自殺嘆願書
自分なりに「どういう話なら怖いって思うかなぁ」と考えてできた話。
やっつけで低クオリティが否めませんが、少しでもゾクッとしてもらえたら幸いです。
私が通っている高校の最寄り駅である酉之瀬駅には、非常に不名誉かつ恐ろしい噂がある。
『毎月14日に必ず飛び込み自殺が起きる』
馬鹿な話だと思うかもしれない。
「たまたま14日に飛び込み自殺が重なる事があって、それを大げさに脚色でもしたのだろう」なんて普通は考えるものだろう。
だが、私がその噂を恐ろしく思うのは、それが真実だと知っているからだ。
私が高校生になって、今の高校に通うようになってから一年と数ヶ月。
その間、確かに酉之瀬駅では毎月14日の飛び込み自殺が続いていた。
一体、どうしてそのような事態が続くのかは定かではない。
飛び込みをする人間が示し合わせた形跡もないし、そもそもそんな事を示し合わせる意味が分からない。自殺者の半数近くが所属する生徒である我が校でも、自殺した生徒の素行調査などを行ったが、むしろ謎が深まるばかりであったという。
イジメに遭っていた。学業の低迷、将来への不安に悩んでいたなど、分かりやすい理由が窺える生徒なら話は簡単だ。学校の教育環境についてなど問題はあるだろうが、自殺自体に対しては謎などない。話としてはそこで終わりである。
問題なのは、自殺の理由がまったく分からない生徒だ。
クラスの中心人物で、友達に囲まれて日々を明るく楽しく過ごしていた生徒。
学業優秀で将来を嘱望されていた生徒。
部活動のエースであり、その道のプロとなる事を期待されていた生徒。
期待と希望に満ちた生活を送っていた生徒が、何の脈絡もなく唐突に自殺に走る。そんなケースも幾度か含まれており、周囲の人間を大いに困惑させていた。
何らかの犯罪グループによる連続偽装殺人などという説もあったが、当然ながらそんな存在は影も形も見えず、信憑性のない単なる噂に過ぎなかった。
何故、自殺するのか?
どうして決まって14日に起こるのか?
理由がまったく解明されないまま、ただ様々な噂だけが独り歩きしている状況だった。
そんな恐ろしい噂に恐怖を覚えながらも、毎月の事なので徐々に麻痺してきていた――そんなある日の事だった。
親友である田上ユキが、私にこんな話をしてきたのだ。
「ねぇ、マリちゃん。『自殺嘆願書』って聞いた事ある?」
「……何それ? なんか、名前からして不吉そうだけど」
また新しい怪談話の類だろうと私は思った。
ユキはおっとりとした性格に似合わず、そういう怖い話が好きなのだ。私自身もそういった類の話は嫌いではないので、ユキが仕入れてきた怪談や都市伝説の話で盛り上がる事も多かった。
そんな毎度のノリを期待していた私に、ユキは続きを語るのではなく、黙って自分の携帯を差し出して見せた。
少々困惑した私だったが、とりあえず差し出された画面を覗き込んでみる。
そこには一通のメールが開かれていた。
『自殺嘆願書』
『来る14日に贄となるべき人物の名を答えよ』
短く、それだけ書かれたメールを見て、私は怪訝な声を上げた。
「……なに、これ? チェーンメール?」
チェーンメールとは、言ってしまえば不幸の手紙のメール版である。
届いた人間にメールを送る事を強要するような文面がないので厳密には違うのかもしれないが、顔も知らない相手を怖がらせようという底意地の悪さは共通している。
