異なる魔力を1つの属性にする魔力融合は不可能と断った上で術式2つを同時に放つことで威力の上がる複合属性と呼ぶべき魔法ができるとしていたが……なるほど、双子だから魔力が似ているのか? 興味深い、詳しく調べたいな。

 向かってくる鉛筆は2本、ほう? ソニックスターは1つしか飛ばせないはずなんだがな。そして鉛鉛筆(可燃物)だったことが不味い。


 フレイムアローは殺傷力の高い火属性魔法だ。魔力を炎に変えて対象にぶつける魔法だが、その際に矢のように貫通性を持たせることで『刺突』と『燃焼』を同時に行う……有史以来最も悪魔を殺した魔法だ。

 これはさっき罵倒してきた子だろうな、確かクレア・フレイだったか。火属性魔法が得意という話だったな。どういう教育を受けたら殺傷力が高い魔法を人に向けて打つような子になるんだ? 外したら普通に火事になるぞ?

 

 で? フレイムアローがラピッドブラストと混ざって威力が上がり? 爆風を伴って燃えた鉛筆が二本迫る? 『セルドリス融合魔法論』にも無い新しい融合魔法の完成を見てしまった。

 ソニックスターで可燃物を打ち、フレイムアローで燃焼させて物理的な貫通性を持たせる……魔法防御力が高いとされる悪魔にも通じそうだ。

 問題はそれが俺に向かってきているということだ。


  

 舌打ちしたキーラは高速で思考を回し、その結果、ボーイッシュな少女を引き寄せます。そして自身の背中で迫る魔法を受け止めました。


 ボンッ!!!


 燃え上がる鉛筆がぶつかり、着弾したことでラピッドブラストが破裂、拡散し大きな爆発音と凄まじい爆風を発生。


 爆風は炎を伴って入り口付近を燃やし、煙が上がります。


「あ、あ……」


 呼び止める勇気が無くて()()()()()()()()()魔法を放った少女は呆然と立ち尽くし……。


「ど、どうしよ」「し、しんじゃった?」


 実験という言葉にムカついたから、それだけなら痛いで済む鉛筆を選んだ双子は動揺し……。


「メ、イ……」


 キーラを怪我させようとした。結果クラスメートを巻き込んでしまった、その事実と自分が殺傷力の高い魔法を選んだこと。火属性魔法が引き起こした爆発という衝撃に恐怖した少女……。


 教育全体が重い空気になり……煙が晴れるのを待つ……いえ、誰も恐怖で動けないだけですが。

 そんな清閑をぶち破るのは()()()


「はっはっはっは!!」


 バサァ! とロングコートをはためかせ煙を払うキーラ・リンツリー。ボロボロと落ちた燃えカスは鉛筆でしょう。キーラの後ろにはボーイッシュな女の子、メイの姿が。見たところ怪我などは一切無さそうです。

 もはや魔法ではなく事象として爆発が起きましたがお構いなしにキーラは野性味溢れる笑みを浮かべています。

 そして口を開き、


「クラスメートのために俺を排除しようとしたその心意気や良し! 他人を守るために力を振るうことは正義だ! 敵に対し力を振るうのは勇気だ!」


 大喜びと言わんばかりに叫んだのです。

 そして、真剣な表情で。


「だが何も考えなければそれは蛮勇と言うものだ。君たちはまだまだ未熟。それがどういうことか分かるか?

 分からなければ教えてやろう。君たちは重要視されていないということだ」


 クラスにいる全員を睨むキーラ。その目には怒りが。魔法を放ったことではなく、何も考えていないことへの憤慨がありました。


「教師に怪我をさせたらどうなるか考えたのか? このクラスは問題児の集まりだ。切り捨てられる可能性がよぎらないのか?

 賢かったのはこの子だけだ」


 メイの頭を優しく撫でるキーラ。話は終わりではないとクラス全員に向き合い、宣言する。


「俺はこのクラスを全員卒業させる。俺の理論の全てを使い、新たに生み出し、誰一人欠けることなく卒業させる。

 お前たちを一人前の魔法少女(ヒロイン)にするのが俺の実験の目的だ」


 実験の目的については黙っているつもりだったキーラでしたが、テンションが上がったのか話してしまいましたね。

 キーラ・リンツリーが求める魔法少女はこの世界にはいませんでした。だったらどうするのか。答えは簡単でした。


 キーラ自身が育て上げる。作り出す。生みの親として生きるしかありません。


「一時限目は身体測定だと言っただろう? さっさと準備しろ。お前たちは学生なんだからな」


 何事も無かったかのように教室を去るキーラ。まだ飛び散った火によってそこかしこ燃えていますが……大きな火事には繋がらないと判断しました。


 状況に置いてきぼりにされた少女たちでしたが、チャイムの音が鳴ってハッとします。そして大慌てで着替え始めます。身体測定は体育担当バルバロッサ・ギガント先生が監督をします。遅刻にはめっぽう厳しく、体罰も問わない先生ですからね。


 爆発音は響き渡ってるのでどの道怒られると思いますが。


 廊下を歩くキーラもぶつぶつと「やばい、教室は直るけど」とか「怪我させられたって言うわけにも……」とか言ってますね。「バルバロッサ先生怖いんだよな……」と同じようなことを考えています。

 さて、他の教員たちにどう言い訳するんでしょうか。初日から爆発ですからね。野望を掲げていても今は雇用されている側、頭を抱えるキーラなのでした。




 



セルドリス融合魔法論

 所謂「1と1を足したら2になるんじゃよ」魔法論。完成した魔法同士を同じ方向に放つと相手に当たるまでに魔力同士が混じりあう。これは魔法には空気中の無色の魔力ともいうべき魔素を引き寄せ術式が崩壊しないようき補おうとする引力があるために、放たれた魔法同士が影響しあうから。

 簡単に言うと水属性魔法と火属性魔法を合わせたら空中で熱湯の魔法になって相手に当たるんじゃよ。というもの。あまり広まらなかったというより皆「で?」みたいな反応になった。

 キーラは「この理論を書くなら強弱を変えて蒸気魔法とかも書くべきでは? 蒸気のほうがエグいのに」と首を捻ったものの暫くして「手伝ってくれる魔法少女とのコネが作れないから論文書いて丸投げしたセルドリスさん正しいわ」となった。

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