プロローグ
私は魔法少女にそれほど詳しいわけではないのですが、書きたくなったので書きます。
ちなみに理論は想像と妄想を形にして異世界という鍋で煮込みます。
魔法。数々の世界に存在する未知なる力。様々な奇跡を起こす魔法を人類たちは喜び、天からの授け物として敬い、使える者には使えない者たちの畏怖の念が向けられていました。
このリヨネスト帝国でも同様でした。
ですがそんな日々はコペルニクス的転回を迎えます。
『悪魔が攻めてくる!
対抗するための力を! 魔法を!
魔法を使える者たちを戦線に加えよ!』
大体700年と少し前。時の皇帝、アレクサンド・リヨネストが前述の勅命を発しました。
まぁ、この皇帝様は後に一人の不敬なる少年によって
『それまで「悪魔」と呼ばれる存在は発見されていなかった。被害もこの時点では無かった。にも関わらず、「悪魔が攻めてくる」と発言しているアレクサンド・リヨネストは何故敵対まで分かったいたのか。信憑性が低い皇帝の発言を時の大臣3人までもが疑うことなく信じたのか。
その時代のあり得ないほどの金山鉱山の採掘量と地盤への影響。その金山鉱山が魔素の多い地域、すなわち竜脈に近いということから考えると。帝国が不当に労働者を集め採掘をさせ続けて富を得ていた。そしてその結果、竜脈に含まれる多量の魔素を体表から摂取したか口腔摂取したことで人類が変容したのが「悪魔」のオリジンではないか?
この事は酷く衰弱した人間が魔素を吸収し過ぎると体表が硬質化したり黒く変じる「魔素過剰摂取病」から「悪魔」の壁画との類似点が上げられ、更に「魔素過剰摂取病」患者は精神が不安定になり発狂しやすい。また命が枯れるまで暴れてしまうことからも「悪魔」との強い関連性を感じるのだ』
と黒幕説が上げられましたが、「悪魔=神の敵」と教義に追加して信仰を集め、魔法使いを養うという名目で寄付を募っていた教会によってその論文は棄却、焼却されてしまいました。今から8年前のお話ですね。
まぁ、後に誰が何と言おうとも、その時代の人々は悪魔の侵攻に対し迎撃を望みました。そのために多くの魔法使いを集めました。
ちなみに今更、本当に今更ですが。
魔法が使えるのは第二次性徴を迎えた少女たちだけです。
男は論外です。大人は魔法を使えませんし、小さすぎる子供も使えません。そして二十歳を越えると魔法を使えた少女たちも段々とその魔力を失っていきます。
必然、戦えるのは少女たちだけ。
「神に愛された少女たち」はそれまでの平和な、優越感すら感じた日々から一転、「神に選ばれた戦士たち」になってしまいました。
こうなると大人というのは汚いもので。
『お前! なんでこの村を見捨てやがった!』
『さっさと戦いに行け!』
『怖くて逃げて帰ってきた? ふざけんな! 今までタダ飯食ってたガキが戦う以外に何ができるんだ!?』
とまぁ、罵詈雑言を浴びせ、帰ってきた少女たちを迎え入れることもなく、世界は悪魔と少女たちの戦いを強制し続けました。
きっとこの時に彼がいたならば、世界は滅びを迎えていたでしょう。たらればに意味はありませんが。
後に悪魔の多くは厳重に封印され、少女たちにも緩やかな時間が流れることになります。
ですが頼れる人はいません。親とは縁を切らなければ教会に住むことができない……いえ、住むことが許されなかったからです。
後に一人の少年によって
『親がいると少女たちが集められない。富も分散してしまう。家具職人たちの景気の上がり方から察するに最初は豪華な家か部屋で集めようとしたんだろうが上手くいかなかった。結果半ば強制的に戦場に縛り付け家や村に帰れなくした。
そして野宿かはたまた豚小屋か、悪環境を押し付けて衣食住で釣ったんだ。ここ、帝国付近の長い歴史のある牧場に不審な文字が壁に彫られている。それも何軒も同じ、古帝国語で「死にたい」という文字がな。
胸くそ悪い、これだから教会は嫌いなんだ。この潰れた教会の地下には対悪魔戦線第Ⅰ期時代の人骨が大量に埋まっていた。男も女も大体同じ数な。そういうことだろう?』
と論じられましたが教会は握りつぶしました。これは3年前くらいのことですね。
さて、ところ変わって現代。
悪魔も世代交代を繰り返し、未だ小競り合いは続いているので平和とは言えませんが。少女たちは比較的穏やかに過ごしています。
そんな現代にある少年が生まれ落ちました。名をキーラ・リンツリーと言います。
異世界転生。
について詳しく説明すると面倒なので概要だけ。
平凡なオタク、平賀賢成は死にました。
そして彼は前とは違う世界でリンツリー家の赤ん坊になりました。そしてキーラと名付けられます。
平凡な彼はとりあえず勉強しました。才能があったというと語弊がありますが……それでも彼は世間に認められる程に勉強をしました。本の虫と蔑まれ、図書館の魔を知り尽くした者と呼ばれ、魔法学術を変えた神童とまで吟われる程、彼の評価は転回を迎えました。
その結果良い大学を出ることができました。首席卒業はオールマイティーな分野ができないといけなかったので無理でしたが、ある分野だけは他の追随を許さないほど圧倒的で。尋常ではないほどその分野に固執していて。他の分野でも二位を取り続ける程度にはその分野のためだけに勉強をしていたのでした。
先程語っていた論説は全て、彼が大学在学中に書き起こした物です。それも確かな物証と現地調査と歴史的文献を全て読破した上で。
既に教会への非難と疑念の目は現皇帝が抑えられるレベルを越え、調査の手が伸びました。まぁ、現皇帝もお家の過去の不祥事から目を反らしたかったのでしょう。アレクサンド皇帝はもはや大罪人ですからね。キーラの論文が原因ですが。
さて、彼はめでたくこの春、学校の教師になりましたが、早速ですが波乱の幕開けです。
「薄汚い冴えない男がこの学園の教師?
気持ち悪いのよ!」
まだ13歳の少女に初日から罵倒されました。それを周りの少女たちも怯えたような目付きで眺めるだけ。その怯えは二種類。教師である彼に向けられた不信感と、罵倒した少女に対する恐怖です。
他の教師たちの『問題のあるクラス』という言葉の意味を彼は理解しました。
でも大丈夫。
彼は魔法少女が大好きだから!!
ここは国立魔法少女学園。
彼の天職とも言える聖地でした。
ああ、言い忘れていましたね。
これはキーラ・リンツリーが自身の正義感とオタク心を駆使して、魔法少女が死なない世界を作る物語です。