「14日って、酉之瀬の飛び込み自殺? あれに関連付けたイタズラって事? ……趣味悪い」
私は吐き捨てるようにそう言った。
悲惨な事故や事件に便乗犯が出るのはよくある事だが、間近で起こっている人死にの事件をネタにされるというのは気分が悪い。
送られてきた文章にしても、あまりに簡素簡潔過ぎて怖がらせようという気概を感じない。酉之瀬の飛び込み自殺は有名だからという驕りからかもしれないが、そもそもあの一連の事件を知らない相手にはまるで意味が通じないというのは大きなマイナスポイントだ。そういう身内の間だけでしか考慮されていない杜撰さはどうかと思う。
趣味が悪い上にチェーンメールとしても粗悪。簡潔に言って、センスが感じられないとしか言いようがない。
「不謹慎な上に内容も雑だし、褒められたもんじゃないわね。最近、酉之瀬の話を知った愉快犯が便乗しただけでしょ。くだらない」
そう言って話を切り上げようとした私だったが、そこにユキが食い下がってきた。
「それがね。このメールって、ずっと昔から出回ってたものらしいの。いつからかは分からないけど、私達が高校生になる前から出回ってるのは間違いないみたい」
イタズラと決めつける私に対して、ユキの様子は真剣そのものだ。
「色んな人に聞いて回ってみたんだけど。このメールを貰った人も、大半はマリちゃんみたいにイタズラだって相手にしてなかった。でも、中にはこのメールは本物だって言う人もいて――」
熱に浮かされたようにユキが語り続ける。
何故だか、私は酷く不安な気持ちになった。
「その人はクラスの中心グループからイジメを受けていたらしいの。それで、ある日届いた嘆願書に、イジメグループのリーダー格の人の名前を書いてメールを送り返したんだって。そしたら――」
ああ、その先のオチは想像がつく。話の流れからして、その先で起こり得る事象は一つしかない。
「次の14日。そのリーダー格の人は、酉之瀬で電車に飛び込んで自殺したそうよ」
つまり、このメールは嫌いな相手を飛び込み自殺させる呪いのメールだと言いたい訳だ。
どこのどいつに話を聞いてきたのか知らないが、手の込んだ仕込みだ。その話をした人間こそメールの出所ではないだろうかと疑いたくなる。
「さながら現代の丑の刻参りってワケ? いつの時代も根強いのね。そういう話は」
恨みつらみは社会の常だという。
そういった表立って晴らせない思いを晴らす場を求める心が、こういった話を生むのだろう。
言ってしまえば定番の怪談話だ。十の怪談を集めれば、そのうちに一つ二つ混ざり込んでいそうな、よくあるタイプの話である。
「人を呪い殺したいって欲求は、皆――」
「――違うよ」
私の言葉を遮って、ユキが呟いた。
静かに囁かれたような一言。だけど、その言葉には有無を言わせぬ迫力があった。
「確かにそういう使い方もできる。でも、このメールは本来誰かを呪い殺す道具じゃないって、私はそう思うの。だって、自殺嘆願書でしょ? このメールは、自殺したいって乞い願うためのものなんだよ」
自分の携帯電話に目を落としながら、ユキが言う。
その目は異様な熱を帯びているように見えた。まるで恋する乙女か何かのようだ。
『ただのイタズラメールでしょ』
そう言ってやりたいのに、言葉が出てこない。
「このメールに書かれた人はね。穏やかで、幸せな気持ちのまま死ぬ事ができるんだって。自殺するのってすごく怖いのに……。どれだけその気になっても、いざという時になると足が竦んで動けなくなっちゃうんだよ。迷って、怖くて、結局死ねなくて。そんな自分が惨めで、辛くて、何もかも呪いたくなる。それなのに、幸せに死ねるってすごい事だよね」
その言葉に、どう答えたらいいのか、私には分からなかった。
――何か。何か、言わないといけない。
そう思っているのに、何一つ言葉が出てこなかった。
ただ一つ、確かな事は彼女をこの話から遠ざけなくてはならないという事。
そうでなければ、何か取り返しのつかない事が起こるという確信めいた思いだけはあった。
「ねぇ、マリちゃん。良かったらこのメールについて一緒に調べてくれないかな? 私、このメールについて、もっと詳しく知りたいの」
振り向いたユキの目からは、心なしか光が消えているように見える。
どこまでも深い闇を見せられているような目。
底なしに昏く、何一つ感情を窺い知る事ができない瞳。
そんな彼女の目が、心の底から恐ろしいものに思えた。
「……ゴメン。最近、部活で忙しくてさ。次の大会では結果を残そうって皆で言ってて……。だからほら、今は強化週間なんだよ」
嘘だった。私が所属している陸上部は緩い気風の部活である。結果についてとやかく言うような事はないし、強化週間などいまだかつて行われた事はなかった。
私の嘘をユキがどう思ったかは分からない。ただ一言「そっか。変な事頼んでゴメンね」とだけ言うと、それ以降は何かを言い出してくる事はなかった。
結局、その後二人の間に会話はほとんどなく、気まずい空気を抱えたまま別れる事になった。
新しくできたクレープ屋とか、ユキも好きな音楽グループの新作CDを買った事とか、話そうと思っていた話題は沢山あったはずなのに、何一つ言葉にする事はできなかった。
無言のまま電車に乗り続け、目的の駅に着いたので私が先に降りた。もしかしたら「またね」の一言くらいは言ったかもしれないが、よく覚えていない。
ただ、彼女の視線――感情を一切映さない、昏く沈んだその瞳だけは、いつまでも記憶に残り続けていた。
その日から、私はユキを避けるようになっていた。
ユキに会えば、またあのメールについて一緒にに調べて欲しいと頼まれるかもしれない。
嘘をついて断るのにも限度がある。親友をあの不穏なメールから遠ざけるためには、会わないようにするのが一番だというのが私の判断だった。
――だが、そんなものはただの建前だ。
本音を言えば、私は怖かったのだろうと思う。
あの時彼女が見せた、底知れないあの目。
熱に浮かされたような調子で語る彼女が、自分知っているユキとは別人のように感じて、堪らなく恐ろしかったのだ。
自分の部屋でベッドに身体を預け、私は取り留めもなく天井を眺めていた。
今日は13日。即ち、明日は酉之瀬で誰かが命を絶つ日だという事。
勿論、それは何の根拠もない話ではある。だが、今日まで一度の例外もなく続いている自殺である。それが唐突になくなるとは考えづらかった。
――きっと、明日も誰かが死ぬのだろう。
あの駅で。鉄の塊に撥ねられて。
私はユキに見せられたメールを思い出していた。
『自殺嘆願書』
書いた人間を自殺させるというメール。
ユキは、それを自分を殺すためのものだと言った。
どこで聞いた話なのか、穏やかに自殺ができるというそのメールに、尋常ではない執着を見せていたのだ。
寝返りを打って、俯せになる。
枕に顔を埋めて、胸の内のどんよりとした空気を吐き出すように唸った。
ユキは自殺したいのだろうか?
私とユキは親友と言って差し支えない間柄だと思っているのだが、私はユキについてあまり多くを知っている訳ではない。ユキはあまり自分を出さない性分であり、悩みや辛かった出来事などの弱みを絶対に見せようとはしてくれなかった。
もしかしたら、私が知らないだけで、ユキはとてつもなく大きな悩みを抱えているのかもしれない。だとすれば親友としては、それを見ないままにしておくというのは随分と非情な事に思えた。
明日はユキに会って、詳しく話を聞こう。
異様な雰囲気に圧されて避けてしまったが、ユキは親友だ。悩みがあるなら相談してほしいし、力になりたい。その想いは確かなものだった。
例えユキが頑なに口を閉ざしても無理矢理に口を割らせてやる。
そんな決意をした所で、不意に奇妙な重低音が部屋に響き渡った。
机に置いていた携帯電話が振動した音だったらしい。手に取って確認すると、メール着信の知らせだった。
送信先のアドレスに見覚えはない。だけど、メールの件名には覚えのある文字が並んでいた。
『自殺嘆願書』
心がざわついた。
数日前にユキに見せられた物と同じメール。私の悩みの元凶。
それが、私の携帯にも届いたのだ。
――嫌な予感がした。
自分でもよく分からないが、このメールを見た瞬間、氷の塊を飲み下したような寒気を感じたのだ。
震える指でメールを開く。
そこには以前見たものと同じ――ではない。同じように短く簡潔だが、別の文が書かれていた。
『明日の贄は 田上ユキ に決まりました』
翌日、私は普段よりも一時間早く家を出た。
あのメールを見てから、私は何度もユキに連絡を取ろうとしてみた。だが、電話をかけようがメールを送ろうが、ユキからの返答は一切なかった。
こうなれば、もはや現場となるであろう酉之瀬で待ち構えるしかない。ユキの家へ直接赴く事も考えたが、万が一入れ違いになってしまえば取り返しがつかなくなる。確実にユキを捕まえるには、現場の酉之瀬で待ち構えるべきだと私は判断した。
家を飛び出し、自宅の最寄り駅まで駆ける。
何か起きるはずもない。そもそも、あんなのはただのイタズラメールなのだ。ユキの名前が書かれていたのだって、単なる偶然か、何かの間違い。真に受ける方がどうかしている。
頭の中で何度も自分にそう言い聞かせるが、その度に私の足は速さを増していく。
心臓が今にも弾け飛びそうに早鐘を打つ。呼吸すらままならず、喘ぐように浅い呼吸を繰り返した。
――陶酔した表情で自殺嘆願書について語っていたユキ。
――昨日の『贄は田上ユキに決まりました』というメール。
悪い想像を、どうしても頭から振り払う事ができない。むしろ振り払おうとするほどに想像が確かなものとなっていく。
騒ぎ立てる群衆。飛び散った肉片と血痕。そして、線路には無残な姿に成り果てたユキが――
頭を振って思考を止める。どうしても悪い想像しかできないなら、何も考えるべきではない。
今はとにかく駅へと急ぐ事だと、私は自分に言い聞かせて先を急いだ。
酉之瀬に着いた私は、すぐにホーム全体を見回してユキの姿を探した。
幸いと言うべきか、ユキの姿は見当たらない。特に騒ぎが起こっていない事を考えれば、まだ飛び込みは起こっていないと考えて良いだろう。
手近な所に据え付けられたベンチに座り、私はホーム全体を監視する事にした。
普段の登校より一時間も前に出てきただけあって、駅の様子は普段見ているものとは大きく違う。利用している人はまばらで、あと数十分もすればサラリーマンや学生の姿でごった返す場所とは思えないほど静かだ。
一度席を立ち、近くの自販機でスポーツ飲料を買ってベンチに戻る。乾いた喉を潤し一息つくと、先程まで早鐘のようだった心臓や呼吸も幾分か落ち着いてくれた。そのまま深く腰掛けて、待ち人の姿を探し続けた。
十分、二十分と時間が流れていくにつれて、徐々に酉之瀬の光景が普段見ているものに近づいてきた。人の姿が増え始め、静かだった構内に喧騒が生まれ出す。
残念ながら、いまだにユキの姿は見えない。できる事なら駅が混雑する前に見つけたかったのだが、そう上手くはいかないみたいだ。
五十分を過ぎる頃には、酉之瀬は私が知っている通りの光景になっていた。
ベンチに座って周囲を眺めていた私だったが、この人混みでは視認性が悪い。そろそろ場所を変えた方がいいだろう。
空になったペットボトルをゴミ箱に捨てる。どこへ行けば周囲を見渡しやすいか考えながら、立ち上がった私は――
そこに、探し人の姿を見つけた。
向かいのホームの最前列。
先程まで、確かに私が見張っていたはずの場所。
そこに、まるで唐突に現れ出でたような不自然さで、ユキが立ち尽くしていた。
ホームにアナウンスが響く。
通過電車の到来を告げる報せ。
瞬間、私は踵を返して走り出した。
周囲の人混みを突き飛ばすように押し退けて階段を目指す。
隣のホームまで全力疾走でおよそ三十秒。人混みを掻き分ける事を考えれば、最低でも倍の時間はかかるだろう。僅かな時間ではあるが、今の私とユキの間では致命的な隔たりに思えた。
階段を二段飛ばしで駆け上がり、連絡橋を駆け抜け、再び二段飛ばしで階段を駆け下りる。
途中、掻き分けた人達から軽蔑するような視線を向けられたが構っていられない。
一秒でも早くユキの元へ辿り着く。私の頭にあるのはそれだけだった。
向かいのホームに降り立ち、ユキの姿を探す。
先程と変わらぬ位置。皆がアナウンスの指示に従い僅かに後退する中で、ユキだけは変わらず最前に立ち尽くしていた。
――距離はおよそ五メートル。
雲海のごとく立ち塞がる群衆を必死に掻き分け前へと進む。
――四メートル。
押し退けた人が何事か叫んでいたが、構う余裕はまったくない。
――三メートル。
ホームに到達しようとする電車が視界に入る。
――二メートル。
間近にユキの姿を捉えた。引き戻そうと必死に手を伸ばす。
――一メートル。
あと少し。あと少しで手が届く。
祈る様に伸ばされた腕の先で、ユキが振り向いた。
視線が交差し、互いの姿を認め合う。
旭光に照らされたユキの顔。
それを見た瞬間、必死に伸ばしていた腕を僅かに引いてしまった。
一瞬の躊躇い。だが、今この瞬間においては致命的な過ちだった。
届くはずだった私の腕。指先から零れ落ちるように逃れた彼女は、そのまま線路の方へ身を投げる。
そして私の目の前で、血飛沫と共に、私の親友はただの肉塊へと成り果てたのだった。
あれから数ヶ月が経った。
ユキの葬儀に参列し、中を見る事もできない棺を見送って別れを済ませた。
親友のいない空白に馴染めないまま日常に戻り、淡々と日々を過ごしていく。
無味乾燥に過ぎる時間を、私は魂が抜けたように呆けて過ごした。
ユキが自殺したあの日、何かが決定的に終わってしまったように感じた。だが、そう思っているのは私だけのようだ。
日々は何も変わらない。初めはユキの死に騒めいたクラスメイト達も、一週間もすれば元通りとなった。花が置かれ、異質な存在感を放っていた彼女の机も、一週間が経つ頃には日常に溶け込み、一月経つ頃には撤去されて存在そのものが消えてなくなった。
酉之瀬の自殺も相変わらず続いている。
まるでそれも当たり前の日常だと言うように、毎月14日には誰かの命があの駅で消えている。
彼女の死も、日常の中のイベントの一つに過ぎないと言われているような気がして、吐き気がした。
今でも、私の瞼には彼女の最期が焼き付いている。
目を閉じると鮮明に映し出される、その光景。
伸ばした腕と、その向こうで振り向いた、彼女の表情。
穏やかで、苦しみから解き放たれたような幸せな笑顔。
どうして、そんな顔をしていたのだろう。
どうして、そんな顔ができたのだろう。
空っぽになった私の頭には、そんな想いだけがこびりついていた。
ふと、携帯電話を手に取る。
あの日以来、自殺嘆願書と銘打たれたメールは、何度か私の元に届いている。
一度はくだらないイタズラだと鼻で笑ったメール。だが、今となっては私とユキを結ぶ最後の絆のように思える。
ユキは言っていた。
自殺嘆願書を使えば、穏やかな気持ちで死を迎える事ができると。
あの時見せた彼女の笑顔も、このメールによるものだと言うのなら。
このメールを使えば、彼女と同じ気持ちを抱けるのだろうか?
メールを開く。
そこには、いつか見たものと全く同じ、短く簡素な文のみが書かれている。
『来る14日に贄となるべき人物の名を答えよ』
震える指で、私は自分の名前を書いたメールを返信した。